エモーション・アンド・コモーション

アーティスト : ジェフ・ベック 
  • ワーナーミュージック・ジャパン (2010年3月23日発売)
4.29
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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・音楽
  • / ISBN・EAN: 4943674097272

感想・レビュー・書評

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  •  スタジオ・アルバムとしては7年ぶりの新作だが、ベックは2008年に傑作ライヴ盤『ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ』を発表しており、そこでは『ワイアード』『ゼア・アンド・バック』の流れを汲むバリバリのハード・インスト・ロックを展開していた。

     となれば、新作にはその延長線上にあるハード路線を期待するのが人情というものだろう。新作でバックを固めるのが、『ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ』でも共演したヴィニー・カリウタ、タル・ウィルケンフェルド、ジェイソン・リベロなのだから、なおさらだ。
     雲間からの陽光を浴びて鷲がギターを運んでいるジャケットも、いかにもハード路線っぽいし……。

     ところが、フタを開けてみたら、この新作はベック史上最もロック色の薄いアルバムであった。
     収録曲中4曲で、ベックは64人編成のオーケストラと共演している。また、約半数の曲が、異なる個性をもつ3人の女性シンガー(ジョス・ストーン、イメルダ・メイ、オリヴィア・セイフ)を起用したヴォーカル・チューンなのだ。

     かつて北中正和は、インスト・ロックの金字塔『ワイアード』を評して、「これほどハードで緊密な演奏の連続では、ヴォーカルの入る余地などなかったというべきだろう」と書いた(うろ覚えだが)。
     そう、ヴォーカルの入る余地すらないのが、『ブロウ・バイ・ブロウ』以降のベックの音楽であったはずだ。たまに気まぐれでヴォーカル・チューンを入れると、『フラッシュ』のような駄作になる危険性が高いのである。

     果たして、ヴォーカル・チューンが半分を占める本作も、かなり退屈な仕上がりになってしまっている。ベックの音楽を愛することにかけては人後に落ちない私だが、本作は好きになれそうにない。

     細川真平という音楽ライターがライナーノーツを書いていて、これが、本作を聴いたファンの戸惑いを斟酌したいい文章になっている。
     ライナーノーツでアルバムをほめないわけにはいかないが、細川はいきなり「ジェフ・ベックに裏切られた」という言葉で筆を起こす。そして、ハードなインスト・ロックを期待したファンの心情を代弁したうえで、「しかし、ああ、この裏切りは、なんという心地好さだろう」とつづけて、無難な絶賛につなげていく。文章に芸がある。
     だがそれでも、細川がホンネでは本作をあまり気に入っていないことは、端々から感じ取れる。たとえば――。

    《ギター・プレイについて触れるならば、本作はほとんど初めて、“ジェフ・ベックのギター・プレイが進化しなかったアルバム”だと、表面的な意味においては言っていいかもしれない。
    (中略)
     その代わりにここには、大いなる歌心がある。》

     「うーん、ほめないわけにはいかないけど、あんまりほめたくないなあ」という揺れる心情が随所に透けて見えるのである。

     まあ、中にはいい曲もある。
     アルバム中唯一のハードなインスト・ロック・ナンバー「ハンマーヘッド」はさすがのカッコよさだし、「ネヴァー・アローン」はバラードながらスペイシーな美しさと緊張感に満ちたベックらしいインスト曲だ。オーケストラをバックにギター一本で演奏される「虹の彼方に」も、意外に悪くない。

     だが、「いいな」と思えるのはそれくらい。
     ヴォーカル・チューンは総じて退屈。てゆーか、ヴォーカルが邪魔(笑)。たとえば、「ノー・アザー・ミー」はヴィニーとタルのリズム・セクションが本領を発揮した曲で、ベックのギターとのからみが非常にスリリング。なのに、ジョス・ストーンの歌い上げるヴォーカルが邪魔で、そのインタープレイを十分味わえない。おまけに、演奏がいちばん盛り上がったところでフェイドアウトしてしまう。

     最悪なのが、オーケストラとの共演によるプッチーニの「誰も寝てはならぬ」。毒にも薬にもならないイージーリスニングのような出来で、「こんなの、ベックが演る必然性がどこにあるんだ?」と言いたくなる。ベックには昔「恋はみずいろ」を大甘なアレンジで演った“前科”もあるが、あれに次ぐ「黒歴史」となったといえよう。
     ライナーにはこの曲について「本アルバムを代表する感動的な1曲」とあるが、細川さん、それって痛烈な皮肉でしょ(笑)。

     なお、ライナーによれば、細川が2009年にベックを取材した際、彼は「俺とタルとヴィニーの3人だけでレコーディングした、17時間に及ぶ音源がある。この中のいくつかの部分が、最高の出来なんだ」(趣意)と言っていたのだとか。このアルバムみたいな軟弱路線はもういいから、次はそっちをぜひCD化してほしい。

  • 2014.8.25初

  • エリック・クラプトン、ジミー・ペイジと並ぶ世界3大ギタリストといわれて久しい。他の2人と同じくブルースロックを出発点にしながら、フュージョンやテクノ、クラシックとジャンルを超越して新たなサウンドを求め続けてきた。新作で「本当にすごい音楽を作り出せた」と胸を張る。65歳になっても挑戦者だ。
    7年ぶりのスタジオ録音盤となった24日に出る最新作「エモーション・アンド・コモーション」ではクラシックに挑んだ。64人編成のオーケストラを従え、プッチーニの歌劇「トゥーランドット」からの「誰も寝てはならぬ」などを演奏した。「以前からクラシックのアルバムを作りたかった」と明かす。数年前、未発表になったが、マーラーの交響曲第5番を録音したのがきっかけになったという。
     ボーカリストを3人入れ、歌を前面に出したのも注目される。早世したシンガー・ソングライター、ジェフ・バックリィ作曲の曲では歌うようなギターソロが異彩を放つ。「ジェフの声のようにギターを弾けたらと考え、それがうまくいった」と満足そう。2000年代はドラムンベースなど、先鋭的なリズムを取り入れたが、再びメロディーに関心が向き始めたようだ。

    語る)ギタリスト ジェフ・ベック氏 リズム志向から旋律に回帰
    2010/3/21付日本経済新聞 朝刊

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