ヴィヨンの妻 [Kindle]

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  • 2012年9月12日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 「人間失格」に続けてもう一作を、と思い読んだ。

    「ヴィヨンの妻」まずタイトルが気になった。
    「ヴィヨン」とは、フランソワ・ヴィヨンという実在していたフランスの、どうしようもない放蕩な詩人であり、この作品の大谷という夫の姿と重ねているタイトルであった。

    時は戦後間もない頃。
    飲んだくれで女癖の悪い内縁の夫の大谷は30歳。
    詩人としてはそれでも有名ではあった。
    妻として大谷を健気に支える「私」さっちゃんは26歳。
    知的障害、発育不良な坊やを「私」は抱えて
    坊やにも関心が薄い放蕩夫を支え、
    ひどく貧しい暮らしをしていた。
    たまにしか帰らない夫はいつも泥酔状態で帰って来るくらいで家庭を大切にしていない。
    ある日の晩泥酔して、常連の小料理屋からお金を奪って帰って来てしまうところから物語は始まる……。

    健気でしかも度胸や強かさも持ち合わせている妻の「私」が、何とかこの状況を切り抜けようと頑張る姿が頼もしい。
    女性視点の上品な語り口調で、とても引き込まれてしまい読みやすい。
    淡々とした文章の中に時折、思いがけない一言が織り交ぜられていて、それで小説がにわかに陰影を帯びたり、あっけらかんとした清々しさを感じさせたりして凄みがある。

    太宰治が、ちょうどこの作品を書いた年は
    妻との間に次女を、そして太田シズ子さんとの間に
    治子さんを出生した年でもある。
    なのにその次の年には
    38歳という若さで
    別の女性と入水自殺してしまっている……。

    この作品の中での妻の「私」が夫の大谷に
    こう言うところがある
    「人非人でもいいじゃないの。私達は生きてさえいればいいのよ」と…。
    (生きてさえいればいい)
    そんな風に自分で書いてるのにな…と、
    なんともやるせない








    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      土瓶さん、こんばんは〜(*^^*)
      そうなんですよね。
      人間失格でもこの作品でも、そう感じましたよね。常に生き死にを意識していた感じですよね...
      土瓶さん、こんばんは〜(*^^*)
      そうなんですよね。
      人間失格でもこの作品でも、そう感じましたよね。常に生き死にを意識していた感じですよね。

      私は「津軽」は未読なのですが(……命あらばまた他日……)なんてそうですね。

      太宰治自身の性分のせいばかりではなくて、今よりいろいろきびしい暗い時代のせいで生きにくかったんでしょうかね……。
      いずれにしても特にお子さんのことを考えたら、切なかったです。
      虚しいですね…。
      2023/11/24
    • 土瓶さん
      でもね「津軽」の太宰は、いや本名の津島修治は、故郷を巡って友と酒を酌み交わし、実に楽しそうだったんですよ。
      傍らに珈琲を。さんに勧められて...
      でもね「津軽」の太宰は、いや本名の津島修治は、故郷を巡って友と酒を酌み交わし、実に楽しそうだったんですよ。
      傍らに珈琲を。さんに勧められて読んだ旅行記でしたが太宰のイメージが変わりました。
      それだけに、どうしてという思いが募ります。
      機会がありましたら、ぜひどうぞ。
      2023/11/24
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      そうなんですね〜。
      実に楽しそうな津島修司さんに私も是非会ってみたいですね。
      機会をみつけて読もうと思います(*^^*)はい。
      ありがとうご...
      そうなんですね〜。
      実に楽しそうな津島修司さんに私も是非会ってみたいですね。
      機会をみつけて読もうと思います(*^^*)はい。
      ありがとうございました!

