まあだだよ [DVD]

監督 : 黒澤明 
出演 : 松村達雄  香川京子  井川比佐志  所ジョージ  油井昌由樹  寺尾聡 
  • 角川エンタテインメント
3.74
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Amazon.co.jp ・映画 / ISBN・EAN: 4988111285218

感想・レビュー・書評

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  • ちくま文庫の集成で月一で刊行されるペースに合わせて、百閒をのんびり読んでいた頃に、初鑑賞。
    そのときは単純に、あの黒澤がこの百閒を、という喜びがあった。
    が、今回ある程度百閒情報ありで再鑑賞してみたら、なかなか思うところあり。
    まず、複合多面体であるところの百閒を、ある角度のみ切り出した断面しか映像に現れていないということ。
    たとえば百閒の講義や鉄道や飛行機や借金やはほぼ描かずに、所謂清貧のような描き方。
    法政騒動で法政大教授を辞職したわけだが、そのゴタゴタや、その後の家族との不和は一切省略。
    別居していた妻清子が、長男久吉23歳を"不注意で死なせた"、とある意味糾弾するようなモデル小説を書いていたこと(「蜻蛉眠る」)。
    「キッチンに入るな」というHPに詳しいが、その影響で長女多美野と義絶騒動になったり、別居生活を内縁の愛人に支えてもらったり(家族との遣り取りには元教え子も仲介した)、という事情は完全省略。
    そりゃ映画は部分を切り出すものだという主張もあるが、上の理由で借金に追われたり、今でいえばパニック発作に見舞われたりした影響下に、「ノラや」の劇症鬱病や感情障害もあるのだ。完全無視は如何。

    そしてこの流れで一番気になったところなのだが、本作で香川京子が演じる「奥さん」について。
    (役名が「奥さん」なのだが、正しくは愛人であり、内縁の"ほぼ妻"であり、本名は佐藤こひ)
    香川京子の演技というか振る舞いがあまりに可憐かつ堂々たるものなので、いい夫婦、とつい見てしまいそう。
    が、そこには上記の事情の隠蔽がある。
    というか、黒澤は意図的に隠蔽したというか、事情は突っ込んで調べずに、自分が仮託したい百閒の要素のみを抽出して、そこに自らの老後をファンタジックに重ねたのではないか。
    ここに幾重かのフィクション化作用があり、いいとも悪いとも言えないが、どうしても拘ってしまうところ。

    なぜ拘るか。
    多くの男性がついついホロリときてしまいそうな、駄目男を慰撫する話になりかねないからだ。
    元教え子たちに「先生のそういうところが好きだ、先生は金無垢だな」などと言わせるロマンチシズムに、悪臭を一瞬感じてしまう。
    言うまでもなく黒澤自身が、多くの崇拝者に囲まれながらも感じていた孤独を、ファンタジー映画空間で慰撫したかったのだろう。
    黒澤自身の師匠的存在への感謝も込めただろうけれど。
    と、つい連想してしまうのが、宮崎駿「君たちはどう生きるか」の大叔父≒高畑勲≒駿自身という構図。
    本作を契機に宮崎駿が黒澤明の別荘を訪れた対談は面白かったが(「もののけ姫」おそらく準備中)。
    親子そのものよりも、疑似的な親子関係に希望を見出すのは、どうしてなんだろう。

    そういったモヤモヤで据わりが悪いところへ、後半何度かの摩阿陀会が。
    U-NEXTの紹介文が奇妙で、〈見どころ ほのぼのとしたエピソードの積み重ねながら、宴会シーンでは活劇のダイナミズムを感じさせる紛うことなき黒澤映画〉……そ、そっかー!? 確かに音が前後左右に割り振られていたりして、この音響演出技術が数十年前の作品群の合戦シーンであればよかったなと思わないではないが、無理やりすぎんか。
    ピラミッド型になった日本式無礼講や、急に戯けたり急にしめやかになったり、乗り切れない者を予め排除したような空間で、主に男性陣が大騒ぎをする……そういう宴会が、私は恐い。
    気の置けない和やかさ、という薄皮の下で、強烈に戦闘的なホモソーシャルの愛憎がマグマっていそうで、怖い。
    超巨大ジョッキでビールを飲み干すところにサスペンスを付与する、という映画の作りは面白いが、穿って見れば老人虐めに見てしまう。
    「夢」に続く「明るく死にたい」路線なのだろうが。
    そもそも内田百閒が、月を見上げて「私はアンリ・ルッソーが素朴で好きだねぇ」、なんて言うか。もろ黒澤自身の趣味じゃん。
    ……と、くだくだ書いたが、あくまで百閒の性格の悪さと、黒澤明のホモソなファンタジーに対して、愛憎半ばだからこそ。

