- 本 ・映画
- / ISBN・EAN: 4988102387433
感想・レビュー・書評
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奥崎謙三は、戦後“神軍平等兵”を名乗り、かつての所属部隊・独立工兵隊第36連隊のうち、ウェワク残留隊において隊長による部下射殺事件があった事実を知り、当時の二人の兵士、吉沢徹之助の妹・崎本倫子、野村甚平の弟・寿也とともに“敵前逃亡"の罪で処刑した元上官たちを訪ね、真相を究明しようと試みる。
二人の日本兵は敗戦後3日目には敗戦を知っていたにも関わらず、その20日後に処刑されたという。
だが、当時の上官は処刑に立ちあったことは証言したものの、ひとりは空砲だったと言い、別のものは2人をはずして引き金を引いたと証言。誰が彼らを撃ったのかは不明のままとなる。
しかし、すでに病人や高齢である当時の上官は容易には口を開きたがらない。
しかし、奥崎は一歩も引かずさらに詰め寄り、ときにはその煮え切らない態度に業を煮やし殴りかかる。そのうち、殴られた上官妹尾幸男は話しはじめ、少しずつ真実が見えてくる。その中で、彼らは飢餓状況の中で人肉を食べたことまで証言。
やがて、二人の遺族は奥崎の、時として暴力も辞さない態度から、その後同行を辞退。奥崎はやむを得ず、妻と知人に遺族の役割を演じさせ、処刑の責任者たる古清水元中隊長を訪問し真相を質す。
また同時に、独工兵第36部隊の生き残り、山田吉太郎元軍曹に当時の様子をありのままに証言するように迫る。
1983年12月15日、奥崎は古清水宅を訪ね、たまたまその場で対応に出た息子に向け改造拳銃を発砲した。その後神戸に戻り、シズミと握手を交わした。
その二日後、神戸市福原町にあるお好み焼き店から兵庫警察署に「事件について話したい。」と電話を入れ、駆けつけた警察官に逮捕された。
その後神戸から広島の大竹中央署に護送される際、駆けつけた報道陣に対し、手錠をかけられたまま右手を振り上げ、「ご苦労さん!!」と言いながら車に乗った。
殺人未遂などで徴役12年の実刑判決を受け、3年後の1986年9月18日に妻のシズミが没している。
自称「神軍平等兵」奥崎謙三が、かつての上官に戦争犯罪の追及する衝撃のドキュメンタリー映画。
「国家とは人類を分断する世界を1つにしない大きな障害」「警察や役人や裁判官は法律や命令に従っているだけのロボット」を持論として、新年皇居参賀の時に昭和天皇にパチンコを発射し懲役刑となり、田中角栄襲撃を計画した罪で逮捕されたことがある奥崎謙三が、かつて太平洋戦争の時に所属していた36連隊ウエワク残留部隊での隊長による部下射殺事件を調査していく。
アポ無しで訪ね、話をごまかしてとぼけようとする者を殴りつけ、殺された者の遺族を連れて泣き落とし、客商売の最中に訪問してお客さんの前で真相を問い詰めたり、殺された部下や遺族の無念を晴らすためとはいえ、殴りつけたり、部下射殺に加わった上官の一人に「大病したことはあなたの戦争中にしたことの天罰だ」と言ったり、奥崎謙三の言動は人間的にどうかと思うけど、奥崎に追及された上官が「命令に従っただけだ」「生き残るため仕方ない」「命令したけど下士官が部下を射殺する現場にいなかった」とのうのうと言い訳するように、「戦争は人間から人間性を奪い命令で言いなりに動くロボットにする残酷な状況である」ことを暴き、二度と戦争を起こさないようにしようという決意を日本人がするきっかけになり、戦死者の鎮魂になることを思うと頭から、奥崎の言動を否定出来ない。
しかし、部下射殺事件で下士官に部下の射殺命令を出した上官を暴行したり殺害しようとしたりする奥崎謙三の言動には、テロリストに似たり寄ったりの「信念を持った者」の狂気と独り善がりな歪んだ正義感を感じるのがモヤモヤする。
監督の原一男の著書「ドキュメントゆきゆきて神軍」では、撮影する中で監督の原一男とカメラポジションまで仕切ろうとしたり、奥崎がアイディアを思いつくと原監督にモーニングコールしてきたり、奥崎が原監督に黙って事前に追及する上官と話し合いして撮影に臨んだり、「判断は私がしますから原さんは黙って付いてきてください」と撮影の主導権を握り自らを演出する奥崎謙三とドキュメンタリー監督としてモラルの一線を守ろうとする原一男監督のせめぎ合いの戦い、部下射殺事件の遺族が何故奥崎との同行をある時点から断ったか?、何故ニューギニアでのロケ映像がニューギニア当局に没収されたか?などの裏側を知ることが出来て、読んだ後で再度見たら新たな発見があり、「ゆきゆきて、神軍」のシナリオも掲載されていて映画鑑賞の助けになる1冊。
「靖国神社に行ったら、英霊が救われると思っているのか?貴様!」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
元々不安定であり最前線での経験でおかしくなってしまった人が、自らの信じる正義を全うしようとする。
この映画を元に政治理念をどうこう言う事は出来ないが、戦争の真実の一端が見える。
フィクションの反戦映画とは全く違う怖さを感じた。 -
まあ、なんとなく噂は聞いていたんですけれども…見ごたえのあるドキュメンタリーでした…
ヽ(・ω・)/ズコー
この時代の六十代の人はなんというか今の時代の六十代とは違う感じ…頑固で融通が利かなくて…だけれども迫力があってすげぇ…とこんな感想しか言えぬ青二才の僕は思います…。
ヽ(・ω・)/ズコー
今ではもう戦争を経験した世代がかなり少なくなっている…ってまあ、これは仕方がないことなのですが。このDVDを見て戦争とは本当に悲惨なものだ…という感じを少しでも感じられたら後世に生きる我々はたとえ政治上で何があっても戦争だけは起こさない! と胸に誓えるのかもしれませぬ…
今現在の日本はなんだか戦前のような空気に包まれつつありますが…秘密保護法とかね…現総理もこのDVDを見るべし!!
