ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫) [Kindle]

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  • 文藝春秋
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感想・レビュー・書評

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  • 軽薄系タイトルに惑わされるなかれ。

    彼女の書籍を手にすることになった理由は司馬氏著作の「菜の花の沖」にてゴローニンを再認識したことから。Amazonで検索していたところ彼女の別の書籍、「打ちのめされるようなすごい本」という重厚系タイトルが目に飛び込んできたからだった。しかしてその実態はというと…

    確かに一部の軽薄度は期待してよい(笑)

    ただその裏に隠されたる確かな知識量とその言語能力の高さは、逆に読み手側のそれを試すためにするっと入って来るかの如くなのである。すっかりこの人の読書量にぶらさがって打ちのめされてしまってよい気が充実してしまった。恐るべし。

  •  日本語オンリーの私としては、通訳、しかも同時通訳の苦労がよく分かった1冊でした。

     同時通訳の現場には笑いが起こりやすいというのも納得。一度、笑い出すとなかなか止められないしねえ~。

  • 日露翻訳者米原万里のエッセイ集。翻訳という業に対しての悲喜こもごもが軽妙な筆致で語られていて楽しい。
    それでありながら、翻訳や言葉に対して筆者がときおり見せる矜持にはさすがというものがある。
    ダジャレやジョークの同時翻訳はたしかに難しそうだ。

  • 「朝起きてから寝るまで目に入るもの、耳に入るもの、心に浮かんだ思い、とにかく片っ端からロシア語にしていくんです。電車の吊革広告も、昼食で出た料理も、テレビのコマーシャルのキャッチコピーも」というとってきの勉強法強いし、すごく納得。
    「誰か偉い人がいて、こういう意味だと言っても、そうならないんです。間違った意味でも、みんなが使っていれば、それが通用するようになるんですよね」という言葉の面白さにも納得。
    「ある単語がわからなくて、一つの辞書に当たってなくて、二つ目当たってもなくて、三つ目に当たって語根の同じようなあtン語があるもう一つの別の用法があったら突き合わせて、多分この意味だろうと類推していくわけです。だから辞書には、ちょっと載っているだけでも、中途半端でも、ありがたいという感じなんですね。」

  • ロシア語同時通訳のお仕事をされている米原真理さんの裏話。
    同時通訳といっても、言語や環境、習慣が違えば、同じく訳しても全く捉え方が違ってくる…。
    また、その言語にちょうどいい言葉が見当たらない…。
    ダジャレやことわざ、風刺など入れられると、これまた、相手国の人に理解してもらうための訳に四苦八苦。
    それを瞬時に判断して行うのだから、毎回相当な緊張とストレスを強いられる…のに、プロは違う!
    機転が効くと、こうも面白く通訳し、それを楽しんでいるような様子すら見られるモネッタ=ドッジこと米原さん、ガセネッタ=ダジャーレこと田丸公美子さんに脱帽。