    ともあれこれで黒澤明マラソン終了。
    これでようやく関連本が読めるぞー。

  • 内田百閒の著作などは全く不案内だが、泥棒を撃退する方法や一坪バラックのエピソードは良かった。

    ただしそれ以外は先生をヨイショする弟子たちの???なストーリー。

    何となく、素性の知らない宴会を延々と見せられているような気がして落ち着かなかった。
    ※何処かで感動できるシーンがあるかもと期待していたが、結局最期まで宴会芸と師を崇拝する弟子たちの洗脳劇…。

  • 1993年の作品 黒澤明 脚本・監督

    松村達雄(先生)が すばらしい・・・。
    ここまで、味のある 先生を演じたのがすごいが、
    それをとった 黒澤明も ほめたい。
    「人間のぬくもり」という ものを 所狭しと とらえた。
    先生と学生・・・『師弟関係』というのはいい。
    こういう映画を残しておくのは いいことだ。
    映画 って いいなぁ。

    松村達雄は1914年生まれというから
    この映画ができたのが 1993年。
    なんと 78歳なのである・・・(とても、78歳と思えない)
    それが、60歳前から演じるのであるが・・・
    松村達雄が 本当に『円熟』している時期なんですね。
    2005年になくなるので、91歳まで生きた。

    先生が 学校を辞めるところから始まる・・・・
    男子学生ばかりの学校。
    印象に残るのは・・・目を開けたまま眠る学生
    それは、高山(吉岡秀隆)の父親である高山(井川比佐志)。
    高山息子は 『先生は辞めても先生。金無垢先生』という。

    先生とそれを慕う学生・・・
    学生が社会人になっても 何かと先生のところに集まる。
    『先生』というイメージ・・・
    そんなのが私の高校の先生にはあったなぁ。
    学生;所ジョージ、井川比佐志、・・・寺尾聰。

    先生の『ユーモア』が『ユーモア』として、存在する。
    なぜか、今の世の中に『ユーモア』 がなくなってきていると思う。
    泥棒よけ・・・
    立ちションベンよけ・・・。
    鹿肉をふるまう時の 馬肉を加える話。
    どっと・・・笑える。

    先生の60歳の誕生日 
    先生がいう『ついに本物のジジイになった時だ。』と・・・
    馬鹿鍋をつつきながら・・
    先生の話す雰囲気がいい。

    先生は言う・・・
    『暗闇が怖いと思わないとは、想像力がたりない。』と。

    空襲で焼けて 3畳の部屋に
    鴨長明 『方丈記』になぞらえて・・生活する先生。
    先生と奥さんでの二人で 
    雨の降る日や 雪を見る雰囲気がいい。

    お月様 が出たら・・・
    『でた、でた 月が・・・』と歌う先生。

    摩阿陀会・・みんなで・・・先生の誕生日を祝う。
    門下生が 『まあぁだかい?』といい
    先生は 『まあだだよ』という・・・

    あたらしい家ができて 飼っていた猫の
    『ノラ』が 行方不明になったときの・・・
    先生の狼狽振り。

    摩阿陀会が、17回を迎え 先生も77歳。
    やっと ホントの老人になったという 先生。

    バースディケーキを持ってきてくれた 
    子供たちに 先生は言う・・・
    『好きなことを見つけなさい。大切なことを見つけなさい。
    大切なもののために努力しなさい。』という・・・。
    いつまでたっても、先生なのだ。

