春宵十話 (1963年)

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感想・レビュー・書評

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  •  皆さんは「岡潔 (おか きよし)」という名前を聞いたことはありますか?
     数学を学んでおられる方は聞いたことがあるかもしれません.ですが,ほとんどの方は聞いたことがないのではないでしょうか.
     岡は日本を代表する数学者であり,「多変数解析函数論」とよばれる数学の一分野にて大きな功績を残した偉大な数学者です.そして岡は数学者でありながらも,多数の随筆・著作を残した文筆家・俳人としての側面を持っています.岡についての詳細はググってみてください.様々な情報を手に入れることができるでしょう.そのくらい偉大な人物なのです.今回ご紹介する書籍は,岡の代表作とも言える「春宵十話」です.
     岡の著作全体に言えることではありますが,この書籍は数学者である岡の作であるにもかかわらず,様々な分野の人に勧められる本になっています.というのも,この本では数学のお話が出てくるのではなく,文学者・教育者としての岡の論が紹介されているからです.
     具体的には,学問をする人間の根幹をなす「情緒」の重要性,そしてこの情緒を育むためにはどうすれば良いのか,情緒と論理的思考の関係性といった話題から始まり,人の精神的・肉体的成熟の関係性,早熟・晩熟が情緒にどう影響するのか,日本民族としての学び・情緒など教育・学習に関する岡のさまざまな意見を知ることができます.
     私の専門は数学ではなく,環境科学です.しかし,この本を読み,岡という偉大な学者の考えに触れたことで,将来子供ができたならばどう育てるか,どう育ってほしいか,岡が考える現代社会の問題点,そして何よりも,自分の学問に対する姿勢を深く考えることができました.
     例えば教育とこころについて,近年グローバル化が流行り,生まれ育った環境がどうであろうと人類みな同じ,民族で区別するのは差別につながるという考えがあるかもしれません.確かに生物学的に見れば人類は皆Homo sapiensというひとつの種に分類されます.しかしながらあなたが日本で日本民族として生まれ育ったのならば,他の諸民族とは異なった,こころのあり方があるはずです.そのこころのあり方を考えず諸外国の教育制度,学習方法をそのまま日本に輸入することは果たして道理にかなったことでしょうか?
     あくまでこの書籍紹介は私が読んで感じたことをまとめたものです.この紹介文を読んでくださったあなたも,ぜひこの書籍を読んで,自分に問いかけ,自分なりの考えを持つのは如何でしょうか?
     繰り返しになりますが,この書籍はどんな人にでも自信を持って勧めることができます.偉大な学者の著作から,自分の意見を探し出すという営みは,答えがなく,ずっと続くものかもしれません.しかしこのようにして得たあなたの考えは生涯に渡って,あなたをあなたたらしめるものになるでしょう.
     深く考えたいあなた,ぜひご一読あれ.抜け出せなくなりますよ.
    (ラーニング・アドバイザー/環境科学 SASAGAWA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/opac/book/983275

  • 情緒を重んじる教育。黒板もノートも使わない数学教育。
    どんな教育なのか、もう少し具体的に聞きたい。
    大学での学生教育はどうであったのだろう。
    誰か弟子の書き物はないか。

  • 『人は動物だが、単なる動物ではなく、渋柿の台木に甘柿の芽をついだようなもの、つまり動物性の台木に人間性の芽をつぎ木したものといえる』―『人の情緒と教育』

    岡潔の文章の意味するものの受け止め方について逡巡する。西洋的な考えの先に仏教の教えるところを見出した数学者の言うことは、なるほどとても興味深く、覚醒という言葉の意味を改めて教えられた気になる。だが言葉が強い。強過ぎる。弱者への視点が抜けている。余りに価値観の拠り所が自己中心的ではないか、そのような強い言葉で繰り返し説かれると偉業の影が薄くなるようにも思えてならない。

    とは言え繰り返し指摘される教育の問題、それに対する著者の態度は真摯である。旧制高校への強い郷愁はあるにせよ。もちろん、戦前の教育の在り方の全てが悪い訳でも、戦後の教育制度の全てが間違っていた訳でもないだろう。人が人を教え、教えた人を超えていく連鎖は理屈でも等価交換でもなく、制度に帰する問題ではないのだと思う。更に言うなら、如何なる制度の基においても優れた人は生まれ出て来る。教育は環境と伴に変化せざるを得ない、大いなる実験だとも思う。それ故に実験条件を安易に変え過ぎるのは良くない、そして安易に結果を求めるのは誤りだ。岡潔の主張を柔らかく読み直すならそう言うことになるのだろう。

    しかし特攻の精神を日本人の美意識に還元したりする論が展開されるのを目の当たりにすると、暫しその言明の先行きを見定めてからでないと読み進められないとも思う。軍国主義には強い否定を表明する岡潔だが、その考え方の底にどこかしら全体主義的なものの見方が見え隠れする。行き過ぎるとそれが差別的なものの言いようになり、選民思想的な響きを伴うので思わず眉を顰めたくもなる。

    数学者の追い求めるものが美であって、それ以外のことに頓着しないのは、ある意味で見上げた態度だと思うけれど、人と交わらずに悟る真理に何程の意味があるのだろうとも、やはり思う。善という意識もまた人に備わった特徴である筈で、科学の生み出すものが善とは言えない使われ方をしたとしても、その人間の持つ野性的な本性を規制する事ができるのも善に帰する人の情緒と思うのだ。そんなじれったさを感じつつ読了する。

