歯車 [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 晩年の芥川自身を主人公とした物語で、芥川の死後発表された遺稿の一作。
    苦悩と陰鬱さが物語全体を覆う。不気味な幻視、妄想が芥川を自殺に追い詰めたのだろうか。

    偶然にもアガサ・クリスティーの遺作と同時期に読了。遺作というだけで寂寥感が半端ない。

    何度も象徴的に登場するレインコートの男。
    精神的な圧迫感にぞくそくさせられた。
    最後の一文「だれか僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」がとても衝撃的。

    タイトルの「歯車」は、晩年の芥川の視界に歯車のようなものが実際に映っていたことから付けられた、という。

    • おびのりさん
      こんにちは、mofu さん。いつも、いいねありがとうございます。
      私も、このあたりの芥川病みすぎですが、好きです。
      歯車が、片頭痛の症状とし...
      こんにちは、mofu さん。いつも、いいねありがとうございます。
      私も、このあたりの芥川病みすぎですが、好きです。
      歯車が、片頭痛の症状として医学部のテストにでたとか。
      また、本棚寄らせていただきますね。
      2022/11/15
    • mofuさん
      おびのりさん、こんばんは。
      こちらこそ、いつもありがとうございます。

      今作の芥川にはざわざわされっぱなしでした(^o^;)
      医学部のテスト...
      おびのりさん、こんばんは。
      こちらこそ、いつもありがとうございます。

      今作の芥川にはざわざわされっぱなしでした(^o^;)
      医学部のテストに出たんですか。さすが医学部だけあって、難しい作品を選びますね〜。

      コメントをありがとうございました(*^^*)
      2022/11/15
  • 村上春樹の『一人称単数』の中の短編『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』の中で、当時付き合っていた彼女の引きこもりの兄に、主人公の「僕」が朗読した本が、この芥川龍之介の『歯車』の『飛行機』だった。

    「歯車」は芥川龍之介の最後の作品で、自死後に刊行されている。心を病んで、不眠症になり、薬が手放せない。様々な幻覚や幻聴、思い込みに振り回される。
    そんな「僕」が主役の私小説。

    最後は、「誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?」と締め括られている。

    「歯車」と「一人称単数」を読めば分かるが、作風が、この「歯車」に寄せてきている、もしくは意識している気がするのは、私だけだろうか?
    「僕」が死と向き合う私小説と言う意味合いで。

    鬱病と重度の不眠症、総合失調症を患っている私としては、結構理解出来る世界観だったりする。
    引き摺り込まれ無いようにするには?
    いや、引き摺り込まれてもいいのかも。
    日によって違う。

  • さまざまな幻覚の連鎖で芥川は苦しんでいたが、半透明の歯車を見たあとの頭痛は“閃輝暗点”と、いうものらしい。
    私自身もたまに起こるので、この作品には興味があった。

    出口のない迷路の中を彷徨っていては、誰か眠っている間に、そっと絞め殺してもらいたいという、怖ろしいことを考えてしまうのもうなずける。

  • 芥川龍之介を読むのは之で2冊目だが、やはり文章が砂利を食わされる様なものなのである、「あ、この闇をわたしも知った事が有るわ」と頷きながらいつの間にか泣きながらページを捲っていた。歯車、それは歪んだ空白なのだろうか?語り口調で紡がれる文章は魯迅の「狂人日記」のような、またカフカの「変身」のようだったが、ザラザラ凍てつきながら、読み終えると夢中に、わたしは芥川龍之介の書く歯車の内の「僕」に憑依されてしまう。小説はひとの感情を振り回してなんぼじゃと思っている。そういった面で、この「歯車」は素晴らしい、ブラボー!とスタンディング・オベーションを送りたい「憑依小説」である。

  • 怖いとか気持ち悪いを通り越してよくわからない。
    ただただ不安感ともやもやが残る。
    どこに行って、こう思って、不安になって、移動して、レインコートみて、また不安になって、小説書いて…

    もういい、もういいよ。
    家族と過ごせよ。
    そんな気持ちになる短編小説。
    私にはちょっと難しかったのかしら。

  • 共感できる。

  • 芥川龍之介も私も同じ偏頭痛と閃輝暗点に悩まされてたと知って、びっくり。

  • コレは…ヤバい。
    引っ張られる。
    引きずり込まれる。

    そっちの感覚を自覚したら、ヤバいぞ。
    戻れなくなる。

    でも読んじゃったな、最後まで。

    最後の奥さんのくだり、その恐怖、分かってしまった自分が恐い。 

  • 最後の文について
    妻の気遣いがなぜ恐ろしいのか?と最初に思い、いや愛してくれている人にも自分の死が直感されたのだからもはや死の定めは逃れられないのだと悟り恐ろしいのだと思い、愛してくれている人はそれゆえに絞め殺してはくれないのだと思い、死が恐ろしすぎるがゆえに死を望むという状態のあることを知った。

    死の恐怖ゆえに死を望む。閉塞の極限である。自殺願望のある人に共感を感じることができるとの自負が少しはあったが、見当違いであった。


  • 一・レエン・コオト
    歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、——それはいつも同じことだつた。

