白痴 [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 安吾忌にて 1946年
    第二次世界大戦末期、敗戦色が日々濃くなる東京。
    映画会社演出家・伊沢は、思う様に作品が作れない世相と困窮に廃退的。
    そんな彼の間借りの部屋のしかも押し入れの中に、隣の白痴の女が隠れていた。そのまま女を秘密に住まわせ、その無垢な感覚に驚きつつも、肉欲ごとき肉体の塊に嫌悪感さえ感じていた。
    しかし、いよいよの大空襲を共に逃げるうちに、愛おしさにとらわれる。
    女に対する言葉の醜さと、相反する行動。
    全てが失われようとする中、人間の本質のみで生きる女に、希望をみたのか。

    • おびのりさん
      レビューが、退廃的。
      レビューが、退廃的。
      2023/02/17
    • しずくさん
      若い時分に手を出したのですが・・・
      検索サイトで知った”5分でわかる坂口安吾の一生”を読んでみました。
      せめての行為です。
      若い時分に手を出したのですが・・・
      検索サイトで知った”5分でわかる坂口安吾の一生”を読んでみました。
      せめての行為です。
      2023/02/18
    • おびのりさん
      私が、お線香あげときます。いっぱいあるから。
      私が、お線香あげときます。いっぱいあるから。
      2023/02/18
  • この短編を読む前に『堕落論』を読んでおいてよかった。いや別に順序は逆でも構わないだろうけど、出版された順番は『堕落論』→『白痴』という順だし、この作品に書かれているテーマはたぶん『堕落論』と呼応しているから。

    戦争が終わる間近の日本。空襲により焼夷弾が降り注ぐ中、映画演出家の男と「白痴」の女が出会う。戦争に身を浸し、世の流れに屈することで堕落してしまった俗世間を憎み、しかし自分自身がその俗世間に漬かったままのうのうと生きていることに対する矛盾。そんな苛立ちとやるせなさが冒頭では「映画演出家」としての男の視点から綴られる。やがて中盤に差し掛かると男の自宅に白痴の女が転がり込み、知性と肉欲の相対的な関係性を浮かび上がらせる。男は「肉欲」を堕落したものとして嫌悪しているようだけど、ある種純粋さを帯びた女と生活をともにすることで、自身の価値観が「肉体」を持たない「精神」だけのものだという限界に突き当たる。最後は焼夷弾からふたりで逃げ、はじめて彼女とまともな意思の疎通が行われ(たように男は思う)、この”何の希望もない世の中で”生きていく決心を固める。そんな話。

    ラストにおいて男は、拠り所となる場所がなく、太陽の光が降りそそぐかもわからない、何もかもが不確かな場所に来てしまったのだと感じ幕を閉じる。しかし同時に、白痴の女との出会いや、戦争を生き延びた経験は、彼がこれまで持っていた価値観を粉々に破壊していったはずで、『堕落論』に照らし合わせて考えると、ここにおいて、ようやく新しい道が示されたのだと、そんな気がしてならない。

    あと、なんとなくだけど古谷実(『ヒミズ』とか『ヒメアノ~ル』の人)が漫画化したら雰囲気合いそうな気がした。主張が強すぎる会話パートがややギャグっぽかったし。

  • 初坂口安吾。
    いやあ、文学っすね……というバカな感想しか思いつかない自分がしんどい。戦時中の悲惨な様子が垣間見れるし、その中で生まれる歪な男女愛のようなものも擬似的に覗けたような感覚です。

  • 映画会社の見習い演出家の伊沢。
    彼と隣人の白痴の女は、道すがら会えば挨拶程度の間柄であったが、ある日、女が伊沢の家に逃げ込んできたことから二人は親密になる。

    親密とはいっても、恋だの愛だのって感じはしない。
    女は好意を寄せているようだけど、伊沢は、ただ肉欲の塊でしか思っていない。

    この女、人妻なのに御飯も炊けなければ、お味噌汁も作れない。配給の際もボーっと、突っ立っているだけ。
    ブツブツ口ごもって、何いってるんだか判らない。

    でも、なんだかなんだか可愛い。

    戦時中、空襲で猛火の舞い狂う道を、二人して逃げ走っている時、伊沢は「死ぬ時は、こうして二人一緒だよ(中略)俺の肩にすがりついてくるがいい。分かったね。」と言うと、女はゴクンと頷く。
    ゴクンという頷きに伊沢は、いじらしく感動するほど狂いそうになってしまうのだった。

