虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • SFの道具立てで人間が生きて他者と交わることを突き詰めた物語。
    ナノマシンで何でも擬態でき、ほとんどのことを認証システムとネットワークにやって記録でき、それでもなお人が直接人に手を下さなければならない世界で、人や物の感触・記憶とシステムの出力を対比させながらそれをそれたらしめるのは何か、そして他者と自己の境界と交わり方を問うている。そして同時に、戦争や殺人がある状況では肯定され効果的に使われる一方で、自身の倫理観が試され続ける状況において、人間を人間として受け止める瞬間を最後に描く。
    設定が緻密で全体としては面白く読めたが、主人公が任務で出会った女性に恋に落ち、そこに救いを求める流れは不必要では?と思った。時代のせいかな。

    20230918 改稿

  • 3.3

  • スケールに差はあるけれど、利己の為に他者を犠牲にする思想が埋め込まれているという視点は衝撃的。時々視点が変わる書籍に出会うけれど、この書籍はまさにその一冊。ニュースや社会を見る視点が確実に変わる。

  • よかった。
    深い話しますよ!みたいな空気を醸しながら途中にドドっといい感じの会話を埋め込んでいるようにも感じて、やってんなーと思おうとしたけれど、内容が普通に良かった(好み?)からこれもありだと思った。
    終わりに近づくにつれ、ちょっとだけ期待しすぎたかなとメタ心を持ち込みながら読んでしまったけれど、エピローグのこの数ページだけで物語がくるっとまるっと持ってかれた。びっくりした。

    好きな本だった。
    読み終わった後に余韻が残るだけじゃなく心も動かされる本
    このままもう少しぼーっとしていたい。

  • 以前『ハーモニー』を読んで面白かったので手に取った。
    設定がぶっ飛んでるけど説得力もあって、作者のすごさを感じたが、今一つ世界に入り込みきれなかった。
    SF的な世界観よりも、主人公の葛藤や登場人物との会話に刺さる部分が多かった。

    以下メモ
    ・魂があると考えることで、人を殺した罪が軽減されると考える→宗教の最低な利用法
    ・人が自由であるということは、何らかの自由を捨てること。遺伝子や環境といった先行条件があっても、人間は選択することができる
    ・我々が話しているややこしい内容も、プリミティブな感情を遠回しに表現しているだけなんじゃないか。

  • ハーモニーの作者、伊藤計劃さんのSF小説。
    漫画版、劇場版アニメもあり。


    9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
    米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?
    (Amazon作品紹介より)


    人間が本能的に持っている破壊衝動を言語によって刺激し、やがて虐殺を引き起こす。それが「虐殺器官」。

    ジョンはテロにより家族を失った過去があり、後進国が先進国にテロを起こすのを防ぐため、後進国を「虐殺器官」により扇動して内戦や虐殺を引き起こした。

    「人々は見たいものしか見ない。世界がどういう悲惨に覆われているか、気にもしない。見れば自分が無力感に襲われるだけだし、あるいは本当に無力な人間が、自分は無力だと居直って 怠惰 の言い訳をするだけだ。だが、それでもそこはわたしが育った世界だ。スターバックスに行き、アマゾンで買い物をし、見たいものだけを見て暮らす。わたしはそんな堕落した世界を愛しているし、そこに生きる人々を大切に思う。文明は……良心は、もろく、壊れやすいものだ。文明は概してより他者の幸せを願う方向に進んでいるが、まだじゅうぶんじゃない。本気で、世界中の悲惨をなくそうと決意するほどには」
    340p

    「わたしは悔いていない。わたしは命を天秤にかけた。わたしたちの世界の人間の命と、貧しく敵意の影がさす国の人間の命。わたしは目を見開いたまま、完全に正気で、その選択をした。そうして選択がなされたあとで、どれだけの命がわたしの背中に貼りつくことになるか、それもはっきりと自覚したまま選択したのだ。自分にできることを知ってしまったら、そこから逃れることはできないよ」
    350p

    クラヴィスはジョンの元愛人のルツィアに心惹かれ、ジョンの逮捕以上にルツィアに会いたい一心でジョンの足取りを追う。
    そして、作戦遂行中にジョン・ルツィアともに死んでしまう。

    エピローグで、クラヴィスはアメリカを「虐殺器官」により扇動する。

    ぼくは罪を背負うことにした。ぼくは自分を罰することにした。世界にとって危険な、アメリカという火種を虐殺の 坩堝 に放りこむことにした。アメリカ以外のすべての国を救うために、歯を嚙んで、同胞国民をホッブス的な混沌に突き落とすことにした。
    とても辛い決断だ。だが、ぼくはその決断を背負おうと思う。ジョン・ポールがアメリカ以外の命を背負おうと決めたように。
    外、どこか遠くで、ミニミがフルオートで発砲される音がする。うるさいな、と思いながらぼくはソファでピザを食べる。
    けれど、ここ以外の場所は静かだろうな、と思うと、すこし気持ちがやわらいだ。
    361‐362p