などと言うことは僕の口からは言えませんが…まあ…見たら考えが変わるかもしれませんネッ! おしまい…。
ヽ(・ω・)/ズコー -
★粘着質対粘着質★主人公の奥崎謙三の、戦争を総括しようという粘り腰はすさまじい。皆が隠そうとすることを暴こうとする。面と向かって罵倒し、突然切れて殴りだす。近所にいたらとても迷惑だし、一線の越え方が常軌を逸ししているが、不器用ということだけはよく分かる。「白豚」「黒豚」と言って、「自分はやっていないが」と注釈を付けながら、何人もの元兵隊が戦地で人肉を食べていたことを話すのも衝撃だった。確かに昭和50年代にはまだ、傷痍軍人を街中で見かけた。戦争は遠い昔ではなかったんだ。これに付き合って映像にまとめた監督、カメラマンの辛抱強さもすさまじい。
しかしこんな人がどうやって生計を立てていたのだろう。いまやリチウムイオン電池で脚光を浴びるGSユアサだが、当時は町の中小のバッテリーや相手の商売で、奥崎が「YUASA」のジャンパーをずっと着ていたのが印象的だった。 -
6/6~14の一週間強の日程にてMoMAで開催されることになった久々の日本人監督単独での回顧上映企画は原一男監督に焦点を絞ったもの。原一男監督を知ったのはもちろん「ゆきゆきて、神軍」(1987) を通してであったが、昨年Japan Societyで開催されたJAPAN CUTSでの「ニッポン国VS泉南石綿村」(2018) の上映に合わせて訪米されたときにお会いできたこともあり、ぐーっと身近な方になっていた次第。その時はその場で販売されていた本を買ってサインの列に並んでみたりとミーハーぶりをしっかり発揮したりもした(苦笑)
ところが今回はその上映日程詳細が発表さるるずいぶんと前から感知していたにもかかわらず直前になっって夜間・週末の仕事が入ってきた。なんたる口惜しきことか…。それでも予約を済ませチケットを手にするところまで段取りを整えていたのはその初日本作の上映に合わせて監督御夫妻(奥様小林佐智子氏はプロデューサー)に加え、ゲストとして原監督を「ソウルメイト」と称するマイケル・ムーア監督が登壇する予定となっていたため。日本との電話会議を終えて急いでMoMAにたどりつくと終幕間近ではあったが、ドアセキュリティに無理を言って入れてもらうとまさにエンドロールが始まるタイミングでセーフ!会場はマイケル・ムーア監督の知名度もあってかSOLD OUT満員であったが、退出した人の席に座って目的のQ&Aセッションに立ち会うことができた。
マイケルからの映画タイトルに関しての問いかけに対し、小林プロデューサーの受け答えが印象に残る。
「奥崎氏の使う『神軍』という言葉がまず最初にあり、その硬い、厳しい響きを伴う言葉に対してなにかやわらかなやまとことばを当てたかった。それゆえ『ゆきゆきて』という言葉を当てたのです。」
で、英語タイトルはなぜそうなったのか?という部分に対しては「当時お世話になっていた大御所の方にお願いしたのでそこにはあまり口ははさめなかった次第で…」とちょっとはぎれ悪く…(笑) どちらにせよ「やまとことば」のニュアンスを英題に含めるのは無理だったのであきらめたということだったのでしょう。
その四日後に再鑑賞の機会を得る。今回は三度めの鑑賞で奥崎氏のもつ純粋な人間としての部分ばかりが突き刺さり、彼の唐突で暴力的な行動は何割かの衝動に駆られたものであったとしてもその割合は少ないのだろうな…とい感覚に襲われた。この感覚はきっと鑑賞回数を重ねるために強くなってゆくのだろうと思う。
彼の著書、今でも手に入るのかな…
おっと、やばい思想になってきた、この辺までにしとこう(苦笑) -
何度見ても強烈な作品。個人の中の歴史の感覚と、国の歴史の感覚の違いみたいなところを感じる映画でもあるし、戦争中に行われた犯罪に近づいていく過程はミステリー映画のようにも見える。そして奥崎さんが激昂するたびにどうしてもツボに入っちゃう・・・(笑)
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正直引くけど真っ直ぐな人なんだと思うよ。
憎めない。信念があるんだなこの人は。