バベットの晩餐会 HDニューマスター [DVD]

監督 : ガブリエル・アクセル 
出演 : ステファーヌ・オードラン  ジャン=フィリップ・ラフォン  グドマール・ヴィーヴェソン  ヤール・キューレ  ハンネ・ステンスゴー  ボディル・キェア 
制作 : ユスツ・ベツァー 
  • 紀伊國屋書店
3.97
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4523215060882

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  • 19世紀のデンマークの辺境の村にマーチーネとフィリパの老姉妹と、家政婦のバベットの住む家がある。
    姉妹は牧師だった亡父の教えを受け継ぎ、貧しい人達への施しで生きている。

    美しい姉妹には、若い頃に求愛者がいた。姉のマーチーネに惹かれたのは地元で謹慎中の遊び人騎兵隊隊士のローレンス。姉妹と触れ合うことで清冽で敬虔な生活に憧れを見出すが、姉妹の父が解く神の言葉に自信を失い立ち去る。
    妹のフィリパの前に現れたのは、高名なフランス人バリトン歌手アシール・パパン。精神的行き詰まりから旅行に出た村で美しく賛美歌を歌う彼女に惹かれた。だが自分の心が動くことを怖れたフィリパはパパンの出入りを断った。
    宗派の教えでは、人間に愛や欲を否定している。父は娘たちがただ施んしなどの善行と神への信心だけで生きることがこの世の使命だと思っている。姉妹はこうして誰の求愛を受け入れることなく年老いていった。

    35年後。パパンからの手紙を持った中年女性が現れた。それがフランス人女性で料理人のバベットだった。パリ市街戦で家族も家も失ったバベットは身一つで生き残り、親戚のいるデンマークに渡る。それを知り合いのパパンが、姉妹に手紙を託して頼らせたのだ。
    パパンからの手紙はいまだにフィリパへの慕情に溢れていた。美しい想い出。あなたの歌声は今でも心に響いている。きっとあなたは愛しい子どもたちに囲まれて穏やかな生活を送っているのだろう。今自分は孤独な老人だ。だが天国で私はあなたの歌をまた聞くことができる。人生は墓場で終わりではないのだ。
    その手紙を懐かしく読む姉妹。彼女たちも家族など作ってはいないのだ。

    姉妹は相変わらず信者の集まりを続けていたが、新たな信者は増えず、昔ながらの村人たちは年を取り頑固で過去の諍いを思い出して揉め事を繰り返していた。
    そこで姉妹は、懇親のため亡父の生誕100周年と称して軽い集まりを催すことにする。
    そんなときにバベットに手紙が来る。
    パリにいた頃に買った宝くじの1万フランの大金に当選したというのだ。姉妹は彼女のために喜びはするが、複雑な気持ちもあった。きっと彼女はこの家から出てフランスに戻るだろう。老境の自分たち二人で信者たちの面倒を見られるのだろうか。

    バベットは、姉妹に「お父様の生誕祭で、本格フランス料理での晩餐会にさせてください」と願う。そして「費用は全部出させてください。この家にきてから初めてのお願いです」と説得する。

    数日後、合わせて12人の晩餐のために、バベットが買い付けた山程の食材が運び込まれる。
    生きたままのうずらやウミガメ、まるごとの豚、見たことのない多くの野菜、新鮮そのものの果物、最高級のワイン。
    だがそれを姉妹や村人たちは複雑な気持ちで見守る。
    慎ましい生活を送る辺境の村ではみたことのない食材は、あまりの贅沢に感じた。邪悪な力すら感じるくらいに。
    姉妹と村の人々は、「贅沢な食事に惑わされて悪魔の囁きに負けてはならない。料理は、食べるが味わうことはしない。話題にもしない」と誓い合う。
    辺境のカトリックの教えは「天国に持っていけるものは人に与えたものだけ」なのだ、贅沢など決して味わってはいけない。

    晩餐会の噂を聞いたパリの将軍から「牧師に世話になったので」と参加の申し込みが来る。
    それはかつてマーチーネに心惹かれたローレンスだったのだ。ローレンスはマーチーネと離れたあと、反動のように出世に生きていた。だが心は虚しかった。はたして自分の人生は正しかったのだろうか。その答えを見つけたい。

