国家の品格(新潮新書) [Kindle]

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  • ・人間にとって最も重要なことの多くが論理的に説明できない。もし、人間にとって最も重要なことが、すべて論理で説明できるならば、論理だけを教えていれば事足りそうだがそうではない。論理は世界をカバーしない。

    ・会津藩の藩校日新館の「什の掟」の最後に「ならぬことはならぬもの」と結ばれる。要するにこれは「問答無用」「いけないことはいけない」と言っている。すべてを論理で説明しようとすることはできない。だからこそ「ならぬことはならぬもの」と、価値観を押し付けた。重要なことは、親や先生が幼いうちから押し付けよ。たいていの場合、説明など不要。

    ・論理には出発点Aが必要。このAは論理的帰結ではなく常に仮説。そしてこの仮説を選ぶのは論理ではなく、主にそれを選ぶ人の情緒。宗教的情緒をも含めた広い意味の情緒。情緒とは、論理以前のその人の総合力。その人がどういう親に育てられたか、どのような先生や友達に出会ってきたか、どのような小説や詩歌を読んで涙を流したか、どのような恋愛、失恋、片思いを経験してきたか。どのような悲しい別れに出会ってきたか。こういう諸々のことがすべてあわさって、その人の情緒力を形成し、論理の出発点Aを選ばせている。

    ・政府も官僚も「識者」と称する人たちも、戦後60年もたち、論理的に説明できることだけを教えるという教育を受けた人ばかりになってしまった。論理が通ることは脳に快いから、人々はこのようにすぐに理解できる論理、すなわちワンステップやツーステップの論理にとびついてしまう。従ってことの本質に達しない。ワンステップやツーステップの論理の跳梁が世界中がこれに冒されている。

    ・我が国では差別に対して対抗軸を立てず惻隠(=弱者・敗者・虐げられた者への思いやり)をもって応じた。惻隠こそ武士道精神の中軸。

    ・論理とか合理を否定してはならないが、それだけでは人間はやっていけない。何かを付加しなければならない。その付加すべきもの、論理の出発点を正しく選ぶために必要なもの、それが日本人の持つ美しい情緒や形である。論理とか合理を「剛」とするならば、情緒とか形は「柔」。

    ・他国のことはどうでもいいから自国の国益のみを追求するあさましい思想「ナショナリズム」は不潔な考え方。一方、私の言う「祖国愛」は、自国の文化、伝統、自然、そういったものをこよなく愛すること=パトリオティズムに近い。これは美しい情緒で、世界中の国民が絶対持っているべきもの。

    ・美的感受性や日本的情緒を育むとともに、人間には一定の精神の形が必要。こうした情緒を育む精神の形として武士道精神を復活すべき。慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠(=他人の不幸への敏感さ)、名誉、恥の意識も盛り込まれている。

    ・卑怯を憎む心をきちんと育てないといけない。法律のどこを見ても「卑怯なことはいけない」と書いていない。だからこそ重要。

    ・美しい情緒が重要な理由は、情緒が真の国際人を育てるから。ここでいう国際人とは、世界に出て、人間として敬意を表されるような人のこと。

    ・情緒力は蓄積しない。人間としての賢さとか情緒力は一代限り。

    ・欧米人の精神構造は「対立」に基づいている。彼らにとって自然は、人間の幸福のために征服すべき対象であり、他の宗教や異質な価値観は排除すべきもの。これに反して、日本人にとって自然は神であり、人間はその一部として一体化している。この自然観の違いが、欧米人と日本人の間に本質的差異をつくっている。精神に「対立」が宿る限り、戦争をはじめとする争いは絶え間なく続く。日本人の美しい情緒の源にある「自然の調和」も、戦争廃絶という人類の悲願への鍵となるもの。

    ・天才を生む土壌には「美の存在」「跪く心」「精神性を尊ぶ風土」の3つの共通点がある。

    ・よく政治家が「日本はもっと普通の国になるべきだ」などというが、その普通の国が意味するのはたいていの場合「アメリカみたいな国」に過ぎない。日本は有史以来ずっと「異常な国」。これからも「異常な国」であり続けるべき。

    ・品格ある国家の指標は「独立不羈」「高い道徳」「美しい田園」「天才の排出」。日本人一人一人が美しい情緒と形を身につけ、品格ある国家を保つことは、日本人として生まれた真の意味であり、人類の責務。

著者プロフィール

お茶の水女子大学名誉教授

「2020年 『本屋を守れ 読書とは国力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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