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- / ISBN・EAN: 4988104043627
感想・レビュー・書評
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「実際に起きたこと」というのは、まぎれもなくひとつしかないのだけれど、それは常に明らかで、それはいつも「正しい道」であり、それが必ず「事実」と見なされ、人はその道しか選択できないのだと思っていた。人はいいひととわるいひとが分けられるように思っていた。でも、これも誰もが知っているように、必ずしもそうなるわけではない。
医師としての仕事を始めてから、そのことを全身で感じるようになって、だからこそものすごく悩んでいる。患者さんのことをまっすぐに考える精神を持っているつもりでありながら、自分の力の限界に臆病になって、突き進めないことがある。病気を治す方法は一つしかないのかと思っていたけれど、本当に目指すべきゴールというのは、患者さんそれぞれに違っていて、そもそもゴールがはっきり汲み取れることばかりではないし、必ずしもその方法は一つでなく、そこには「選択する」という行為が生まれる。小児科で働く私は、親御さん自身の気持ちや訴えることのできないこどもたち自身の気持ちも考えなくてはいけない。そういういろんなことを考えて、結局動けなくなってしまうことだってある。職場の人間関係のなかでも、普段は信用している先生でも、この先生はどうしてこの部分はこういう考え方なんだろう、と賛成しきれない部分について複雑な思いになることがある。正しいことがひとつではないこともあるし、正しい・・・というか理想とされることがあっても、必ずしもそれを選択できる訳ではない。私たちは立場は違えど、いつもそういう場面にいるのだと思う。
この主人公が本当にやったかどうかは分からないけれど、仮に本当にやっていないのだとしたら、実際に起きたことをただ言えばいいというものではなく、証明しなくてはいけないということがとても皮肉なことだと思った。そして本当の犯人は全くこの映画に出てきていないかもしれないという悔しさがある。弁護士だって守らなくちゃ行けないということだけは決まっていて、でも最初は「本当にこの人がやっていないのか」という疑いの目から始まらなくてはいけない。本当にこの人が真っ当な顔をして嘘をついているのであれば、だまされていることになる。人を信じるということの本質を考えざるを得ない立場だ。心理合戦だ。そして法律もただ答えがのっているわけではなくて、それをどう解釈するか、ということが、これまでの判例を通じて決まって行くものだという。それをどううまく解釈するか、ということは法律家として、時にへりくつをこねるようで、実際は心が傷つくこともあるのではないかと思う。
裁判官も同じ。まっぴらな嘘をついているかもしれない人間を裁くことの難しさ。精神のぶれや気持ちの引っ張られ方は当然あるわけで、それを差し引く努力は計り知れない。
でも本当の本当は、世の中そんなに性善説ではいかないのかもしれないけれど、「真実」を話してもらうための人間関係作りであり、信頼感であり、諭しであるのではないかと思う。そういう心が介在する部分があるのではないかと思う。その意味でプロの仕事であり、「人」の仕事だと思う。法律家として優秀なのは、信頼関係を築き、人間の良心を引き出し、真実を明らかにした上で、その上で妥当な刑罰を選択することもしくは有罪無罪を判断すること、なのではないかと思う。
本来有罪なのに無罪を訴える人、そのひずみが出てくる何か根源があるんだろうと、そう考えることで、私たちはその人たちを拒否しないですむ。そしてその人がいつか真実を語ってくれるのではないか、そのためにできることがあるのではないか、そう考えていたいというのが、私の願いだ。 人間にはそこまでの心があるのだろうか。あってほしい。
http://www.1101.com/suo/index.html
監督:周防正行
金子徹平:加瀬亮
荒川正義:役所広司
須藤莉子:瀬戸朝香
金子豊子:もたいまさこ -
痴漢の容疑をかけられた青年を描いた社会派サスペンス。公開当時、この作品がきっかけとなり、痴漢被害者よりも容疑者となってしまった人権こそ守るべきという世論になった気がするが、確かにその通りだ。突然、見に覚えのない痴漢の容疑がかけられたとき、一般人は身を守る術がない。
実生活からの隔離、家族の心労、多額の保釈金、証拠を明らかにしない検察、裁判官の人事異動。法知識のない普通の民間人である主人公に次々と降りかかる悪条件。これだけの苦労を強いられた彼に「それでもボクはやってない」と叫ぶ力は残っているのか。そして、運命の判決を迎える。
作中で何度も語られるのは日本の裁判における有罪率99%。この数字があればこそ、裁判所、検察、そして弁護士にとっても「有罪」で当然または、仕方がないという流れになってしまう。日本の裁判は「99%」のシナリオに沿って展開される儀式なのだ。 -
なかなか考えさせられることの多い映画だった。
とりあえず夫には電車に乗ったら手は上へ上げとけ!!
とアドバイス。
痴漢する奴は憎むよ。
でも冤罪で苦しむ人もいるとわかればもうちょっと
裁判なんとかならんの?と思ったり。
しかしどうなんだろう、多分冤罪だと思って見てるけど、
この映画ではどちらともとれる感じでもあるんだよね。
そこらへんも妙にリアルで痴漢冤罪の裁判がいかに
難しいかってことはよくわかったな。 -
・「面白い」映画ではないけど、痴漢冤罪という、自分や家族の身に今日にでも降りかかりうる災難を疑似体験できてしまうという意味で、見過ごせない映画だった(とか言いつつ片付けしながら片手間で見たので細かいところは覚えていない)。
・母親役は渡辺えり子かと思ったらもたいまさこ。確かにもたいまさこと加瀬亮って親子に見える。
・笑わせ場面はほとんどないと言ってよいのだが、竹中直人演じる大家さんが、加瀬亮の部屋の家宅捜索に立ち会ったときの会話が、苦笑いを誘った。「いや~僕もちょっとおかしいと思ってたんですよねえ!」「おかしいとは?」「あ、いや…ただ、なんとなく…」「ただ、なんとなく?」「その、仕事してないの、かな、とか…」「(無言で作業に戻る」 -
犯罪被害者の家族の主張、要求を考慮するようになった司法や世論の流れのなかで、犯罪加害者家族の保護という新たな視点を提供した作品。
家族の一人が犯罪を犯したことで、その家族がどんな苦難にさらされるかをうまく描いている。マスコミや野次馬、インターネットによる壮絶な誹謗、中傷。現代社会においては、必ずしも罪があるとはいえない善良な家族でさえ、家族が犯罪を犯した瞬間から犯罪者同然のレッテルを貼られる社会の現状。
この映画で描かれている全てを鵜呑みにすべきとは思わないが、新しい気づきを与えた作品として評価できるでしょう。必見です! -
最後まで暗い映画。弁護士は事案を抱えすぎだし、検察官と裁判長はそれぞれのプライドがあるし…と、映画の通り、裁判所は有罪か無罪かをとりあえず決めるだけの場に過ぎないのかもしれない。