    そして晩餐会の当夜。

    調理場面がね、よいのですよ。
     うずらの毛をむしり、パイに詰めてトリュフを飾る。
     パンケーキにはラップ理のキャビアとクリーム
     貝をソースで思いっきり煮詰める。
     ケーキに果物とシロップを飾ってゆく。
    これを田舎の狭いがいかにも使い込まれた台所で、バベットがたった一人で切り回すその手際の良さ、無駄がないが優しい動き。思いっきり自分のできることをする、あとを考えずに自分のすべてをつぎ込む。楽しかっただろうなあ。
    台所の隅で、将軍の御者もしっかりおもてなしされ、すごく満ち足りた顔して味わったり、ちょこちょこと手伝っている姿もなんかいい。
    サーブするのはバベットの甥っ子なんだが、バベットがしっかり指示して甥っ子も働き者で、お客さんの残り物をちょこっと味わったり、うん、いかにも家庭の優しい食卓。

    だが村人たちは、その料理に最大限の警戒心を持って接する。
    一人料理の素晴らしさを称賛するローレンス将軍。最高級のワインにシャンパン、最高級の食材、本物の本物。そして思い出す。かつてパリで称賛された女料理人がいた。この料理はまさに彼女の作ったものだろう。料理を恋愛にさせる腕前。精神と肉体の欲を同一にさせる腕前。
    名誉と出世に生きた自分の選択が正しいのか間違っているのかもうそんなんことはいいのだ。神の恵みは無限大。それをを感謝の気持で受け入れよう。神の愛に条件など無い。選択したものも、拒絶したものもすべて与えられる。

    最初は頑なに料理を楽しむことを拒絶する村人たちだったが、そのあまりにも見事は料理と、ローレンス将軍の称賛に、徐々に雰囲気が柔らかくなる。過去の諍いも笑いながら打ち明け合い「知ってたよ。自分もやってやったからおあいこだよ」なんて笑い話になる。

    ローレンスは別れ際マーチーネの手を取り告げる。
    ずっとあなたのことを思っていた。体は離れているが心は繋がっている。これからもあなたを身近に感じ続けるだろう。

    客は帰り、だが温かい雰囲気の残る台所で、姉妹はバベットに、すばらしい料理だった。お客様も喜んでいた。パリに戻ってもあなたを忘れない、と告げる。
    だがバベットは静かに答える。パリには戻りません。待っている人もお金も有りません。宝くじの1万フランは全て使いました。芸術家として生きることは、生活が貧しくても心は豊かです、という。

    そう、宝くじの1万フランは、かつてバベットが努めていた高級ホテルでの12人分ぴったりだったのだ。
    そこの常連が歌手のパパンであり、彼は「世界中で芸術家の心の叫びが聞こえる。最善を尽くす機会がほしい」

    こうしてデンマークの辺境の村の夜はふけてゆくのだった。

  • 過去、現在の全て、そして人々の心がバベットの料理によって凝縮し癒されていく。

    海ガメのスープ
    アモンテラード(シェリー)
    ブリニのデミドフ風(キャビア料理)
    ヴーヴ・クリコ 1860(シャンパン)
    ウズラのパイ詰め石棺風(食事を恋愛の変えるバベットの創作料理)
    クロ・ヴージョ(ブルゴーニュ・ワイン)
    野菜サラダ
    チーズ
    洋菓子
    フルーツ盛り合わせ
    コーヒー
    フィーヌ・シャンパーニュ(ブランデー)

    肉体的欲求と精神的欲求が融合し情事と化した食事おいて、決闘してでも食したい料理とのことです。硬さが融けたみんなの笑顔が羨ましい。(笑)
    復活販売、ありがとうございます。(笑)