      2023/11/24
  • ゆうきゆうさんが紹介していたことがきっかけで手にしたもの。

    「人非人であってもなくてもただ生きていられればいい」というフレーズが印象的。

    ここだけとらまえると、前向きな小説なのかな、と想像してしまいますが、そこはやはり太宰治の小説。どんな人でも多かれ少なかれ業を背負っているのかな、というのが読後感です。

    松たか子さん主演で映画もあるようなので、そちらも鑑賞予定。

  • 我が身に、うしろ暗いところが一つも無く生きている人なんて、いるのでしょうか。
    他人の人生の奥深くの部分を知ることは、不可能な訳ですから知る由もありませんけども。

    どうしようもない詩人の夫を持つ妻は、一枚上手のようです。

  • だらしなく売れない詩人である夫の危機を、若妻さっちゃんが機転を利かせて救っていく。

    敗戦後間もなく、生きていくので精一杯の時代。畳も襖も座布団もボロボロ。でもさっちゃんは好きな人(夫)と一緒にいられるだけで幸福です、と言う。世の中を悲観している夫に、生きていさえすればいい、と言う。

    1947年、敗戦後の混乱の中に見出されている「幸せ」。この幸せは実は物に囲まれている現在にも通じるのではないかと感じた。

  • 女の強かさ、強さ。達観しすぎな気もする。世間、に縛られるより世間から少し外れても自分を愛して好きなように生きることは幸せなのかもしれない。

  • お酒にもお金にも女にもだらしない夫と健気で前向きな妻。社会に受け入れてもらいたくて、でも受け入れられないと思っていて「死にたくて、仕様が無い」という人に対して、「生きていさえすればいいのよ」と言うのは救いなのか、それとも残酷なのか。夫の気持ちは図りかねるが、少なくとも、夫の「死にたい」という態度は、一緒にいるのが幸せだと言う妻にとっては残酷なんだろう。

    戦後の東京の雰囲気が感じられるのは良かった。

  • 主人公は酒に溺れるダメ男の若い妻。
    ある日、夫が帰ってきたところに
    夫を泥棒と言い(実際にお金は盗んでいる)
    盗んだお金を返せと50代の男性と40代の
    女性が乗り込んでくる。

    かなり緊迫したシーンなのになぜかゆったりと
    話は進んでいく。夫はナイフを取り出し
    男性に切りかかろうとする。そのときの若妻の
    語りが

    「そのナイフは、夫の愛蔵のものでございまして、
    たしか夫の机の引出しの中にあったので、
    それではさっき夫 が家へ帰るなり何だか引出しを
    搔きまわしていたようでしたが、かねてこんな事に
    なるのを予期して、ナイフを捜し、懐にいれていたのに、違いありません。」

    と、なんともゆったりしている。
    この後もなかなか厳しい身の上のはずなのに
    万事がこの文体で進むものだから
    ゆるりと読み終わりました。

    酒に溺れた男を書かせたら
    太宰の右に出る人はいないですね。
    人にたかってばかりで、どうしようもない男なのに
    「男には、不幸だけがあるんです。いつも恐怖と、
    戦ってばかりいるのです」と、さらりと言う。。

  •  「グッド・バイ」は未完だと知っているから何処で終っても意外性は無い。「ヴィヨン〜」の場合、ここで終るのか?と驚いてしまう。
     ヒロインは収入源を得て、やや活路が開けたから、これでヨイのかな。

  • 太宰治の正妻について書いたと言われる短い小説。きっと実際の生活でもだらしがなく、酒に溺れた太宰治は奥さんに迷惑をかけたんだろう。ここまで妻の気持ちが分かるのならば、やらなければいいのに、謝罪の気持ちを込めて小説にしたのかしら?きっと奥さんはそんな不器用な太宰治が、好きだったんだろうなあ

  • ダメ人間書かせたら天下一品ですわ。これは「生活に暗い陰」とか言われても仕方ないやん。

    どうしょうもない酒浸りダメ旦那と、その嫁の話。ダメ旦那はどこまでもどこまでもだめ人間である。幼児がいるのに家庭を顧みず(ってか全然帰ってこない)、他所に女を作り、酒をアホほど飲み、無駄に酒に強く、金がなく、何なんだこいつは。
    それにも増して、その嫁も何なんだ。怖いほどのポジティブ。生きてるだけで丸儲け精神。

    なにこの夫婦、怖い。
    引用箇所の男がマジモンで、私が嫁ならはっ倒す。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

太宰治の作品

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