虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 「地獄はここにあります。頭のなか。脳みそのなかに。」
    アレックスはそう言って、自分の頭を指差した。



    資本主義の未来、今と変わらずテロや戦争が止まらない。

    切なすぎて余韻がすごい。

    社会派近未来SF。


    ーーーーーーーーー

    9・11以降の、“テロとの戦い"は転機を迎えていた。
先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……
彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官"とは?
    (Amazon 作品紹介より)

    ーーーーーーーーーー


    すごく面白い。天才!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝



    どう感想を書けば伝わるのか…。


    主人公クラヴィスの一人称視点で話が進んでいくのですが、彼の思想や言葉がとても痛いんです。

    読んでてずっと暗い気分に。(´-` )
    日記を読んでいるような感覚。


    クラヴィス大尉は情報軍特殊検索群i分遣隊。
    言語愛者で、言葉が人を規制し、人を拘束する実態に見える。


    彼ら特殊部隊は仕事と割り切り、痛覚にマスキングをして人を殺す。
    体の痛みもだが、心の痛みも麻痺する。


    戦場に赴いて、人殺しを心安らかに行う。そのためのカウンセリングならば許されるのだろうか。そうした「意図」ならば許されるのだろうか。(本文より)


    ずっと彼は罪悪感を感じない自分に悩むのだが、そんな時任務でルツィアに出会う。


    『攻殻機動隊』に世界観が似てます。
    タチコマのような、ザ・機械!がウヨウヨ…という感じではなく、特殊な筋肉の素材でできたウエイトレスや戦闘機の内装。
    個人の指紋や網膜で認証の世界。
    隣国では内戦が起こり、常にテロの脅威に晒されている。


    資本主義の世界は、今より便利になっても戦争はなくならなくて、それは格差が齎す影響と、生物の本能は領土を広げて行くことだからかな。世界へ、ネットへ、宇宙へ、次元へ。


    この世界では、彼ら軍人達は上層部の命令に従い虐殺していく。
    クラヴィスには自身で決断していない「仕事だから」という世の中に疑問を抱く。
    過去のジェノサイドやテロも、皆が正義を掲げて仕事をした結果なのです。( ・_・̥̥̥ )


    宇宙SFもメタバース系のSFも大好きですが、この作品はSF要素が一切入らなくても完璧に仕上がった作品だと思います。


    読んでてずっと切なかったですが、ラストまで完璧な内容でめちゃめちゃ良かったです!!



    なので続けてアニメも観ました。

    世界観はイメージ通りで良かったのですが、やはりクラヴィスの心情を表現するには物足りないかと…。
    虐殺の器官とは…も重要だが、同じくらい大事な所だと思うのです。

    戦闘シーン、かっこよかったです^ ^

  • 時代や技術そのものは未来のもの、架空のものでありながら、現代社会と地続きだと感じられる重いリアリティを伴った物語でした。

    自国に不利益を生じなければ、見て見ぬふりをされる内戦というのは、今も存在しています。国力の駆け引きが、多くの人を死や苦しみに追いやっているのは、間違いなくリアルです。その視座でもって描かれているから、遠いどこかかなたの異世界SFではなく、近未来のこの世界の姿として描かれているようで、積み重ねられる死体の描写に、次第に罪悪感を抱いていく感覚すら覚えました。

    戦う兵隊たちに施される「罪悪感」のシャットアウトというカウンセリングを羨ましいとすら正直思いましたし、その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。

    確かにSFを読んでいるのに、まったく絵空事とは感じられない。ことごとく現代を、SFというフィクションの騙りでもって見せつけられている、そんな風に感じた作品でした。

    • eng.123さん
      [その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。
      →共感しました。
      ジョンポールが語っていた、...
      [その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。
      →共感しました。
      ジョンポールが語っていた、[仕事とは良心を麻痺させるものだ。]
      というのは罪悪感のシャットアウトですね。
      仕事だから、仕事だから、低賃金の仕事でも適応できてしまう。
      2022/07/23
    • pepeさん
      はじめまして、コメントありがとうございました。

      罪悪感のシャットアウト、社会や自分たちが無意識に行っていることを作中で鋭く触れていて、...
      はじめまして、コメントありがとうございました。

      罪悪感のシャットアウト、社会や自分たちが無意識に行っていることを作中で鋭く触れていて、とても印象的でした。
      2022/07/26
  • やっぱり伊藤計劃は面白いなぁ。

    久しぶりに、『ハーモニー』と合わせて読み返してみたけれど、
    けっこう2作に共通したテーマがあるように感じた。
    死について。
    親しい人の死に対して、罪の意識を感じる主人公。人間を物的に見ながら、しかし、死ねば物に過ぎないとは割り切れないところもある。
    社会について。
    テクノロジーや制度によって、より良い社会が実現されているように見えるのに、そこにあるどうしようもない矛盾。
    意識について。
    「わたし」という存在を認めたいのにも関わらず、意識はモジュール的、あるいは、会議的で、そこに「わたし」という個は必要ないように思える。しかし、「わたし」の存在を感情的に否定したくないところ。
    進化論について。
    人間のあり方について、進化論的な見方をしていながら、どこかそれを心から肯定できない、むしろ、反発もしているところ。