    言語の不思議、面白さ、難しさが詰まった1冊でした。

    2017/03/29

  • 言葉の在り方を真剣に考えたことがなかった。同時通訳というのが、事前の勉強で成り立っているということがよく分かったと同時に言葉が生活から出来ているということも少しは理解できた。
    ○意味には言葉が指し示す事物に対する常識や伝統的観点が染み着いている。
    ○受け手に確実にメッセージを届かせたい。その手応えが欲しい。そういう職業的使命感が高じると、ついつい誇張という安易な手段に頼ってしまう。
    ○力作『翻訳史のプロムナード』(みすず書房)以来大ファンになってしまった 由美氏の近著『世界の翻訳家たち』(新評論)の中に興味深い指摘があった。
    ○言葉によって人々を魅了しようという情熱を、より強烈に宿している。
    ○言葉の情報をわれわれは脳味噌にインプットし、この記憶をよみがえらせてアウトプットする過程で、脚色したり、誇張したり、まったく逆のことを言ったりすることがある。この方式だと、当人は十二分に噓をついていることを自覚しているものだ。
    ○自己と自己の近親者を口を極めて絶賛する傾向は、欧米人とりわけ、アメリカ人の言語習慣に根づいており、一種の枕詞や挨拶のようなもの。
    ○学生時代、ロシア語同時通訳の草分け的達人が、気前のいいことに、ご自分のとっておきの勉強法を披露してくれたことがある。「朝起きてから寝るまで目に入るもの、耳に入るもの、心に浮かんだ思い、とにかく片っ端からロシア語にしていくんです。電車の吊革広告も、昼食で出た料理も、テレビのコマーシャルのキャッチコピーも」
    ○ブッチギリの苦情ナンバー・ワンは、通訳技術とか接客態度などではなく、なんと服装だった。
    ○現代ロシア文学の父と言われるプーシキンの韻文小説『エヴゲーニイ・オネーギン』の中で女主人公のタチヤーナがオネーギンに一目惚れして恋文を送ったあと、悶々とする場面がある。
    ○言葉を愛するのなら、言葉の博物館である文学も愛してほしい。
    ○頭の悪い人が「虚無」なんて考えても駄目なんです、ちゃんと哲学者がやるんだから。ぼくみたいに頭の悪いのは考えなくていいんで、文学ってやっぱり、遊びでやらなくちゃ駄目じゃないかなと思いますけどね。
    ○言葉というときに、文学を抜きにして言葉の問題はないと思うんですね。
    ○露伴を全部読めない。
    ○ただ、そういう中で抜きんでようと思ったら、大勢とは別な方向をさぐらないと、抜きんでられないんでしょうね。
    ○つまり問題は、日本で大型辞書といわれている辞書一冊、一人で全部、「あ」から最後の項目まで目を光らせてる人がいないということです。
    ○面白いのは、間違いというのは、他人の間違いでも自分の間違いでも、正反対に間違うのは絶対気づくんです。ところが、微妙な違いだと気づかない。
    ○ナポレオンが「わが辞書に不可能の文字はない」と言ったときの辞書、つまり自分のボキャブラリーをなるべく豊富にしておく、ということを心がけているわけですね。そのためか、辞書、事典というとついつい買ってしまう癖がついてしまいました。
    ○情報としてわからないものが二割くらいだと印象に残って入ってくるんだけれど、もう五割以上わからないと、ほとんどそれ全部灰色で、何もわからない。
    ○耳で聞くときには、わからないことは聞こえないんです。聞こえたとしても、脳髄まで入ってこない。
    ○事前にわかることを多くしておかなくてはいけないんです。
    ○生身の人間としての指導者が直接出会うことによって、官僚同士の下交渉や、その他の手段では決して得ることのできなかった貴重な情報を仕入れ、忌憚のない意見交換を行い、無用な誤解を解き、人間同士のつながりを確立したりする。
    ○人の魅力とは、結局、自分たちとさして変わらないということなのだから。
    ○劇場の建物の一部を事務所や店舗に賃貸したり、奇特なパトロンや新興成り金向けに特等席を設けて、そこだけ極端に高い価格設定にしたりと、涙ぐましい努力をしているが、一般チケットは極力値上げしない。芝居を愛する普通の人たちにずっと来てほしいから。
    ○言葉にとっていちばん大事なことは、美しいことよりも、最も的確に伝えたいメッセージを表しているかどうかです。
    ○松本清張の『砂の器』を野村芳太郎監督が映画化したものとか、スタニスワフ・レムの原作をアンドレイ・タルコフスキー監督が映画化した『惑星ソラリス』
    ○ミハイル・シュバイツェル監督が映画化したレフ・トルストイの『復活』
    ○アンドレイ・ミハルコフ・コンチャロフスキー監督の手によるアントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』
    ○『ユーゴスラヴィア現代史』
    ○世界の言語は大きく分けると三種類あります。日本語やトルコ語のように、「てにをは」のような助詞を付けて語の文中の役割を示す「膠着語」。ロシア語やドイツ語のように、語尾変化によって文中の語の役割が定まる「屈折語」。それに、中国語や英語のように、語順によって語の文中の役割が決まる「孤立語」です。
    ○まったく同じ症状の患者でも、悲観的で絶望しがちな人より、必ず治ると無邪気に信じていて何でも良い方に解釈するタイプの方が完治する確率が高いものらしい。もっとも、病気の治りばかりでなく、その方が幸せな人生がおくれるだろうし、長生きもするだろう。

  • ロシア語通訳者によるエッセイ
    通訳界の面白裏話です
    各エピソードが数ページ毎なので、ちょっとした空き時間に読むのに向いていそう
    かくいう自分は著書の考えに共感して一気に読破してしまいましたが、、

  • 2019年9月29日読了。電子図書館で借りた。

    電子図書館で読み切った初めての本。スマホで読んだのだけど、読むだけなら問題なし。だけどこのブクログに、良かった部分を抜き出そうとすると、画面を閉じて、また電子図書館開いて、となるので、紙の本のようにはいかない。一回ノートに手書きするしかないかな。

    内容は面白かった。気取った感なし。下ネタは、その言葉を翻訳するときどうするか…という真面目なもの。でも堅苦しくはない。面白おかしく翻訳の現場の話を聞かせてくれる。

    対談の章の方が面白く読み進められた。

    ロシア語を勉強してる方なんかにはとても興味深い本だと思う。

  • 国際会議の舞台裏から、ロシアの小話や業界笑い話、柳瀬尚紀・永井愛氏との対談まで、抱腹絶倒のエッセイ集!

  • 米原さんのエッセイは、チェコのロシア語学校時代のエッセイや食べ物関連のエッセイ、それに書評集は読んだことがあったと思うが、本業の通訳業関連のエッセイはこれが初めて。そして、当然、めっぽう面白い。言葉とは、文化とは、深い主題が、爆笑もののエピソードで彩られて、やはり一芸に秀でた人のエッセイは面白い、と思わされる。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。作家。在プラハ・ソビエト学校で学ぶ。東京外国語大学卒、東京大学大学院露語露文学専攻修士課程修了。ロシア語会議通訳、ロシア語通訳協会会長として活躍。『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)ほか著書多数。2006年5月、逝去。

「2016年 『米原万里ベストエッセイII』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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