    まあだだよ・・・
    じつにかわいい 先生なのだ。
    黒澤明は この先生に どんな思いを託したのだろう。

    (補足)
    まあだだよ は、内田百閒をベースにした物語になっているが
    実は 黒澤明監督自身の 体験も盛り込まれているという。
    映画界においては 『天皇』ともいわれた・・・
    60歳を過ぎてから 日本ではなく海外に 活路を見出そうとしたが
    トラトラトラで 挫折。

    それは、先生が ノラをなくして ほとんど何もできない状態になった
    ことを、情けがっている・・。

    77歳の時には 先生は 60歳のときはチンピラだった
    と振り返る。
    影武者で カンヌでグランプリをとった時と風景が似ているという。

    88歳11ケ月で内田百閒はなくなったが
    88歳11ケ月で、黒澤明監督は 『まあだだよ』をとり始めた。

  • 黒澤監督の遺作。監督が自分自身のお葬式を映画の中で挙げようとしたのかなーと思ったり。『夢』の「水車のある村」で笠智衆が語っていた、葬式は本来祝うべきものって話をふと思い出した。内田百閒の晩年をモチーフにしてるんだけど、これ間違いなく監督自身と重ねて撮ってるんだろうな。黒澤監督の周りには監督を尊敬している人はたくさんいても、この映画の教え子たちのようにフレンドリーに軽口を叩いて接してくれる人はほとんどいなかったんだろうし、寂しかったのかもしれないなあ。
    何かの特番で見た、ラストシーンの夕暮れの絵の前に座って、物憂げにそれを見つめる監督の姿が印象的だった。結果的に生涯のラストカットになった夕陽に照らされながら、監督は何を思っていたんだろうなぁ

  • 特筆すべきは内田百閒先生の「師匠力」とでも呼ぶべき特殊能力。多人数の弟子に徹底的に崇められ、感謝され、担がれる。本作は内田百閒先生が教え子たちにチヤホヤされる様子をただただ描き続けるという不思議な映画です。

    松村達雄の飄々とした演技は素晴らしく、さすがは名優です。内田百閒の諧謔あふれるセリフや貼り紙は愉快で、たしかに周囲に常に人を惹きつける魅力がありますね。

    地のまま演じたと思われる所ジョージの自然な芝居も良かったです。

  •  内田百聞と彼の元教え子達との交流を描く。

     なぜかこの映画と『寝ずの番』がごっちゃになっていました。改めて見てみたら全然違う映画だった。
     内田百聞という人間のあまりに独特な感じとそれ故に人を惹きつける感じがよく伝わってくる。
     なのだが、別に好きな映画ではなかった。『寝ずの番』の方が好きだなぁ。

  • TVにて
    孫まで連れての内田百間を囲む会.よっぽどいい先生だったんだろうと人柄が偲ばれるが,その人柄があまり伝わってこなかった.映画は黒澤明にしてはとてもゆっくりしたテンポで,ユーモラスに描いている.でもあまり流行らなかったというのもわかる.

  • 世界の黒澤、1993年の最後の作品。内田百聞役の松村達雄のなりきり演技が素晴らしい。内容は、大先生とその取り巻きの交流物語。中でもノラ(猫)のエピソードが一番面白かった。特に自分を皮をはがれた因幡の白兎に例え、行方不明になったノラのことを心配してくれた人たちを大黒様と呼び、延々と歌を歌うのだが、奥さん役の香川京子が黙々とをカラになった盃に酒を継ぎ足すシーンが印象深い。可愛げのある愛される年寄りになること、それが高齢化社会を迎えた日本の老人への黒澤からの最後のメッセージなのか。

  • じじいの映画だった。
    大往生を遂げたであろう映画監督の作品でこれほど遺作らしい遺作もなかなかないんじゃあないかと。そのタイトルが『まあだだよ』って。いちいち皮肉をきかせているのもまたすごい。

  • ここのところ寅さんの旅がスローペース気味なのは否めない。やっとたどり着いたのが9作目、おいちゃんが松村達雄に入れ替わっちゃった頃。そんな中本作を通して松村達雄氏の真髄を鑑賞することに。

