高瀬舟 [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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レビュー : 63
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感想・レビュー・書評

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  • 中学の時に教科書で読んだ時は「安楽死を扱った話」として習い、それに疑いを持たなかった。でも、この歳になって読むと、実はこの話、人生における「足るを知る」の意味と難しさ、そして何より、矛盾を冷徹に捉えて具体化した作品だと思えて、胸に刺さってたまらなくなった。
    20分程度で読めてしまう小品にここまでのものを盛り込んだ鴎外の力量を感ぜずにはいられない。

    罪人を護送する職務のため高瀬舟に乗る下級役人の庄兵衛。彼は職業柄、幾人もの罪人を見てきた。彼らは犯した罪への後悔とこれから訪れる罰を前に悲壮な表情をしているのが常。
    けれど、弟殺しの罪で護送される喜助は違った。彼の表情は鼻歌でも歌い出しそうなほど晴れ晴れとしている。
    不思議に思った庄兵衛は、喜助に声をかける。そして語られた喜助の話に、庄兵衛はひどく心を揺さぶられるけど…。

    幼い頃から過酷な人生を歩み、あまつさえ罪人として悲惨な環境に陥ろうとしているのに、身寄りない根なし草としてやっと糊口をしのいでいた人生から一転して、唯一の肉親である弟を苦しみから解放した後に自分の居るべき場所と日々の食事、そして流刑にあたっての支度金まで与えられることを純粋に喜ぶ喜助。

    そんな彼の姿に、庄兵衛は我が身と照らし合わせながら色々なことを思う。
    何も持たないはずの喜助と違って、定職と家族と自由を持っているのに日々の不満や将来への不安から逃れられない自分自身のこと。
    喜助の告白が事実であれば、彼の罪は罪ではなく、来るべき結末を早めただけで、むしろ救済であるという考え(それが事実か嘘かは誰も証明できないが)。
    それでも自分のような人間には、自分自身のことも喜助のこともどうしようもできないという思い…。

    心を揺らす庄兵衛の姿には、それなりの年月を過ごして来た読者は少なからず我が身を重ねて共感するのではないかと思う。

    喜助のように、何があっても穏やかに「足るを知る」ことができれば、人生を穏やかに過ごせるのだろうなと思わずにはいられない。
    でもそう簡単にいかずに、欲望と迷いを抱えて色々なものを追い求めるから、人生は苦しく、けれどもその反面、豊かになるというのも真理な気がする。

    喜助のしたことが殺人か安楽死か、または、彼は裁かれるべきなのかという主題が決して重要でないわけではない。
    けれど、日々を欲と不安の中で生きる凡人にとっては、鷗外は浮世離れした感のある喜助よりも、喜助を前に悩む凡人・庄兵衛の姿を通じて、人間の性質と人生の真理をあぶり出したかったんだな、と思わずに入られませんでした。

  • 主人公である庄兵衛は高瀬舟を用いて罪人を流刑地の島へ運ぶ同心。
    ある日庄兵衛は喜助という男の移送を担うことになった。喜助は弟を殺した罪で島流しになったという。
    庄兵衛は常日頃から、人間の欲は果てしなく、どこまで富を得てももっと上を望むものだと思って、少し嫌気がさしていた。
    だが喜助は無欲で、『足ることを知る』人物だった。
    まさに清貧といってもいい人格者である喜助が弟を手に掛けたのは、弟のことを考えて自殺に手を貸したため。
    これは本当に人殺しと言えるのだろうか?
    庄兵衛は奉行の沙汰の通り喜助を流刑地に運びながら、どこか腑に落ちないものを感じていた。

    考えたのは、罪とは何かということ。人がそれを裁くのには限界があるのではないかということ。
    庄兵衛が腑に落ちなかったのは、喜助と自分たちとを比べて、どちらが罪深いのか考えてしまったためだと私は思いました。
    個人的な話になりますが、私は安楽死自体には賛成の立場です。でも、誰かの手を借りないと死ねないって言う状態は、その誰かにすごい重いものを背負わせるなぁといつも思う。
    喜助は迷った挙句に、自分でも自分の行為に疑問を持ちながら自殺を助けてるけど、瀕死の人を前にしたら確かにあんな感じになりそう。その描写がリアルだなぁと思いました。

  • 五感に響く文章が短編ではあるものの多く盛り込まれており、美しさを醸し出していました。
    同じ事象に対する心理的な解釈の違いや罪とは何かということを端的に示してして、ふむ名作だなと。

  • 中学校の教科書で読んで、当時は何を学んだのか、自分が何を感じたのかも覚えておらず、なんとなく文章がきれいで悲しい話だった、というくらいの印象しかなかった。

    30年以上ぶりに読み返してみて、高瀬川を渡る舟と薄く雲のかかった空を思い浮かべながら、淡々とした悲しさややるせなさを感じた。

    弟を楽にさせてやるしかなかった喜助、島流しにあうのにどこか表情の明るい喜助。
    オオトリテエに従うしかない、と生じた念。
    起こった出来事に対して物語が静かなのは、喜助の諦めに似た感情と、喜助の清らかさが為したものかもしれない。

  • 1. 流罪に処された人間が悪人か善人かは、実は紙一重ではないだろうか。

    2. すなわち、人を、その人の置かれた立場で判断するのは短絡的である。その人から実際に話を聞いてから総合的に判断すべき。

    3. また、人によって幸せの尺度は異なる。そのため、自分の尺度で人の幸福度を測るのは全くもって意味のないことである。

  • 足りたるを知ると安楽死

  • 短い中に人間の色々な面が詰まっていて、感情の描写はちゃんとあるけれど、それを淡々と語って終える感じが長く読み継がれる文豪はやはり違うのだと思わされました。
    青空文庫として無料で読めるし、色んな方に読んで頂きたいです。
    高校生の時に国語の教科書で読んでいましたが、改めて読み直すとまた違った感想というか、印象になりました。
    いや、根底は変わらないけれど、少し沁みるというか、上手く表現出来ませんが…。
    定期的に読み返したい作品です。

  • 最終ページに来た時、????これで終わり?乱丁落丁じゃない???とびっくりした、が、そういう終わり方なんですね。読者に問いかけているんですね。尊厳死、安楽死と言う言葉がおそらくない時代。ただ、良心と言うのはいつの時代も人の心にある。これを読んでそれぞれ何を思うか。喜助の姿勢が悲しむ様子がないことは、彼に後悔がないからだろう。40ページ程の短編に深い問いかけがされた作品。

  • 国語の教科書にも載っている命とは何か?罪とは何か?正義とか何か?を考えさせられるお話。
    国語の授業中、何回も読み返した思い出がある笑

  • 短い話の中で、舟の上の二人の生い立ちから関係性まで、余計な脂肪を付けず、しかし、簡素過ぎず表現されている。
    しかも、読者に想像させる余白を残している。
    ずっと残り続けるのがわかる、素敵な短編。

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著者プロフィール

1862-1922年。小説家、評論家、翻訳家。本名は森林太郎。陸軍軍医として最高位を極める一方で、旺盛な文筆活動を展開し、晩年は歴史小説、さらに史伝に転じた。1917年から没するまで帝室博物館総長兼宮内省図書頭を務め、歴代天皇の諡号(おくりな)の出典を考証した『帝謚考』(1921年)を刊行。主な著作に『舞姫』(1890年)、『高瀬舟』(1916年)など。

「2019年 『元号通覧』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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