桜の森の満開の下 [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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レビュー : 65
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (21ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 読む前に想像していた以上に、グロテスクで怪しく、けれどもどこか美しさのある、不思議な作品でした。

    鈴鹿峠にて、旅人の追い剥ぎを生業としていた山賊の男。彼はある時、一人の旅人の男を殺し、その妻を、自分の八人目の妻として家に連れて帰ります。
    その女は、とても美しく、怪しい魅力に満ちているけれども、残酷な女でした。
    女は山賊に命じて、七人の妻のうち、六人まで、彼自身の手で殺させます。何かに取り憑かれたように、新しい妻に従う男。ただ一人、一番醜く、身体に障害のある女だけが、女中として生かされる。
    そこから奇妙な三人暮らしが始まり、やがて、女のわがままを機に、三人揃って都暮らしを始めます。
    妻は山賊の男に、金目の物だけでなく、人の生首を持ち帰るように要求するようになります。女は集めた生首を部屋中にかざり、首遊びをして…。

    毎年男の気をなんだかおかしくさせる、美しくも禍々しい魅力を持つ満開の桜の木。
    同じく、美しくも怪しい女の持つ吸引力。
    二つの怪しい美が重ね合わされながら、グロテスクで奇怪な物語は展開していきます。

    正直、途中で読むのをやめたくなるくらいのグロテスクな描写もあったのですが、人を惑わす桜の怪しくも美しいイメージが、男が内に秘める孤独と相まって、不思議と余韻と魅力を感じさせる作品でした。

  • 女のあまりの美しさにすべてを与え、
    とろけるような幸福に満たされる男。
    刹那に訪れる不安。
    どういう不安なのか、なぜ不安なのか、
    何が不安なのか。
    ただ分かることは桜の森の満開の下に
    いる心地のような底知れぬ不安と似ていた。

    澄んだ声で笑い、薄い陶器の鳴るような声をあげ、
    嬉々として生首を耽溺し遊び狂う女。
    夜ごと生首を捕ってくる男。

    女の美しさの側で恋に狂いながらただ側にいたかった男。
    自らの欲しい物を手にするために男が必要だった女。

    頭上には花、その下には虚空。
    女の美しさと桜の幻想的にして圧倒的な
    景色に息を飲み、薄ら寒さを覚える。
    桜の森の下で花びらの散りゆく寂しさは
    男の中の孤独を揺さぶる。
    怪しく美しい幻想怪奇。

  • 坂口安吾、全部青空文庫になっていたのを知らなかった。
    昨年、野田版「桜の森の満開の下」観たので。

    こんなにも美しい物語がよく書けたものだ。
    悪魔的な才能に思う。

    桜の森の満開の下です。あの下を通る時に似ていました。

  • なんと恐ろしく悲しい話なんだろう……
    男の胸の内を考えると苦しくなる。
    不思議なラストで終わるが、それすらも美しかった。

  • ブンゴウメール4月配信作品。


    坂口安吾の作品もブンゴウメールで初めて読ました-

    桜の木の下には…、というのは色々なところで読んだこと聞いたことはあったけれど。

    途中で首遊びが出てきた時は、それが唐突で、比喩なのか?本当に本物の人の頭なのか?人形のことなのか???混乱しました。

    不思議で淋しい、幻想的なお話でした。


    メモ
    今様━今日風・現代風の意味。
    歴史的には,平安時代中期から鎌倉時代にかけて宮廷で流行した歌謡のことを指す。
    これを「今様歌」といい,今様はその略。神楽歌(かぐらうた)・催馬楽(さいばら)など以前からの歌(古様)に対して,当代最新(今様)の流行歌。

  • 「桜の花の下から人間を取り去ると恐ろしい景色になる」という冒頭部分の文にいきなり意表を突かれた。「桜の花の下」にそのようなイメージを持っている人は少ないだろう。
    情け容赦なく着物をはぎ、人の命を断つ山賊が主人公。山賊は、ある男の美しい女房を奪い取り、自分の妻にする。女は山賊が自分にぞっこんで自分の言いなりになることがわかり、山賊に首を集めてくるように要求し、その首で首遊びをする。ホラーじみた話であり、女が首遊びをする描写はかなりおぞましい。
    山賊は女と一緒にいると不安に感じる。それは、桜の森の下にいる時と似ていると思った。山賊はその理由を考えようとはしないが、美しいものは永遠ではなく、儚いものであることを何となく感じているからではないだろうか。
    女の願いにしたがって、山から都へ移り住んだ山賊だが、都のくらしになじめず、山に帰る決心をする。
    「首」は人間の欲望の象徴だろうか。欲を求め続けているとキリがない。それを求める場所が「都」であり、それから自由になる場所が「山」ではないだろうか。
    最後は、夢物語のような終わり方をする。
    山賊にとって、桜の森の下とは何だったのだろうか、女の存在は何だったのだろうか、都と山の違いは何だったのだろうか、様々な解釈ができそうな物語である。

  • タイトルが本当に美しくてとても惹かれていたのですが、なんとなく背筋が冷たくなるような雰囲気もあって、読むのを躊躇っていた作品でした。読んでみたらやっぱり恐ろしくて、満開の桜並木の下を通る時の、なんだか胸がザワザワして落ち着かなくなるあの感じを思い出しました。人が桜の花の美しさに感じるものは昔も今も変わらないのかなと、ぼんやり思いました。

  • 美しいその女性は山賊が殺した男から奪った女。圧倒的な美しさに加え日々変化してゆく桜の姿に女をだぶらせ進行してゆく。頭は弱いが無類の強さを誇る山賊を亭主に持った女の欲望はとどまるところを知らず狂気が爆発し、そして女は鬼と化す。桜のような妖しさと美しさと可愛らしさを併せ持つ女。共依存の関係であっても満たされない男の心。難しい男と女の夫婦関係は哲学的であり深い。儚く散ってゆく姿が冷たく切ない。

  • 幻想怪奇小説。都の雅が似合う女と鈴鹿の山賊という組合せは所謂「美女と野獣」です。谷崎なら、冷血で自己本位な女には、ひたすら山賊に仕えさせたでしょうが、安吾は違いますね。桜が満開の森の下で起るラストが映像的で美しい。桜満開の上野の山で東京大空襲で亡くなった大量の遺体を焼いたという酸鼻な原風景が見事に昇華されています。

  • 青空文庫で読了。桜の森が満開の様子を、読み進めながら想像すると音がなく、あるのは風と虚無、同じ色で塗りつぶされた世界。そんな中で男が狂っていく。

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著者プロフィール

新潟市生まれ。1919(大正8)年県立新潟中学校に入学。1922年、東京の私立豊山中学校に編入。1926年東洋大学大学部印度哲学倫理学科に入学。アテネ・フランセに通い、ヴォルテールなどを愛読。1930(昭和5)年同校卒業後、同人誌「言葉」を創刊。1931年に「青い馬」に発表した短編「風博士」が牧野信一に激賞され、新進作家として認められる。歴史小説や推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

「2018年 『狂人遺書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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