Maurice (English Edition) [Kindle]

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  • 20世紀初頭の英国。モーリスはケンブリッジで美しい青年クライヴと友情を育むうちに、自らが同性愛者であることを知る。クライヴとの別離を経て深い苦悩に沈むが、やがて猟場番の青年アレクと出会い真実の愛を得る。

    同性愛を主題にしてはいるけれど、本書は青年の成長物語であり、作家自身が後書で表明している通り、英国伝統の森のファンタジーである。前半では社会に出ていく際に若者が抱く違和感や葛藤が克明に描かれ、後半では愛に目覚め森(異界)に自らを解放していく主人公の心の遍歴が極めて甘美に綴られる。当時禁忌であった同性愛を正面から扱いながら、扇情的な所は一切なくメッセージ性も窺えない。

    こういう構成なのでご都合主義な印象を受ける読者もいるかもしれないし、同性愛を当て込んで読めばあまりの通り一遍具合に失望するかもしれない。しかしモーリスやクライヴの懊悩はあらゆる若者がいろいろな形で経験するものだ。共感を呼び起こすフォースターの心情描写はさすがのひと言。

    本書のいまひとりの主役は、ダラム家の領地ペンジの森だろう。その象徴といえる青年アレクが登場して以降存在感は格段に増す。雨に濡れそぼる小道、杏を千切って食べるアレクの姿、そして何より匂い立つ一面のマツヨイグサ。英語ではevening primroseで、この二語が醸すロマンティックな雰囲気は最終場面に近づくにつれ一層濃くなっていく。そしてモーリスは、甘く美しい夢の世界、この夜の森に姿を消す。

    『ブライズヘッドふたたび』の甘美な友愛の舞台はオクスフォードだったが、本書のケンブリッジ時代はそれに比して些かもどかしい。セバスチアンとクライヴの(大きすぎる)隔たりでもある。しかし『モーリス』の本領はあくまで終盤である。アレクとの愛の成就の過程こそフォースターが夢見たものではないか。原作のクライヴはついにモーリスを理解できなかったが、映画の彼はケンブリッジの庭で手を振るモーリスの姿を幻視し切なく闇に目を凝らす。彼の領地の森を彷徨い真実の愛を満喫するモーリスは、なり得なかったもう一人の彼でもあるのだろう。

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