    道々には人の焼き焦げた死体が、無数にたおれている。
    そんな死が間近にある中、側に居るこの女は人間らしい人間。純粋そのもの。

    荒廃していた伊沢に足りないものを、この女は持ち合わせている。

  • 前半と後半で印象がだいぶ違う。
    怠惰で刹那的で退廃的で無気力で、それでもそこに在ったものが丸ごと破壊されて失われてしまうと何かにすがりたくなって希望が欲しくなるのかな。
    自分の小ささを知って、でもそれは絶望することじゃなかった。

  • ちょっと途中眠くなってしまったけど読了。
    白痴の女を愛していないと言いつつ、豚のようだと
    形容しながらも髪を撫でてやる関係性。
    伝えようとしていることはなんとなく分かるような、
    いややっぱり分からないような…。
    空襲の描写はリアルで、まるで目の前でその光景を
    見ているようだった。

  • Kindle無料版にて。
    桜の森の・・・と夜長姫が非常に美しい作品であったので坂口安吾の他の作品も読もうとこれを読んでみる。
    ふむ・・・
    わからん。
    わからんなあ。
    まったくわからん。
    理不尽に命が危険にさらされる空襲の前と後では物の見方がまったく変わってしまうということなのか?
    真っ白な純粋な心のように思えたものがただの豚と変わらなく思えてしまう。
    綺麗事など命のやりとりがあったあとでは無意味になってしまうのか?
    そういうことを書いてるの?
    わからんなあ。
    まだ僕の脳では理解できんレベルだった。
    残念。

  • なんだろう、予想外にハードボイルドでびびった。なんだか勢いでかっこええと言わせてしまいそうな主人公。自分のこと俺って呼んでるし。連れの女のことを豚呼ばわりしてるし。おいおい、そりゃないぜ、ハニー、ってなもんだよ。こんな呼び方が許されるのはSMの世界だけかと思ってたよ。しかも女が男を呼ぶときのみ。
    てか女が白痴扱いされてるのは、きっと女の人に昔騙されて、女なんてみんな馬鹿だ、ばーかばーか、って思ってる事を深層心理で表現してるだけだよね。って香山リカが言ってたよ。まぁもちろん嘘だけど。いや、大雑把には馬鹿だけど身体はムチムチ、ってのが理想ってことよね。
    てなわけで俺様が偉そうに難しい事を考えながら、豚呼ばわりする女とやることはやってるんだかやってないんだかイマイチ分からんけど、燃え盛る大地からの逃避行。熱いぜ。

  •  青空文庫より
     戦時下の日本で男と白痴の女の生活を描いた小説。

     耽美的で背徳的な美しさを文章から感じました。今まで耽美とか背徳とかと言われてもあまりピンとこなかったのですが、この小説を読んでなんとなくわかったような気がします。

     白痴の女性に対して嫌悪しつつも、どこかで理性の見られない彼女をうらやましくも思っている男性の感情がとてもよく描かれていたと思います。

     空襲の描写もとても臨場感がありました。やはりこのあたりは、実際に戦争を経験しているというところが大きいのでしょうか。

  • 思ったり読みやすいというか、昔の作品読む時にたまに感じる現代との倫理観、物の捉え方の違いがそこまでなくて驚いた。

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著者プロフィール

(さかぐち・あんご)1906~1955
新潟県生まれ。東洋大学印度倫理学科卒。1931年、同人誌「言葉」に発表した「風博士」が牧野信一に絶賛され注目を集める。太平洋戦争中は執筆量が減るが、1946年に戦後の世相をシニカルに分析した評論「堕落論」と創作「白痴」を発表、“無頼派作家”として一躍時代の寵児となる。純文学だけでなく『不連続殺人事件』や『明治開化安吾捕物帖』などのミステリーも執筆。信長を近代合理主義者とする嚆矢となった『信長』、伝奇小説としても秀逸な「桜の森の満開の下」、「夜長姫と耳男」など時代・歴史小説の名作も少なくない。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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