    • 淳水堂さん
      mkt99さんこんにちは。
      レビューでお見かけしたのでお邪魔します。
      カトリック頑なだ!と思いながら見てましたが、精神世界を強く持つのも...
      mkt99さんこんにちは。
      レビューでお見かけしたのでお邪魔します。
      カトリック頑なだ!と思いながら見てましたが、精神世界を強く持つのも宗教の力ですね。
      やっぱり読書・映画はいいですねえ。
      2021/11/23
  • BSプレミアム録画>1987年。デンマーク映画。アカデミー賞外国語映画賞受賞。
    静寂。味わい深い。心暖まる良作でした。料理は人々の心を満たし幸福にする。”食事”って大事なんだとつくづく思う。
    海辺の寒村に住む敬虔なクリスチャン老姉妹に仏から追われた女性バベットが訪ねて来る。くじで当てた1万フラン全てを使い、村の皆に振舞う晩餐会。出てくる料理が美味しそう。でもウズラパイがお頭付きでまんまグロなのでオエッ。それは勘弁。海亀スープ…って亀さん食べちゃうのね(^^;)。。充分素材を生かしてますww=他の「命を頂く」という事。
    料理長;バベットの料理の腕前もいいけど、何より彼女のその人柄と行いが素敵だった♪自分を匿って良くしてくれた老姉妹に感謝の意を込め、全てのお金を使い、皆に美味しい食事(仏料理)を提供する。皆(加齢により愚痴っぽくなり相手を非難ばかりする老人だらけ)の頑なな表情が徐々にほぐれ満足していく様子に彼女も満足感を得る。その心意気が男前でとても素敵^^。
    若い頃の妹,フィリパの美しい歌声も癒されてすばらし。クリスチャンの宗教色強め。いい映画でした。

  • デンマークの寒村を舞台にした素朴なお話。
    派手さは決してないけれど、ほんのりとした温かさのある作品でした。
    観終わった後味が何かの感覚に似ているなと思ったら、ああそうだ、食事をした後の満足感にとても似ているなと思いました。

    生きた姿そのままの海ガメや、うずらの羽を一羽一羽むしる作業など、料理を作る過程が丁寧に描かれているところがとてもいいですね。
    改めて、食べるということは命をいただくということなんだなと思わされました。
    そして料理は食べる人を幸せにするんだと。

    そんなバベットの作る料理のように、味わい深い作品でした。

    (1987年 デンマーク)

  • 良いです。なんてことない日常に、とんでもないハプニング。時の流れと、出会いと、生きることを愛おしいと感じられる作品だと思います。それを最後に食べるご飯で表したことに、とても大きな意味があるように感じます。ノルウェーも宗教も自分とは全く関係なくても、自分の日常を振り返ることが出来ました。生きるとか食べるとか当たり前のことほど面白いと感じました。

  • 真っ暗というわけでなく曇りの日に静寂な彩度の薄い世界の中でろうそくの光を見つめているかのような作品でした。

    結構地味なんだけどもほんのりと浸み行く温かさのある作品ですね。

    画面全体に行渡る無彩色な感じと静かな海辺の景色がどことなく今迄映画の中でも見た事のない空気感だなぁと思ってたらなるほどヨーロッパはヨーロッパでも北欧、デンマークなのですね。
    デンマークの映画ってそういえばあまり聞かないようなぁ。
    でもデンマーク語(多分?)とフランス語が普通に混じって進んでゆく感覚はちょっと不思議。
    字幕で見てると気にならないはずだけども明らかに違う言語なのに片田舎だというのにみんなバイディンガルだなぁ。とどうでもいいことを密かに思いながら見ておりました。

    フランス料理ってまともに食べた事のナイ私は割と片田舎の老人たちと同じ心地で見てしまっていた。
    フォアグラだか鳥の頭を綺麗にちょこんと乗せる食べ物やらとりあえず得体の知れないものを使うのだなぁ〜と。ある意味であまり客観的には見てなかった気がする。

  • 静謐で、美しくて、芸術とは何かということについて、まさに「味わわせてくれる」映画。原作はスウェーデンの女流作家アイザック・ディーネセンの短編。

    バペットの芸術作品ともいえる料理の、どこがどうすごいのか、料理をいただいた12人のうち、ちゃんと「鑑賞」していたのは、将軍ひとり。あとの11人は、フランス料理なんて味わったこともない。彼らは、将軍のように、自分たちの口にしているものについての知識も無ければ、価値もまったくわかってない。

