犬を連れた奥さん [Kindle]

制作 : 神西 清 
  • 2012年9月13日発売
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (31ページ)

感想・レビュー・書評

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  • チェーホフは実は誰よりも醒めつつ誰よりもロマンチックな人。
    何もかもを批評してしまう冷徹さと、完全に無垢な純真さとが双方向的に発動してしまう。
    だからここで、明らかにインチキな奴を主人公としてわざわざ出しておきながら、誰がみても(特に読者から見て)その行動が軽薄・軽率そのものであるにもかかわらず、彼は無垢・純真そのものを見つけてしまうという一種の破壊行為が為される。それが世間的・社会的に(そして小説的にさえ)全く常識的でなくとも。

    主人公の行動と思考は全く噛み合わない。愚かで無様である。自分だと思っていたものは全く自分自身ではなく、居場所だと思っていたところには、もはや居る場所はない。
    しかし結果や行く末は一切関係なくその瞬間だけを切り取った、その瞬間、真空の時間の中でだけでの真実。ここには全てを剥がれた全裸の詩的本質以外の何物もなく、規範や制度、善悪、利害、社会性や現実性は全く存在する余地がない。それは言わば完全な孤独と言っても良い。

    社会におけるストーリーを異化し破壊すると同時に、小説作法としてのストーリーを異化し、破壊している。本作は形式と内容とが完全に一致した、稀有な小説なのだ。

    チェーホフにおけるオープンエンディングとは、余韻を持たせたり、その後を暗示したり考えさせたりする事を意図しているのではない。そこで時間を「止める」事を意図しているのだ。「流れる」というストーリーの機能を破壊している。だから、その先は、何と「存在しない」のである。だから二人はきっと暗がりで永遠に震えているのだろう。
    時間が壊してしまう事を保存するには、時間を止めるしかないのだ。

    更に、種明かしをするなら、この二人は『ねむい』のワーリカが二人になったものでもある。

  • 不倫はいつの時代も悪であり、同時に魅力的なんだなぁと思った。

  • 読み返し。
    記憶の中にある結末と全然違っていたことにびっくり。

  • 「不倫したい女」というシネマを見ていたら、チェーホフの「犬を連れた奥さん」のオマージュでした。そこで原作を読むことにしました。若い人妻と年齢はダブルスコアの妻子持ちの男との不倫の話です。物語ではなく、心の動きにこだわり、短編で鮮やかに切り取ってみせたところがチェーホフの新感覚だったのでしょう。作中に出てくる「芸者」という芝居はシドニー・ジョーンズのオペラのことでしょうか?一度、見てみたいものです。

  • 「役にも立たぬ手なぐさみや、一つの話題のくどくど話に、一日で一番いい時間と最上の精力をとられて、とどのつまり残るものといったら、何やらこう尻尾も翼も失せたような生活、何やらこう痴けきった代物だが、さりとて出て行きも逃げ出しもできないところは、癲狂院か監獄へ打ち込まれたのにそっくりだ。」

    ロシア的退廃。女は貴族的生活を送っているがそこに愛は無いと言う。安定しきった環境に身を置くと、それがいかに素晴らしいものかわからなくなる。男は、女に一目惚れし忘れられない。家庭がありながら、その女に惚れ込んでしまう。結局、その女の醸し出す不幸に惑わされているにすぎない。二人は、隠れて会う。そして、二人で幸せになろうと考える。しかし、私は思う。彼らは特別な状況だから惹かれあっているだけだ、と。彼らがうまく二人で生活できるようになったとしても、女は過去を思い出し嘆き、男はそれを見て後悔する。それがロシア的退廃の進む道だ。

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