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ハーモニーもそうだが、伊藤さんの小説は重たいテーマが多い。

    去年、ウクライナ侵攻に触発され、戦争に関連したブログをいくつか書いた。

    https://bc-liber.com/blogs/8af83e480d34
    リベログ

    ウクライナに感じるもの【うしろめたさの人類学】

    こば
    03/19 06:01

    https://bc-liber.com/blogs/1967072aa248
    リベログ

    戦争への傾き【戦争論/100分de名著】

    こば
    03/23 14:44

    https://bc-liber.com/blogs/51960525390b
    ノベルの塔

    【さよなら妖精/亜人】すべての人間が無意識に他人の命の重さを...

    こば
    07/26 20:10


    特に、最後のブログに書いたことは、本書を読んですぐに思い出した。
    すべての人間が無意識に他人の命の重さを秤にかけてる。
    (中略)
    でも、だからといって、命の平等さを理念として目指すことは破棄してはいけない、とも思う。
    たとえ現実には決して平等に扱えなかったとしても、理念としての平等さはあくまで掲げ続けるべき、と思う。

    テレビの向こうの話を、自分事として捉え続けることは僕にはどうしてもできない。

    僕は、自分の眼の前の「直接体験」を大事にするしかない。
    僕がやるべきことは1番目のブログに書いたことから変わらない。

    僕にできる贈与は何か?

    月並みだけど、それはやはり目の前のことに精一杯向き合うことなのだろう。

    患者さんやスタッフに、誠実に対応する。
    家族を大切にする。

    一隅を照らす。
    それはただの前向きな言葉ではない気がする。

    あきらめ、開き直り、無力感、複雑な感情を含んでいる。
    でも、そうすべきだと思うし、そうしたいと思う。

  • 既に名作SFですね。
    でも、読む人を選ぶ気はするなあ。
    圧倒されるほど精緻に作り込まれた世界観ながら、説明が多いし、読みやすいとは言えない文章。
    結末もスッキリする感じではないので、期待しすぎずに読めば、傑作に巡り会えるかもしれません。

  • 器官とは「動物の目・口・胃や植物の根・葉・花などのように、生物体の内部で特定の機能や形を持っていいる部分」(新明解国語辞典)。形あるものを機能面として見なすのだが、その機能の働きは意識されることはない。そして、虐殺器官とは、ことばのことだ、という。ことばにするとは、意識とすることだが、虐殺器官としてのそれは意識されない働きとなる。
     どんな言語であれ虐殺の文法がある。
     ジョン・ポールは、それを、過去の虐殺のデータを分析して見つけた。ことばは、虐殺の文法に従って利用できるのだ。シェパードが、宗教を、人間の肉体を離れた崇高な中枢があるとして、「魂の生が重要」と殺人の罪の軽減に利用したように。そのジョン・ポールの来歴はPR会社、貧しい国の文化宣伝顧問として、他国へ窮状と魅力をアピールするが、それが、プロパガンダで国内に目を向けさせる方向へ転換させ、不満をあおることで国内に敵味の分断をつくり、内戦に導く。
     ことば、身体と魂の。身体は外にあり思うままに加工できず、向き合わなければいけない。魂はイデオロギーとして扱える。身体のことばは感覚的で、理性が立ち入ることができない。目の前でおこった出来事(経験)が、肉体に訴えかけるものであるから、悲しい、うれしい、言葉にしてしまえば陳腐なものとなる。対して、魂のことばは、出来事(経験)が情報として客観化されたところから生み出される。理性で処理されイデオロギーと化したものとなる。
     虐殺は現実・身体的であるが、多くの場合、イデオロギーによってもたらされる。そして、虐殺という悲惨な現実は、当事者にとって崇高なイデオロギーに基づくものとして、悲惨な現実の直視から逃れることが可能なものとなる。

  • わざわざややこしく難解でポエミーに書かれていると感じる部分があって読みづらく読了にかなり時間がかかった。
    ダーパやソコムなど、mgsで聴き馴染みがあるものの具体的に何を表すのかはよく分からない固有名詞が多用されていたのもその理由の一つかもしれない。
    ジョンポールが紛争を引き起こす理由には驚いたし、実際にそう考えている国もあるのではないかと思う程リアルであった。
    主人公の結末も意外だった。

  • 再読。 やっぱりあんまり楽しめなかった。 合間合間に挟まれるMGSよろしくの戦争描写に全然興味が持てないのが原因か。進化と自由といったテーマもよくわからなかった。 ジョン・ポールの動機や最後の主人公の行動については完全に忘れていたのでかなり新鮮な驚きとともに受け止められた。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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