アパシー 学校であった怖い話1995~Visual Novel Version~新装版

  • 七転び八転がり
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4571302290032

感想・レビュー・書評

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  • 臓腑を目の当たりにして、恐怖と共に好奇心にも襲われる。

    『アパシー 学校であった怖い話~Visual Novel Version~』と銘打たれ、複数回リリースされたバージョン違い作品の中では世で二番目に出た作品となります。
    詳細については「新装版」と付かない当該作品のレビューでも触れさせていただきました。いささか不親切ではありますが、ご興味が許せばそちらもご参照ください。

    元が小説である以上、内容については別途Kindle配信版で紹介させていただきました、ご容赦ください。

    まず、元となったゲームソフトと比較しつつ、本作がどうバリエーションとして違うのかを解説していきます。
    『学校であった怖い話』といえば、やはりサウンドノベルの異端児にして正統派、縦書きこそ正義といった風潮がありましたが、こちらは同じ全画面に文字が流れるという形式を取っていても横書き表記です。

    こちらはPCおよび携帯端末からの表記に慣れた新規層のユーザーに合わせる意図もあって、また当時「決定版」として構想していたソフトに満を持して縦書きを採用したいという意向が働いていたためだそうです。

    これに伴って演出を伴ったフォーマットは一新されており、新規一枚絵の追加も相まって旧版と比べた際のプレイ感覚は結構異なると思われます。
    直近の作品である『アパシー ミッドナイト・コレクション vol.1』からも意見を汲み上げたためか、基本が一本道という事を差し引いてもプレイを阻害する要素はそうはありません。

    また、BGMがSFC版で用いられたものから、新スタッフの「sub tonic」さんが作曲したものに差し替えられています。事情については別の記事で。

    元の良さはここで語るまでもありませんが、こちらも同じくピアノ曲です。個人的には抑えめで情報量を控えた静的な印象を受けます。
    こればかりは慣れとしか言いようがありません。SFC版、PS版、ここPC版と既に語り部六人には三種類のテーマ曲が設定されているので、選択肢が増えたと思ってくだされば。
    十年越しに聴いてみるとどれもいい曲だと感じたのが私自身偽らざる感想だったりしますが。

    次いで特筆すべきところとして新規一枚絵の追加に関して述べます。
    こちらは流血描写はもちろん内臓の露出にまで踏み込んだゴア表現の強調が主ですね。
    特に岩下さんの話で絶対に欲しかったタイミングの一枚が追加されているのは大きい。

    ただし、描き起こされた一枚絵に関してはおおむね自然に馴染んでいる一方で、新規立ち絵はモブキャラのものといえタッチが全く異なるため全体から見ると違和感があります。

    ちなみに元々の旧版は残虐描写に難色を示したユーザーへ配慮した結果、一話以降は自粛したものだそうです。
    その後、挿絵が乏しいその他の旨を送ったユーザーの要望に応えたというのが、出し直しに至った経緯のひとつと考えれば、自由な同人ゲームにおいてもゾーニングと周知は結構重要なのかなと思わないこともないです。

    ただ、追加分も旧版から相変わらず最大級のグロさを誇る新堂さんの一話目の後なら何とかなるレベルであることに変わりはないです。
    後出しが上手くいった、衝撃が満遍なく散って話全体が引き締まったと考えても悪くないかもしれません。

    担当者についてですが、この時期には初期のキャラクターデザインを担当された「芳ゐ(現:yos)」さんが退いたこともあって、他のスタッフ陣が手掛けています。
    その中には、後の作品でもキャラクターデザインとして参加されている漫画家の「両角潤香」さんがゲストとして関わっています。

    プロと言えば、歌姫「片霧烈火」さんのエンディングテーマ曲『回帰羅針』も聞き逃せません。
    FULLの曲ではないのですが、あの徹底的にぶっ壊れたクライマックスの後に深く深く心の海の底に沈んでいくラストにはよく似合った詩と調べが好きです。

