銀河英雄伝説 文庫 全10巻 完結セット (創元SF文庫)

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感想・レビュー・書評

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  • アニメではよく見ていた銀英伝を改めて原書で読んだ。正確には聞いた。というのもAmaoznにAudibleという本を朗読してくれるアプリがあり、まだコンテンツが揃わない同サービスの中で銀英伝が輝いて見えたからだ。アニメ版は銀河声優伝説といわれるほどスター声優のオールキャストだったが、こちらは単独の朗読(下山吉光)で聞かせてくれる。全十巻、80時間ぐらいのリスニングとなったがとても楽しめた。

    ストーリーは余りにも有名かつ長いので割愛するが、博識かつ遅筆な筆者の莫大な歴史的知識から漉しだされたシニカルかつ現実的な政治群像劇なのだが、それでいてラインハルトの成功物語としてみるとこれほどロマンチックな冒険活劇もない。おそらくは、このラインハルトの征服譚を機軸としながらその対極の存在であるヤン・ウェンリーと相克させることにより、その主題である「英雄一人(あるいはその末裔)に独裁される政治形態よりも、たとえ衆愚に陥ったとしても人民がリーダーを選出する政体の方が主体性と責任が人民にあるだけまだマシ」という作者のメッセージを何度も何度も読むものに訴え、考えさせる展開になっているのだと思う。

    それにしてもこの本を読む限り、通常の人間の行為はなんと愚かしいのだろう。そして意思ある人間の集団はなんとも美しく頼りがいのあるものに見えるのだろう。ただ、それも時が経つと腐臭を放つようになり、やがては衆愚民主政体よりも罪深いものとなっていくであろう様が物語りの現在と過去、そして未来を通じて浮かあがり、完全にフィクションの小説にもかかわらず教訓めいてくる。なんというか、三国志や幕末維新の物語と同様に、事を共に成す人達にはみんな読んでもらい、このコンテキストを共有したくなる名著だと思う。

  • 自らが皇帝となって宇宙の支配者となり、民衆のために政治を取り戻そうとするラインハルトと腐敗の渦中にあってそれでも民主主義を信奉するヤン・ウェンリー。二人の相剋を描くスペースオペラ大作。

    20周遅れくらいで銀英伝を読んでみました。なんかみんなもう読んでるから手を出しづらかったのです。しかし出版から四十年を経ても再版されたりアニメが新しくできたり、愛されている作品なのですね。
    ということで、あまり先入観や事前の知識なく読み始めたのですが、実に面白かったです。全10巻一気読みの至福の読書体験でした。

    このお話は宇宙を巡って争う勢力の双方にいる傑出した人物を描くもので、そのざっくりしたストーリーだけだと陳腐にも思えるのですが、第3(第4)の勢力を織り交ぜたりしながら複雑な話運びを演じてみせたりするところがストーリーテーラーとしての腕の高さが楽しめるのです。また、ドイツ帝国的な懐古趣味な憧れから生まれる中二病的銀河帝国の描写や設定の細かさなどは本当に大したものだと思わされました。
    一方で背景として重厚に横たわるのが独裁専制と共和民主制、どちらが優れているのかというかなり強めの政治的メッセージです。ストーリーの中では民主主義は腐敗して歯止めの効かない破滅へと突っ走りますが一方で独裁主義はトップダウンの英断で民衆のための善政が進んでいきます。民主主義陣営の主人公、ヤン(これは現世界のわたしたち西側諸国の政治体制の代弁と思われますが)は深刻な矛盾と誤謬に悩まされたりするのです。この善政の独裁か腐敗の民主主義どちらが良いのか、というテーマは銀英伝の裏の主題なのでしょうね。しかし作者(および主人公ヤン)は、腐敗と廃退に直面する民主主義をそれでも信奉していて、その思想を守り抜こうと奮闘するのでした。結局軍配は独裁制に上がるのですが、最後には独裁と共和、どちらか一方ではなく、折衷あるいは共存を示唆してくるあたりに救いがありました。40年前という時代に書かれたものですが、このテーマは(残念ながら)色褪せません。隣の国ではどうしようもない戦争がツァーリになりたい一人の独裁者のために巻き起こっているし、やはり隣の先制国家はいつ小さな島を焼き尽くそうか手ぐすね引いているように見えます。この本をはじめとしてこの時代にたくさん生まれたディストピアSFなどの教訓が全く生かされずに時代が動いていくのを目の当たりにしていると、人間の救い難さが身に沁みます。
    ともあれ、銀英伝はストーリーの面白さやキャラクターの魅力、そして背景に示される人間社会への普遍的なメッセージに裏打ちされた名作でございました。この先もずっと読み継がれる名作ですね。
    国家観やその思想を深く追求した読み物ということで司馬遼太郎「坂の上の雲」と一緒に楽しむのも乙かもしれません。あちらは司馬遼太郎が色々好き勝手に書いてそれを多くの人が信じ込んだおかげで大変な目にあった人もいるようですが、銀英伝の方はフィクションなので安心して読めます。