    でも、それでいいのだ!
    知識が無くても、価値がわからなくても、おいしい料理はおいしい。
    それで皆の心が解きほぐされ、幸福な感情と古き良き記憶を共有する。そこにこそ、芸術の意味がある。そして、芸術家は、その一瞬のために、自分のすべてを注ぎだし、最高の作品をうみだす。

    最後のバペットの「貧しい芸術家などいないのです」の一言に、思わず涙してしまった。

    ヨーロッパ文化の懐の深さをうかがい見るような、素晴らしい作品。

    [米国・英国それぞれでアカデミー外国語映画賞受賞]

  • 待ってた!本当にずっとずっと再版されるのを待ってました!入手困難な状態で諦めかけていましたが、今回やっと大好きな作品を手元に置くことができました。幸せです。この映画を見ると更に幸せになれます。

  • ずっと以前に晩餐会の場面から見た事があった。なにやら貧しそうな村で老人ばかりが集まりバベットと称する女性の作った豪華なディナーを食べている。食べ終わった後はみな幸福感を感じた、というものだった。おいしい食事のもたらす幸福感は途中から見ても感じた。今回最初から見て、そのおいしい食事のもたらす幸福感は同じく感じたが、その経緯とかがわかり、ちょっと疑問に感じた事があった。

    ユトランド半島の寒村。教義を開いた父の教えを老姉妹が今も守っている。晩餐会に至るまでには実に49年の月日が流れている。1836年、1871年、1885年と、姉妹の若かりし頃の恋愛、バベットがやってくる、そして晩餐会だ。

    晩餐会は、妹の元思い人パパンの紹介で住むことになったバベットという元料理人が作った料理に、姉の元思い人の軍人も招いてあり、父の生誕100年記念行事でもあった。

    疑問1 姉妹の父は家庭を作ることを重視しない教えを創始したが、自身では姉妹を設けているのに、姉妹の恋人には暗に去ることを求めた。これは矛盾ではないか。姉妹は父の教えに囚われすぎ、自身の家族を作る、という別の幸福を父によって逃されてしまったのではないか。


    疑問2 姉の思い人の軍人は、姉妹の父の教義に触れなにやら無常感を抱き、自ら教会を去った。しかしそこには暗に父の去れ、という空気を感じる。が、軍に戻ると名家の娘と結婚した。だが49年たって姉に会うと、やはり姉こそ思い人だ、という描き方。軍人の妻は愛の無い結婚をされたのか? 名家の娘がかわいそうではないか。

    ユトランド半島、1800年代で描かれたこと。
    ・ユトランド半島というのは辺境であるらしい
    ・ユトランド半島の寒村に住む人たちの食事は簡素、というより粗食。特に主人公姉妹の食事はバンをビールで煮込んだものと魚のスープ。それに比べパリではバベットの作ったようなフルコースの宮廷料理があった。
    ・漁村であるから、何か白身の魚が干してある。が、その魚でとてつもなくおいしい食事を作っているわけではない。

    しかしこれらのことを差し引いても、バベットの晩餐会の食事には目をみはる。特にウズラのパイ。かりかりにローストされたウズラの小さな頭を軍人がぱりぱりと歯で噛む。これが印象的。

    原作者はカレン・ブリクセンの同名小説。ブリクセンは映画「愛と哀しみの果て」の原作者でもあり、アフリカでの生活を描いたそれは自伝的作品。でなんとデンマークの紙幣の肖像になっていたということだ。

    1987デンマーク
    2021.9.12BSプレミアム

  • 素晴らしい。

    この映画では料理の持つ言葉を超えた力を
    野暮な説明台詞でかたることなく見事に伝えてくれる。

    それをなしえたのは監督の力もあるだろうけれど
    俳優陣の表情の演技の素晴らしさ。
    あの晩餐会に出席した面々の食べているときの表情。
    本音と建前の間でゆれる気持ちが言葉以上に語りかけてきた。

    ただ食べている姿なのに・・・感動の涙がこぼれた。
    本当に素晴らしい。

    地味ではあるけれど、心を静かだが猛烈に心振るわせる
    愛にあふれた作品でした。

    クリスマス前にそっと見て欲しいな。

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