『九尾の猫』(1949)は、アメリカの推理作家エラリイ・クイーンによる中期傑作で、ひときわ刺激度の高い、危ない小説です★(個人の好みでは、クイーンの中期作品はいずれも傑作と感じます☆)
大都会ニューヨークを舞台に、連続絞殺犯が人々を恐怖のるつぼに叩きこむ。死体の首に絡みついている紐は、犯人特定の手がかりにならず、殺人を防ぐ手立てが見つからない。
猫のイラスト付きで事件報道する新聞記事が、いたずらにNY市民の恐怖をあおる★
苦悩するエラリイ VS 恐るべき凶悪犯<猫>との知恵比べーー
『九尾の猫』の魅力(といっていいのだろうか?)のひとつが、サイコキラー、異常心理による連続殺人事件のハシリである点でしょう★
異常って何だろうな、と問い出すと際限がないのですが、一般的とは言いがたい思考や欲求からの行動、犯人独自の理屈、ルールなどに則って、人を殺めていくのです。殺人犯とて人の心があるように描かれることの多かった推理界に、クイーンは一石を投じたと言えそうです★
もう一つの魅力(といっていいのだろうか? その2)が群集心理です。
この作品では「顔の見えない殺人者は、実はすぐ隣にいるんじゃないか?」という不安がふくれ上がり、人々が疑い合う様相を呈します。パニックに陥った市民の感情の高ぶりは、殺人犯以外に向かって、さまざまな形で暴走する展開へ!
殺人者も異常なのに加え、大都市の人々が異常といっていいような恐怖にとりつかれるさまは、強烈で悲惨です★
ところで、執筆年代が本作と近いアメリカSFに、ハインライン著『人形つかい』(1951)が挙げられます。そちらも、一つの街が恐怖に支配される様相を描いた小説です。世相か……。リアルな時代背景を絡めなくてもいい気もしますが、ひとまず連想の破片を留めておきます★
作品全体はとてつもなく素晴らしいけれど、ニューヨークの猫たちが気の毒でツラすぎた……(涙)