    あと外伝も結構なボリュームがあるのでこちらも続けて読もう。

  • アニメ映画から入り 続きの小説版を10巻を一気に読了  宇宙を舞台にした人類、二大陣営の飽くなき戦いを描いた銀河英雄伝説 やはり印象的なのが民主主義を掲げる自由惑星同盟が、開明的な社会制度とされる民主主義制度に振り回され、不条理な決定や愚かしい判断の末に、 専制国家に滅ぼされるという内容は民主国家に生きる 私たちにとって 感慨深いものではないでしょうか? 現実の日本も政治は停滞・国民は空想的な理想を求め、官僚は私腹肥す。 そういえば周辺国に専制国家も複数ありますね。

  • ゆっくりと4ヶ月かけて読みました
    入り口はアニメからでしたが
    やはり小説でもヤンの最期は悲しかった
    あとロイエンタールが叛乱するに至った心境がより綿密に綴られていました

  • 壮大で知的で感動的な人間ドラマ。随所に入る歴史的視点が印象深い。メディア展開がどれだけ続いても、原点の感動は色褪せない。

  • 徳間文庫で読んだのだけど。
    入り口はアニメでした。
    5巻からの展開が極上に面白い。もう。どのキャラクターも魅力的的で。また時間できたら読み返そうと思う。
    中国SFのの三体よんでたらヤンの言葉が引用されていて、海外の作家にも影響を与えてるんだと改めて思った。この人の作品、途中までしか読んでないの多いのだけどこれはもう、文句なしに最高。

  • SF自体を読むのも初めてだったし、スペースオペラというジャンルも初めて知った。
    壮大な宇宙のなかで繰り広げられる戦い、人間関係、政治。
    その世界にいるような感覚にさせられるくらい、人物や世界の描写が細かく、面白かった。

    私がこの本のなかで最も勉強になったのは、戦略と戦術の違いだった。
    言葉はよく耳にするものの、ちゃんと理解をしていなかったと思う。
    経営に於いても、重要な要素である。

    この本の主人公、ラインハルトとヤンは、どちらが正義でどちらが悪というものではない(個人的な好みはありますが)。どちらもそれぞれの理想とする社会のために戦っていた。

    私は政治を勉強してこなかったので、専制国家や民主主義についてもよくわかっていなかった。そのため、よくわからない言葉が出てきたら、調べてまた読むということを繰り返していたので、読書をするのに過去一番時間がかかった。

    ラインハルトが率いる銀河帝国は、専制国家で皇帝をトップとしている。つまり、独裁政権である。 これは、 国民自体が、非凡なリーダーを必要としている結果で成り立っている印象をうけた。

    ヤン率いる自由惑星同盟は、帝国を逃れた人々が宇宙の対極に樹立した民主主義の国家。

    専制政権はよくない印象を受けるが、ラインハルトはルドルフと異なり、自分の私利私欲がなく、国民のために派な人間で悪いところが見当たらない。

    しかし、完璧なリーダーが率いたとしても、その後完璧でないリーダーがその地位に就いた場合、体制を変えることが難しくなる。例えばそれを選挙などで候補を募れば別かもしれないが、 トップの血縁者がなる場合国民は不幸に陥ってしまう。

