高瀬舟 [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 罪とはなにか救いとはなにかを考えさせられる作品でした。心に沈む罪を水のように浮かせて綺麗に流せない姿が高瀬舟の影から染み付いているように見えました。

    • ナカジマさん
      重い話ですね…公の罪と個人が感じる罪の意識…。
      双方に苛まれる心情というのは、想像を絶する懊悩を生むのでしょうね。
      僕ならとても耐えられ...
      重い話ですね…公の罪と個人が感じる罪の意識…。
      双方に苛まれる心情というのは、想像を絶する懊悩を生むのでしょうね。
      僕ならとても耐えられそうにありません…
      2023/12/02
    • りんさん
      コメントありがとうございます!
      弟を思いやったことは弟にとってはいいことでも世間は許さない。そういった儚い正義の中に挟まれたら苦しくなります...
      コメントありがとうございます!
      弟を思いやったことは弟にとってはいいことでも世間は許さない。そういった儚い正義の中に挟まれたら苦しくなりますよね
      2023/12/02
  • 暑い中の図書館へのお散歩。江戸時代に罪人を島流しにする際の護送用の舟。喜助という罪人が弟殺しで高瀬舟に乗るが、何故か顔が晴れやかである。身寄りのない喜助は弟と2人で助け合って生きてきたが、弟が病気で働けない。兄の負担を減らすために自ら剃刀で首を切るが死にきれない。弟は喜助に剃刀を抜いてくれと頼む。喜助は苦渋の選択の末に、剃刀を抜いて弟を殺してしまう。弟のためを思った自殺幇助。「苦しい、早く抜いてくれ」と喜助にせがむ弟の目を見ると辛い。一縷の望みで医師を呼び治療する、というのが我国では正解なのだろう。⑤

    森鴎外の脚気論争での大失敗。https://diamond.jp/articles/-/282093 この件は学生に対して講義しています。森鴎外、作品は初めて読んだけど面白いね。

  • 中学の時に教科書で読んだ時は「安楽死を扱った話」として習い、それに疑いを持たなかった。でも、この歳になって読むと、実はこの話、人生における「足るを知る」の意味と難しさ、そして何より、矛盾を冷徹に捉えて具体化した作品だと思えて、胸に刺さってたまらなくなった。
    20分程度で読めてしまう小品にここまでのものを盛り込んだ鴎外の力量を感ぜずにはいられない。

    罪人を護送する職務のため高瀬舟に乗る下級役人の庄兵衛。彼は職業柄、幾人もの罪人を見てきた。彼らは犯した罪への後悔とこれから訪れる罰を前に悲壮な表情をしているのが常。
    けれど、弟殺しの罪で護送される喜助は違った。彼の表情は鼻歌でも歌い出しそうなほど晴れ晴れとしている。
    不思議に思った庄兵衛は、喜助に声をかける。そして語られた喜助の話に、庄兵衛はひどく心を揺さぶられるけど…。

    幼い頃から過酷な人生を歩み、あまつさえ罪人として悲惨な環境に陥ろうとしているのに、身寄りない根なし草としてやっと糊口をしのいでいた人生から一転して、唯一の肉親である弟を苦しみから解放した後に自分の居るべき場所と日々の食事、そして流刑にあたっての支度金まで与えられることを純粋に喜ぶ喜助。

    そんな彼の姿に、庄兵衛は我が身と照らし合わせながら色々なことを思う。
    何も持たないはずの喜助と違って、定職と家族と自由を持っているのに日々の不満や将来への不安から逃れられない自分自身のこと。
    喜助の告白が事実であれば、彼の罪は罪ではなく、来るべき結末を早めただけで、むしろ救済であるという考え(それが事実か嘘かは誰も証明できないが)。
    それでも自分のような人間には、自分自身のことも喜助のこともどうしようもできないという思い…。

    心を揺らす庄兵衛の姿には、それなりの年月を過ごして来た読者は少なからず我が身を重ねて共感するのではないかと思う。

    喜助のように、何があっても穏やかに「足るを知る」ことができれば、人生を穏やかに過ごせるのだろうなと思わずにはいられない。
    でもそう簡単にいかずに、欲望と迷いを抱えて色々なものを追い求めるから、人生は苦しく、けれどもその反面、豊かになるというのも真理な気がする。

    喜助のしたことが殺人か安楽死か、または、彼は裁かれるべきなのかという主題が決して重要でないわけではない。
    けれど、日々を欲と不安の中で生きる凡人にとっては、鷗外は浮世離れした感のある喜助よりも、喜助を前に悩む凡人・庄兵衛の姿を通じて、人間の性質と人生の真理をあぶり出したかったんだな、と思わずに入られませんでした。

  • 京都から大阪へと島送りの罪人を送る高瀬舟。護送する同心と罪人がかわす会話から思いもよらない真理と真実が明かされます。一つは「知足」。もう一つは、殺人なのか安楽死なのかということ。いずれも現代においても重要で、かつ、普遍的なテーマを扱っています。森鴎外の文章は簡潔で、文体が読みやすいのは意外でした。

  • 森鷗外、格調高い文章でとっつきにくいかなと思ってたけどとても読みやすかった。

    この一文が圧倒的に好き。

    その日は暮方から風が歇んで、空一面を蔽った薄い雲が、月の輪廓をかすませ、ようよう近寄って来る夏の暑さが、両岸の土からも、川床の土からも、靄になって立ち昇るかと思われる夜であった。下京の町を離れて、加茂川を横ぎった頃からは、あたりがひっそりとして、只舳に割かれる水のささやきを聞くのみである。

    こんなに短い文章で、財産と安楽死をテーマに盛り込んで印象的な物語に作り上げてるのがすごい。

  • ふと読みました。
    短いのでサクッと。
    何が悪なのかってのを問いかけるものですたぶん。
    行為じたいが同じならそれは全て悪なのか。状況によって変わるのか。
    変わるんでしょうね~、犯罪は犯罪ってことで裁かれる対象にはなるのだけど

  • 強烈でした。

  • 貧困や安楽死といった問題を、その時代に、しかもこの短編で提起するという技量に驚く。

  • 中学校の教科書で読んで、当時は何を学んだのか、自分が何を感じたのかも覚えておらず、なんとなく文章がきれいで悲しい話だった、というくらいの印象しかなかった。

    30年以上ぶりに読み返してみて、高瀬川を渡る舟と薄く雲のかかった空を思い浮かべながら、淡々とした悲しさややるせなさを感じた。

    弟を楽にさせてやるしかなかった喜助、島流しにあうのにどこか表情の明るい喜助。
    オオトリテエに従うしかない、と生じた念。
    起こった出来事に対して物語が静かなのは、喜助の諦めに似た感情と、喜助の清らかさが為したものかもしれない。

  • 1. 流罪に処された人間が悪人か善人かは、実は紙一重ではないだろうか。

    2. すなわち、人を、その人の置かれた立場で判断するのは短絡的である。その人から実際に話を聞いてから総合的に判断すべき。

    3. また、人によって幸せの尺度は異なる。そのため、自分の尺度で人の幸福度を測るのは全くもって意味のないことである。

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森鴎外の作品

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