    正確に言うと寅さんブームの前にさだまさし原作の映画「解夏」にてお会いしていたのだが、奇しくも鑑賞後にその住職が彼であったことに気づいたようなお恥ずかしい次第であった。10作目から毎回彼に会えるとなるとこれまた楽しみ、近々エンジン再始動をあらためて誓う。

    黒澤が90年代に撮りたかったもの、伝えたかったこころがここにある。

    観終わった後にはビール飲みたくなること間違いなし(笑)

  • 私にとって黒澤明作品は今の所、大当たりか大外れしかない。これは外した方。
    百閒先生の一風変った特異さが描かれるのはよしとして、何故そこに教え子たちが惹かれ、何くれとなく一生貢いで付いていったのか、その魅力と吸引力が全く伝わらない。戦時中に背広を着て肉を食える階級の人たちの馴れ合いにしか見えなかった。

  • 内田百聞先生が、かわいい。本当にこんな人だったのかな?顔は怖いのに(笑)Wikipediaで調べたら、主役の方の演技は内田さんの遺族からそっくりだと、太鼓判。
    「ノラや」を読んでないので読んでみたい。所ジョージさんが若い。あと、北の国からのじゅんが出ます。
    楽しそうな人たち。

  • 原作は読んだことないんですけれども、よい作品だと思いました!! まあ、正直起承転結がしっかりしていない感じがして、所々眠くはなりましたが…

    ヽ(・ω・)/ズコー

    所ジョージさんに注目していたんですけれども、バラエティ番組などで見る彼そのもの、といった感じがして特に感想はありません…。 ←え?? 社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    先生が非常に味のある感じがして良かったですね! 最後の方の…セリフは年齢を重ねた者にしか言えない重みある、熱いセリフでしたね…感動しました。

    ヽ(・ω・)/ズコー

    といった感じで感想らしい感想など思いつかなかった僕ではありますけれども、これはおそらく原作を読んでいないせいかと存じます…。というわけなので、原作を読んでから再チャレンジすればきっと感慨深い気持ちと共にこの映画を観終えることができるでせう…さようなら。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 映画という世界の中に、ちゃんと人が生きてる映画という印象。とても良かった。

  • 内田先生が可愛い。夢中。先生の存命を祝うパーティーに出てくる歌が素敵。おいっちに。枯れ専の人は必見。

  • まあだかい。東京焼盡。ノラや。

  • こんな映画もたまにはいいな
    観終わってほのぼのした気持ちになる

    『ノラや』をぜひ読んでみたい

  • 黒澤明の遺作にして、私にとっての初クロサワ。内田百閒先生が愛おしくてたまらなくなる。初めて観たのは高校生の時だけど、クロサワ映画がこんなに人間を愛しているなんて知らなかった。

  • なんとも評しがたい・・・・・とは、すでに論尽くされているのでしょう。
    黒澤で観るか、内田で観るか、というところでしょうか。
    「残しておきたかった」ということでしょうか。
    違う自分もいるのだぞ、ということだったのでしょうか。

  • 初めて観たが結構好きだった。
    冗長とも思える誕生日会の様子や歌を歌うシーンも、なんだか懐かしいような新しいような気持ちになって思わず見てしまった。

    ストーリーとしてとか、映画論的にという話はさておき、
    酒が飲みたくなり、鍋が食べたくなり、タバコが吸いたくなり、雨の日の葉っぱの匂いを思い出し、庭が欲しくなり、鳥の声に耳を傾けてしまう、そんな映画だった。

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著者プロフィール

(くろさわ あきら 1910−1998年)
日本を代表する映画監督。1943年『姿三四郎』で監督デビュー。生涯30本におよぶ名作を監督した。『七人の侍』(1954年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞)など海外の映画祭での受賞が多く、映画監督として初めて文化勲章、国民栄誉賞を受賞し、1990年には米アカデミー名誉賞が贈られた。

「2012年 『黒澤明脚本集『七人の侍』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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