- Amazon.co.jp ・映画
- / ISBN・EAN: 4935228085309
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
東京に住む4人家族の佐々木家。
しかし、平凡だったはずの日常はあることから崩れ、
家には誰もいなくなってしまう…。
リストラにあいながらも失われていく威厳にすがりつく父親、
繰り返す日常から連れ出してほしいと願う母親、
世の中の役に立ちたいと願いアメリカ軍に志願した長男が見た世界の現実、
そして家族の未来に光をさすのは少年の才なのだ。
日本の社会がうまく一つの家族に落とし込まれていると思った。 -
黒澤監督らしい場面が所々今回もあり。
-
ストーリーそのものより、映画としての出来が
素晴らしいなと思いました。
役者さんたちの演技もはまってるし、
褪せた感じの画とBGMも合っていて、雰囲気のある映画。
ゆるやかに、だけど確かに壊れていって、
壊れて壊れてどうしようもなくなって、
最後にふっと救われる。
そんな流れにも無理がなくて自然でした。
なんにせよ生きにくい時代。
でもきっと、投げ出さなければ
やり直す道は、どこかには拓けているのだろうな。。 -
黒沢清監督はホラーの名手としても知られる。最近では作品の幅も広がってきたが、本作は黒沢清監督の初のホームドラマという名前を借りたホラー(不安の物語)である。
主人公は健康メーカーのタニタ総務部で課長を務める佐々木竜平(香川照之)。総務局が中国にアウトソーシングとなり、リストラ。しかし、家族には言えず、毎日、スーツを着て、町をぶらつく。公園の食料配給に並んだり、図書館で時間を潰したりといった具合。
一方、妻の恵(小泉今日子)も不幸せというわけではないが、鬱屈した日々を送っている。大学生の長男、貴(小柳友)はチラシのビラを配ったり、やりきれない日々を送り、小6の次男、健二(井之脇海)はどこか浮いた存在で、学校給食費をくすねて、親に内緒でピアノを習っている。
それでも、夕食をともにする一家。しかし、ある時、長男は米軍が外国籍を受け入れるというニュースを聞き、入隊を志願。次第に不協和音が明らかになってくる…。
この映画はいろんな見方があるだろう。40男が見れば、香川に自身を投影するだろうし、妻は小泉今日子に自分の姿を重ねるだろう。若者なら、小柳に、子供なら、海君に重ねるかもしれない。彼らが抱えている秘密(=不安)は誰しもが持っているものだ。
40歳(まだ39だが)子持ちのサラリーマンである僕は当然のことながら、香川に自分を重ねた。
劇中の「トウキョウ」は東京ではない。あくまでもトウキョウだ。そんなに遠くではない東京のリアルな未来の姿と言える。
主人公は勤めていた健康機器メーカー、タニタ(これは実在する会社、僕も体重計を愛用しているだけにちょっとびっくり)をリストラされる。その理由は会社の中枢機能である総務局が中国にアウトソーシングされるというのだ。ただ、こんなことも起きるのではないか、と想像できるくらい日本の今の労働問題は深刻だ。
主人公はリストラされたことを家族には言えない。多分、僕も言えないんじゃないかと思う。
小泉今日子が出ていることで、同じく家族が秘密を抱えているとい話の「空中庭園」を連想するが、黒沢監督はそこから数歩進んで、家族と社会の問題として描く。ここが「20世紀少年」にはなかった部分で、さすがは黒沢清だ。
映画には目下、日本が直面している問題が鋭い示唆を持って描かれる。ワーキングプア、失業問題、リストラ、自衛隊派兵、自殺etc。
主人公は古い家長制度にこだわって、威厳を保とうとしているが、家族も本人もそれが崩壊していることを知っている。それでも、家族は食卓をともにする。それをやめてしまっては、本当に家族が崩壊することを知っているからだ。ただ、食卓は沈黙があり、それは嵐の前の静けさのようだ。そんな張り詰めた空気が、観客の不安を駆りたてる。家族は、危機を抜け出すことができるのだろうか?