    ヤン率いる民主主義の国家は、リーダーは自分達で選ぶべきと説いていた。

    この本で気になった点は3点。

    リーダーシップ
    モチベーション
    女性像

    1.リーダーシップ
    ヤンもラインハルトも、 リーダーシップがあり、それぞれ付いていきたいと志願する人が多い。

    ヤンは自分自身はトップに立ちたいというわけではない。命令することはほとんどなく、やわらかい人柄である。しかし、彼が同盟軍を勝利に導いたという結果によって彼はリーダーにならざるおえなかった。
    しかし物語を読み進めるにつれて、頼りなかったヤンも環境に適応し、少しずつラインハルトに劣らないリーダーになっていったと思うり

    ラインハルトは、キルヒアイスとの約束にもあるように、宇宙を手にしたいという目的を持ち、トップに立つことを志して戦いをしてきた。自信に満ち溢れているが敵も多い。


    自分がついていくのならばどちらかと考えると、ヤンの方だと思う。


    2.モチベーション
    ヤンの部下にしても、ラインハルトの部下にしても、それぞれの国のために戦う人物が多かったと思う。

    個人的な私利私欲のために関わっているのは、ルビンスキーやトリニューヒトなど、フェザーンに関わる人物だけであり、その他の主要人物は、昔の日本のように、国のために戦っていたように感じた。

    もちろん、自分の地位や名誉、家族のためというものはゼロではない。しかし、目的達成をそれぞれ掲げ、そこに向かって邁進する様子は心地よかった。

    3.女性像
    この物語にはほとんど女性が登場しない。
    しかし、強烈に印象を残すのは3名。

    ヤンの奥さんになったフレディカ。
    ラインハルトの奥さんになった マリーンドルフ
    そして アンネローゼ。

    3人を比較すると、 上の二人はとても似ている。仕事でパートナーを支えて、かけがえのない人になる。

    アンネローゼはただそこにいるだけで、なにか仕事をしているわけではない。
    しかし、すべての発端は、アンネローゼがフリードリヒ4世の籠姫になるところから始まる。

    個人的には、アンネローゼが一番ミステリアスで惹かれた。 ここだけは見せないような部分や妖艶さというのは、女性として魅力がある。

  • 学生の頃、リアルタイムで読んだ作品。通しで読むのは何度目だろう?

    初めて読んだ時は、圧倒的な帝国派だったが、年齢と経験を重ねていくと、どちら派でもなくなり、毛嫌いしていた人物にも同情や悲哀のようなものを感じるようになった。

    何回読んでも8巻での喪失感は大きく、残りの2巻は半分義務感で読むかのごとく勢いを失ってしまう。

    そんな予定調和も含めて、時の風雪を物ともせず何度も楽しむことができる魅力が、この作品にはある。

  •  本当は徳間書店の新書判で本伝10巻+外伝4巻を、外伝5のみ創元SF文庫で持っている。

     言わずと知れた不朽の名作。
     司馬遼太郎の歴史小説が好きな人は、きっとハマると思う。

  • もはや人生のバイブル。メモしたいと思うような名言や表現が数多あり、自分の見識の狭さを垣間見たりもしたが、とても勇気づけられた。
    兎に角登場するキャラクターがとても魅力的で
    自由惑星同盟、銀河帝国軍、どちらも好きです。

    余力のあるときに各巻ごとの感想をかきたい(笑)

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著者プロフィール

1952年熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年「緑の草原に……」で幻影城新人賞を受賞しデビュー。1988年『銀河英雄伝説』で第19回星雲賞(日本長編部門)を受賞。2006年『ラインの虜囚』で第22回うつのみやこども賞を受賞した。壮大なスケールと緻密な構成で、『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『創竜伝』『アルスラーン戦記』など大人気シリーズを多数執筆している。本書ほか、『岳飛伝』『新・水滸後伝』『天竺熱風録』などの中国歴史小説も絶大な支持を得ている。

「2023年 『残照』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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