  • 作者は日本の代表的な数学者である。
    彼の考える日本については、現代にも応用できることがある。
    空いた時間に読む本と、時間をかけてゆっくり読む本があると思うが、岡潔著の本は後者であると思う。
    私も、時間があればもう一度読みたい。
    請求記号:914.6 || O36
    以下、春宵十話からの抜粋。


    よく人から数学をやって何になるのかと聞かれるが、私は春の野に咲くスミレはただスミレらしく咲いているだけでいいと思っている。咲くことがどんなによいことであろうとなかろうと、それはスミレのあずかり知らないことだ。咲いているのといないのとではおのずから違うということだけのことである。私についていえば、ただ数学を学ぶ喜びを食べて生きているというだけである。そしてその喜びは「発見の喜び」にほかならない。

    種子を土にまけば、生えるまでに時間が必要であるように、また結晶作用にも一定の条件で放置することが必要であるように、成熟の準備ができてからかなりの間をおかなければ立派に成熟することはできないのだと思う。だからもうやり方がなくなったからといってやめてはいけないので、意識の下層にかくれたものが徐々に成熟して表層にあらわれるのを待たなければならない。そして表層に出てきた時はもう自然に問題は解決している。

  •  
    ── 岡 潔《春宵十話 19630210 毎日新聞社》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B000JAJ4LC
     
    …… 道元禅師は、はじめ「身心を挙して色を看取し、身心を挙して声
    を聴取せよ」といっているが、それがすんだらこんどは「身心を挙して
    色を聴取し、身心を挙して声を看取せよ」といっている。(P177)
    <PRE>
     道元 禅師 曹洞宗開祖 12000119 京都 12530922 52 /正治 2.0102-建長 5.0828
     岡 潔      数学 19010419 大阪 19780301 76 /奈良女子大学名誉教授
    /毎朝プラスの日とマイナスの日を宣言した/不調の朝に起されると“非国民”と怒った。
    </PRE>
     
    (20161217)
     

    • adlibさん
       
      …… われわれは、飛行機や新幹線に乗って、揺れるとか遅いとか、は
      てはサービスが悪いとか、文句を言えるようになった。
      http:...
       
      …… われわれは、飛行機や新幹線に乗って、揺れるとか遅いとか、は
      てはサービスが悪いとか、文句を言えるようになった。
      http://q.hatena.ne.jp/1482595435#a1261011(No.5 20161227 05:48:17)
       ナッツ・リターン ~ 歴史は繰返せない ~
       
      2016/12/27
    • adlibさん
       
      ── 岡 潔《春宵十話 19630210 毎日新聞社》
      http://booklog.jp/users/awalibrary/ar...
       
      ── 岡 潔《春宵十話 19630210 毎日新聞社》
      http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B000JAJ4LC
       
       Oka, Kiyoshi 数学 19010419 大阪 19780301 76 /籍=19010319/和歌 SV-?
       
      …… わたしは一九〇一年四月十九日に生まれ(しかし父は三月生まれ
      に届を出して、七つから小学校にやらせた)中学校の入学試験に一度落
      第して高等小学校一年から中学に入り、中学五年から高等学校に入って
      大学を出た者である。年は例外なく数え年でいうことにする。(P114)
       
      ── 《天才を育てた女房 世界が認めた数学者と妻の愛:岡夫妻の人生
      を、妻である岡ミチの目線で描いた 20180223 読売テレビ・日本テレビ》
      開局60周年記念ドラマ。
      https://www.hulu.jp/the-formula-of-michi-and-kiyoshi/?
       
      …… アイデアが浮かぶと地面に図形・数式を書き始める。
      「マイナスの日」は布団から出ない。それでも妻みちは彼を信じて、
      「多変数複素関数論」の解決や文化勲章の受章まで支えます。
      https://suugakuchannel.com/316/
      2022/06/18
  • 素晴らしい!

  • (1966.04.10読了)(1966.04.05購入)
    *本の帯より*
    毎日出版文化賞受賞
    数学で文化勲章受章の碩学が叡智に磨かれた言葉で綴る人生・学問・芸術についての深い洞察

    【目次】
    はしがき
    春宵十話
    宗教について
    日本人と直感
    日本的情緒
    無差別智
    私の受けた道義教育
    絵画教育について
    一番心配なこと
    顔と動物性
    三河島惨事と教育
    義務教育私話
    数学を志す人に
    数学と芸術
    音楽のこと
    好きな芸術家
    女性を描いた文学者
    奈良の良さ
    相撲・野球
    新春放談
    ある想像
    中谷宇吉郎さんを思う
    吉川英治さんのこと
    わが師わが友
    あとがき  松村洋

    著者 岡 潔
    1901年、大阪市生まれ
    1925年、京都帝国大学理学部数学科を卒業と同時に、京都帝大講師に就任
    1929年、フランスに留学、生涯の研究テーマとなる「多変数解析函数論」に出会う
    後年、「多変数解析函数論」における難題「三大問題」に解決を与えた
    1949年、奈良女子大学教授に就任
    1951年、日本学士院賞を受賞
    1954年、朝日文化賞を受賞
    1960年、文化勲章受章
    1963年、「春宵十話」で毎日出版文化賞を受賞
    1973年、勲一等瑞宝章受章
    1978年、逝去

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