    ロツビイへ出る隅に緑いろの笠をかけた、背の高いスタンドの電燈が一つ硝子戸に鮮かに映つてゐた。それは何か僕の心に平和な感じを与へるものだつた。

    僕の姉の夫はその日の午後、東京から余り離れてゐない或田舎に轢死してゐた。しかも季節に縁のないレエン・コオトをひつかけてゐた。僕はいまもそのホテルの部屋に前の短篇を書きつづけてゐる。真夜中の廊下には誰も通らない。が、時々戸の外に翼の音の聞えることもある。どこかに鳥でも飼つてあるのかも知れない。

    二・復讐
    凝灰岩を四角に組んだ窓は雪のある庭に向つてゐた。僕はペンを休める度にぼんやりとこの雪を眺めたりした。雪は莟を持つた沈丁花の下に都会の煤煙によごれてゐた。それは何か僕の心に傷ましさを与へる眺めだつた。僕は巻煙草をふかしながら、いつかペンを動かさずにいろいろのことを考へてゐた。妻のことを、子供たちのことを、就中姉の夫のことを。⋯⋯

    僕はあらゆる罪悪を犯してゐることを信じてゐた。

    「僕は芸術的良心を始め、どう云ふ良心も持つてゐない。僕の持つてゐるのは神経だけである。」

    ぢつと運転手の背中を眺めてゐた。そのうちに又あらゆるものの譃であることを感じ出した。政治、実業、芸術、科学、——いづれも皆かう云ふ僕にはこの恐しい人生を隠した雑色のエナメルに外ならなかつた。僕はだんだん息苦しさを感じ、タクシイの窓をあけ放つたりした。が、何か心臓をしめられる感じは去らなかつた。

    僕は両側に並んだ店や目まぐるしい人通りに一層憂欝にならずにはゐられなかつた。殊に往来の人々の罪などと云ふものを知らないやうに軽快に歩いてゐるのは不快だつた。

    人ごみの中を歩いて行つた。いつか曲り出した僕の背中に絶えず僕をつけ狙つてゐる復讐の神を感じながら。⋯⋯

    三・夜
    僕はいつか憂欝の中に反抗的精神の起るのを感じ、やぶれかぶれになつた賭博狂のやうにいろいろの本を開いて行つた。

    「恐しい四つの敵、——疑惑、恐怖、驕慢、官能的欲望」と云ふ言葉を並べてゐた。僕はかう云ふ言葉を見るが早いか、一層反抗的精神の起るのを感じた。それ等の敵と呼ばれるものは少くとも僕には感受性や理智の異名に外ならなかつた。が、伝統的精神もやはり近代的精神のやうにやはり僕を不幸にするのは愈僕にはたまらなかつた。

    僕は高い空を見上げ、無数の星の光の中にどのくらゐこの地球の小さいかと云ふことを、——従つてどのくらゐ僕自身の小さいかと云ふことを考へようとした。しかし昼間は晴れてゐた空もいつかもうすつかり曇つてゐた。

    僕は罪を犯した為に地獄に堕ちた一人に違ひなかつた。が、それだけに悪徳の話は愈僕を憂欝にした。

    四・まだ?
    僕はやむを得ず机の前を離れ、あちこちと部屋の中を歩きまはつた。僕の誇大妄想はかう云ふ時に最も著しかつた。僕は野蛮な歓びの中に僕には両親もなければ妻子もない、唯僕のペンから流れ出した命だけあると云ふ気になつてゐた。

    四角に凝灰岩を組んだ窓は枯芝や池を覗かせてゐた。僕はこの庭を眺めながら、遠い松林の中に焼いた何冊かのノオト・ブツクや未完成の戯曲を思ひ出した。それからペンをとり上げると、もう一度新らしい小説を書きはじめた。

    五・赤光
    文学史をひろげ、詩人たちの生涯に目を通した。彼等はいづれも不幸だつた。

    僕はかう云ふ彼等の不幸に残酷な悪意に充ち満ちた歓びを感じずにはゐられなかつた。

    彼も亦僕のやうに暗の中を歩いてゐた。が、暗のある以上は光もあると信じてゐた。僕等の論理の異るのは唯かう云ふ一点だけだつた。しかしそれは少くとも僕には越えられない溝に違ひなかつた。⋯⋯

    電燈の光に輝いた、人通りの多い往来はやはり僕には不快だつた。殊に知り人に遇ふことは到底堪へられないのに違ひなかつた。僕は努めて暗い往来を選び、盗人のやうに歩いて行つた。

    夜風の吹き渡る往来は多少胃の痛みの薄らいだ僕の神経を丈夫にした。

    六・飛行機
    鳥は鳩や鴉の外に雀も縁側へ舞ひこんだりした。それも亦僕には愉快だつた。

    徐ろに患者を毒殺しようとした医者、養子夫婦の家に放火した老婆、妹の資産を奪はうとした弁護士、——それ等の人々の家を見ることは僕にはいつも人生の中に地獄を見ることに異らなかつた。

    「どうもした訣ではないのですけれどもね、唯何だかお父さんが死んでしまひさうな気がしたものですから。⋯⋯」それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だつた。——僕はもうこの先を書きつづける力を持つてゐない。かう云ふ気もちの中に生きてゐるのは何とも言はれない苦痛である。誰か僕の眠つてゐるうちにそつと絞め殺してくれるものはないか?

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