  • 実は7〜8年前に3分の1ほど読んでそのままになっていたのを、その続きから読んだ。ほとんど忘れてはいたけれど、まるで映画を観ているようで、内容的にも深く、様々な知識が散りばめられていて、今度はすんなりと最後まで読み通すことができた。こんなディストピアは本当に訪れそうな気がする。攻殻機動隊と1984の世界観も感じられると思っていたら、最新の攻殻機動隊も1984をモチーフに展開していたっけ。

  • 夭折の作家が描く地域紛争が多発する近未来の世界。そこに広がるのは夥しい数の破壊と殺戮。目の前で展開する光景は惨たらしさの極致である筈なのに一才の感情を排した語りがそれらを変成し気分はまるで無声映画を観ているかのよう。ただ一言、すごい作品に出会ってしまった。

  • ※作品のネタバレを含みます。各自で自衛願います※


    ただひとつだけ引っかかる箇所がなければ最高だった…っ!

    近未来の暗殺部隊の話。独自用語が出てくるが説明はくどくなく、すんなり読める。文体も登場するキャラクターも魅力的。
    ただ一点、主人公がとある女性に惚れた理由がよくわからない。これが魚の小骨のように引っかかって素直に楽しめなかった。
    メンタル病んでる上に希死念慮抱えてそうな人間が恋をするにはそれなりの理由やきっかけが必要だと思うのだが、なぜかいきなりコロッと堕ちる。話を盛り上げるためにねじ込んだと思われる恋愛要素が、厭世的でプロフェッショナルな主人公というキャラクターを台無しにしている。
    これさえなければと何回読んでも小骨が刺さる。

  • 9.11後に先進国では徹底した個人の管理、監視体制を敷き国内でのテロを一掃した。
    一方後進諸国では内戦や虐殺行為が頻発しており、その影には必ず一人の男の存在があった。

    アメリカの軍人クラヴィス・シェパード大尉は虐殺を引き起こす男、ジョン・ポールの暗殺を命じられる。


    ジョンによる虐殺の手法に驚きだけど(SFの世界にあってとてもアナログ!)その動機はすごく切ない。
    世界平和は永遠の目標だけど、実際は自分の手の届く範囲の平和が大事で、そのために手を汚すんだなぁ…

    人を殺す事に葛藤を抱え始めながらも冷静に任務をこなしていたクラヴィスのエピローグが壮絶。まさに坂を転がり落ちる石のように…

  • 久々にSF小説が読みたくなり読んだ。
    サイコパスや攻殻機動隊のような近未来な世界観の中で描かれるSFアクション小説。
    技術的な用語には聞き覚えのあるものも多く小説として楽しめた。
    主人公の母に対する葛藤、そして主人公がジョン・ポールの真意にたどり着いたあとに出した答えが描かれた結末。展開もテンポが良く考えさせる読後の読了感もよかった。

  • 文学ラジオ空飛び猫たち第22回紹介本。
    ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/22-empqcc

    ダイチ
    ラジオでは多少ネタバレを話していますが、読むきっかけになればと思っています。ただ未読の人でこれから読むのを楽しみにしている状態なら、さきに読んでいただいてその後にラジオを聴いてほしいと思います。小説の感想としては、初読のときは衝撃を受けました。9・11以降の世界をSF小説として描いているのですが、驚きの連続です。『虐殺器官』、『ハーモニー』と続けて読むのがおすすめです。米軍大尉でいながら悩みを抱えて戦う主人公クラヴィス・シェパードの心情にも惹かれました。
    幅広く楽しめる要素がある小説です。アクション映画が好きな人や、世界情勢が絡む特殊部隊の世界が好きな人や、「虐殺の文法」という小難しい理論をわくわくして読める人ははまると思います。SF初心者でも楽しめます。「虐殺の文法」のアイデアがおもしろくて、文体も読みやすいです。

    ミエ
    タイトルに《虐殺》と入っているだけあって残虐な描写は多少ありますが、SF小説としておもしろいです。作中の重要なアイデアである「虐殺の文法」の理論は難しいところがありますが、何となくの理解でも十分に楽しめます。また引きのある登場人物も魅力的で、ジョン・ポールという悪役に位置付けされるキャラには成り立ちのドラマがあって、主人公クラヴィス・シェパードも特殊部隊に所属する軍人でありながら人間味があって、この二人の会話には惹き込まれました。
    『ハーモニー』に比べると『虐殺器官』はよりスリリングな展開です。エンタメ要素も高く、多くの人にとって楽しめると思います。

  • 人間に特有の“器官”としての言語、自由意志、平和・倫理とは…。
    多種多様な切り口から問題提起が為されており、いろんな楽しみ方ができる作品だと感じた。
    自由とは選択できること、良心は遺伝子的に組み込まれているもの、人間という生物に対するリアリズムと理想の間。
    主人公以外の全ての登場人物はそれぞれが確固たる信念・倫理観を持ち合わせているのも魅力的だった。そして、その中で、主人公がある種のアイデンティティ・クライシスに陥り、最終的に崩壊(!?)の一途をたどる結末も興味深く、1984年の読後感と似たものを感じた。

    本作品を読んで、次に読む予定の同著者作品の「ハーモニー」の期待値が上がった。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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