死の商人 (1951年) (岩波新書〈第56〉)

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  • ここでは、主に戦争・紛争勃発の原因について、軍需産業の点からみていくことにする。なお、ここで使われる「戦争・紛争」は第2次大戦やイラク戦争といった特定のものというより「武器を持って戦うこと」を意味し、そのため、あえて戦争と紛争を区別しなかったことを断っておきたい。
    戦争・紛争はなぜ起こるのか?軍需産業を中心に考えてみるとおそらく次のようなことがいえるだろう。戦争・紛争は軍需産業に莫大な利潤をもたらし、逆に軍需産業によって戦争・紛争を勃発、激化させることが可能だということである。前者はつまり、武器を必要とするところがあれば軍需産業は儲かるということで、本書にもあるように、軍需産業は一般に儲かれさえすればいいので、味方、敵の区別なくして武器を供給するのである。しかしながら、これは必ずしも戦争・紛争でなくても可能だ。軍備拡大さえすれば、軍需産業は儲かるということである。したがって、軍需産業は報告書や統計データ等をもちいて防衛の拡大を政府に訴えることもある。また、軍拡ではなく、「軍縮」においても軍需産業は利益を得ることができよう。大量の武器よりも数量的には少ないが、より精度・性能の高い武器の研究・開発を続けるだけでも軍需産業は潤うのだ。そしてもう一点が、軍需産業は武器輸出に大きな「貢献」をしていることである。途上国に流布する銃などの小型武器から、紛争時に用いられる戦車といった大型兵器・武器まで、その多くは先進国軍需産業のものだという。このように、軍需産業が戦争・紛争をもとに利益を得ていることがわかるだろう。
    では、軍需産業の点から戦争・紛争を減らすためにはどうしたらよいのだろうか?この疑問に答える前に、まずその解決に向けての問題点をいくつか挙げてみたい。軍需産業の厄介な点はその性格にある。1点目は軍需産業と政府が結びついている点である。前述のような防衛警告を出すのも軍需産業であったり、また支配者集団は高性能武器開発を奨励すれば軍需産業が衰退することはない。したがって、政府を中心に軍需産業を規制しようとしても、必ずしも成功するわけではないのだ。
    2点目は本書にもあったように、たとえばフランスのデュポン社はストッキングを開発している。つまり、われわれの身近なものを生産し、開発している産業が軍需産業になりうるし、実際なっているということである。日本についても同様なことが言える。自衛隊との兵器契約上位5社は三菱重工業、三菱電機、川崎重工業、石川島播磨重工業、そして日本電気(NEC)である。これらの企業はエレベータからエアコン、パソコンなどの一般用家電・設備を開発しているのだ。言い換えれば、武器・兵器製造に関わる軍需産業の多くは同時に先進国の基幹産業でもあり、技術開発の拠点ともなっている。一見、武器とは何のかかわりもないようなものを生産している企業なので、軍需に関わっている事実を見落とすことがあるのだ。
    そして3点目だが、2点目とも関連しており、民用のものを製造する技術は軍事転用も可能だということである。たとえばアメリカのボーイング社は民用飛行機を開発する一方で、軍用飛行機・航空機も製造可能ということだ。この場合、前回の核兵器問題についてのディスカッションと似ていて、軍需産業をなくすといってもいったん技術を持ってしまえば製造しようとすればいくらでもできるということである。
    解決に向けての問題点がそろったところで、解決の方法論について考えてみたい。繰り返すが、軍需産業の点から戦争・紛争を減らすにはおおよそ次の2点が言えるのではないかと思う。?技術者の管理、?武器管理の必要である。具体的に誰がその管理主体になりうるのかと考えると、前者については技術者自身や国民による監視、後者についてはNGOややはり国同士による監視だと思う。まず、技術者の管理だが、言ってみればアメリカの「憂慮する科学者同盟(UCS)」のような同盟で、武器をも製造できるくらいの技術をもった人間同士による自己管理同盟である。同盟内での監視がこの場合役に立つと思われる。国民の監視について言えば、まず何よりも日本においては企業・産業の透明性を求めることができ、どのようなものを製造しているのか報告させることが可能だろう。そして軍事用品を製造している民間企業に対してボイコットすることもありうると考える。
    また、武器管理については、Control ArmsやIANSA、アフリカのSmall Arms Netといったような既存NGOが武器解体や小型兵器管理を促している。これに加えて、国家同士の監視も必要であろう。確かに政府と軍需産業の結びつきが強く、規制が難しい点があるが、たとえば国が軍需産業を、武器輸出させないよう管理するようにし、国同士がまた相互にその管理がきちんとなされているのか、さらにはお互いの政府が軍需産業と結びついていないかを監視するユニオン体をつくることもできよう。
    もちろんこれらの提案、特に最後の提案は実行が難しいが、まったく価値のないものではない。しかしながらこれらの提案に加えて大切なのは、防衛拡大や戦争に備えようとする政府の情報に惑わされないことだと考える。自己利益を求めて戦争を仕掛ける人間は絶えずいるだろう。そのような人々のプロパガンダに流されないことが戦争をなくすことへの第一歩なのではないかと思う。

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