    短いながらに「無限ループ」や「躁鬱的な狂気」といった『学校であった怖い話』でよく用いられるモチーフを盛り込んでいるというのもいいですね。

    そして忘れてはいけないゲーム終了後のおまけ分岐シナリオ『岩下明美が語る飴玉ばあさん』についても文量を割きますね。
    こちら、新堂さんのそれと題材は同じでも語るのが「都市伝説」より「男女の狂愛」を得意とする岩下さんなだけあって、話の中心に野々宮亜由美というひとりの女子生徒が置かれているのが特徴です。

    順調に今野英俊という男子生徒と交際を結んでいた彼女たちの前に、毒にも薬にも、その両方ならなお悪い……飴玉を差し出す謎の老婆が現れて――。

    元々「飴玉ばあさん」はルールさえ守っていれば害はないようでいて、結構理不尽な面も見せる存在なんです。そのせいで普通の男女関係が無惨になり果てるのは結構辛いですね。
    泣き顔が似合う野々宮さんの末路を追っていくことで、切なくて美しいだけどとっても悪趣味な体験ができると思いますよ。

    あと、選択肢の選び方次第では「嘘」がフラグになってバッドエンドのトリガーを引く展開が多いのもポイントです。
    ここは「岩下明美」のキャラクター性を踏まえるとオールドファンとしても納得ですし、プレイヤーの心理を突くゲーム的側面が合致したようで結構高次元にまとまっています。

    後の分岐型ゲームリリースに向けた習作としての面もあると思うので見逃せません。
    ビックリ系も目立つんですが、思わぬ笑い話や理不尽過ぎる唐突死もあったりの十数種類のエンディングは本家のゲームにかなり色を付けたという趣です。
    おそらくこのレベルのシナリオがあと五十本集まれば本家を質・量ともに遙かに凌駕するゲームが完成します。

    その上、全エンディング網羅後に発生する一本道シナリオが秀作です。
    「飴玉ばあさん」の新解釈として見逃せず、『アパシー ミッドナイト・コレクション vol.1』にもつながる仕掛けが施されています。

    ちなみに「飴玉ばあさん」は前期「アパシー・シリーズ」では一人の登場人物として独り歩き、準レギュラーしており多くの出番に恵まれているのでファンの方は探してみてもよいかと。

    最後に総評を述べます。
    本作のウリは廉価版として値段を抑えた手に取りやすい仕様、ストレスを排した遊びやすさ、ほどほどの一本道のボリュームと遊び込める分岐の楽しさ、他の作品とのリンクなどです。

    オールドファン垂涎の要素からは遠ざかったものの、シリーズの取っ掛かりとしては非常に優秀です。
    ただし、このレビューでは触れませんでしたが、シナリオ・演出面ではかなりドぎついので初心者を呼び込む上ではコンセプト上厳しいのも確かです。

    シナリオの好悪は人によって分かれるので星には関係ありませんが、その辺の齟齬が商業的に気になったので便宜上星四つとさせていただきます。

    ちなみに、本作で書き下ろされた『岩下明美が語る飴玉ばあさん』は『学校であった怖い話1995 特別編 追加ディスク』に再収録されています。
    ただし、比較的高価&本家越えのボリュームという事もあるのでそこだけを狙っては遊びづらく、私見ですが初心者向けのソフトとしての価値はさほど毀損されているとは思いません。
    どちらにせよ、購入の助けとなれば。

    以上。商業的なあれこれの事情が読み苦しいレビューになってしまいましたがご容赦ください。
    それもこれも、バージョン違いが乱立する方が悪いと、少々恨み言を言いたい気持ちもないことはないです。

    読む方、プレイする方としてもこの物語を一度しかまっさらな気持ちで味わうことができないと考えると、それこそ罪作りなゲームたちなのかもしれません。

    でも、さしずめ五臓六腑はいざ撒き散らしてみれば、期待された不快感を面白さが上回るところもあると思うんです。もちろん、その逆もしかり。人それぞれ。
    遊ぶ方も作る方もやってみなければわからない中、あなたも腹の底をぶち撒げてはいかかですか?

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