しかし、その危機=(不安、恐怖)は誰しもが抱えているものでもある。ある者は一線を越え、死を選んだり、犯罪に走ってしまう。
ある夜、家族は決定的な危機を迎えてバラバラになる。その後、どうなるかは観客の楽しみのために取っておこう。ちょっとだけヒントになることを書いてしまうが、彼らの不協和音を救うのはソナタである。ソナタは室内楽曲。生活にはムダと言える芸術が彼らを救う。そこに、製作者の強い意志を感じる。 -
レンタルで視聴。とある本で紹介されていたので気になり観てみることにしました。
これすごいなぁ。
すごい。そして怖い。
黒沢清は日常がちょっとずつズレていって、狂気がひょっこり顔を出すみたいな、日常と紙一重の狂気、不安、不都合を描くのが上手い監督だなぁと思いますが、その黒沢清節(?)が存分に発揮されている映画だと思いました。 -
小泉今日子目当てで鑑賞。彼女はエキセントリックだった若い頃から、「普通の人」を演じると実に魅力的だったが、年を重ねるに従ってその度合いが増している気がする。普段は他人には見せないが、その人の奥に「何かある」と感じさせるし、本作のように実際に非日常が訪れた時の反応に説得力があって良い。作品全体としては、作中の暗さとラストのバランスが悪い気がする。暗いトーンのシーンが多すぎてちょっと辛い。最後にやや救いというか出口めいた予感があるが、もう少しすっきりさせて欲しかった。あと、本筋とはちょっと異なるが、井川遥のピアノ教室は実に羨ましい。子供の頃、近所にあんな先生がいればきっと今頃はピアノが弾けていただろうと思う。
-
いたたまれない。荒れて荒れて収拾がつかないまま時間だけが確かに流れていく展開が痛々しく、リアル。
-
表面的には幸せな4人家族。それぞれにモヤモヤとした何かを持っている。
父香川の突然のリストラ、それを家族には告白出来ない。母小泉はソツない優しいお母さんなんだけど、自分の居場所がない的な喪失感を持ち、兄は兄で母とは違う自分の居場所を探そうと迷走する。
弟は弟でやりたい事を上手く告げられずにいる。それを告げようとすると逆に空回りしてしまう。
少しづつから加速度的に家族が壊れていき、壊れた所で緩やかに戻ろうとしている。
エンディングが少し納得の出来ない終わり方というか、「エ、これで終わりなの」的な終わりかたでした。
それが余韻になったり、物足りなさを感じたりするかと思います。
一番注目したいのは小泉さん。優しさの中にも威圧感を感じ、年取ったというかオバサンになったという感じがしました。
映画にあたり、小泉さんは監督に「顔の皺を隠さず全部そのまま撮ってください。」と注文したそうです。
それは人生を家族と共に歩んできたお母さんを表現したかったのかなと思います。
香川さんの演技も上手さも光りますが、小泉さん、凄いなと。
お勧め度的には、観ても損はないかなって感じです。 -
映画史や邦画史の中での位置づけなどはわからないが、大傑作。
威厳がないくせに権威を気にする父親、
空虚を感じ始めている母親、
日本を守りたいといううわっすべりな兄、
ふと気にとめたピアノにしか打ち込めない弟。
さらにいえば父親のもと同級生や、
兄の友人、弟のピアノの先生、
そしていいところを持っていった強盗。
みな現代だとか都市だとかの磁力に、何かを奪い取られている。
もともと黒沢清は、コテコテや月並をうまく活用する作家だが、今作でもステレオタイプに辟易する一歩手前のキャラクターたちを動かしている。
妙に斜めの線を多用した、居心地の悪い構図も効果的。もちろん音楽も。
役者で光っていたのは小泉今日子。