ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • なんか凄い小説読んじゃった……(๑º ロ º๑)


    私の推し小説10選に余裕で入りました…。

    あぁぁぁ……(余韻の溜息)


    ーーーーー

    21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。
    医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。
    そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―
    それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰にただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。
    (Amazon 作品紹介より)

    ーーーーー


    先に『虐殺器官』を読んだ方がいいです。

    またほんの少し雰囲気の違う作品ですが、関連があります。

    文中にHTMLタグが表記されていて、最後に理由が分かります。

    世の中に「大災禍」と呼ばれる混乱が巻き起こった半世紀後、世界中で「メディケア」と呼ばれる個人用医療薬精製システムが人間の健康管理をする世の中になる。

    このシステムを否定する少女、御冷ミァハの存在が主人公の心を強く揺さぶります。

    主人公は霧慧トァン。
    彼女はメディケアにより争いの抑えられたこの世の中に居心地の悪さを感じている。

    ーーーーー

    リソース意識。
    人はその社会的感覚というか義務をそう呼ぶ。または公共的身体。
    あなたはこの世界にとって欠くべからざるリソースであることを常に意識しなさい、って。「命を大切に」や「人命は地球より重い」の一族に連なるスローガン。(本文より)

    ーーーーー

    そして彼女達は自殺を決意する。

    争いのない世界、病気のない世界は理想郷。
    長生きが普通で、平和。
    このユートピアは実現可能に思える。
    ただ、国民ひとりひとりが医療生命システムによって管理されるのと引き換えに。

    これって、メディケアさえあれば、独裁を緩やかにした共産主義…社会主義の理想が現実にできるのでは?と思ってしまった。

    独裁で従わせる必要がない。

    表向き国民一人一人の為に、個人は自分や家族のの為に、とwin-winに捉えているから成り立つシステムだ。
    国家の権限で国民を従わせるので、共に富むことも滅ぶ事も可能。

    ただ、皆正義の為に働いている。
    愛する人を守る為に全てを善に置き換える。

    ーーーーー

    善、っていうのは、突き詰めれば「ある何かの価値観を持続させる」ための意志なんだよ。
    (本文より)

    ーーーーー


    『虐殺器官』でも『ハーモニー』でも、同じ
    「愛する人を守るための正義」の話だ。

    そんな理想郷でも、子供たちの自殺が増える。


    子供達を「重要なリソース」として扱う反面、意思を抑え込む世界。


    『ハーモニー』の世界は、はたしてユートピアなのか。




    アニメも連続2回観ちゃいました。
    断然小説の方が良いですが視聴後は『虐殺器官』同様、とても考えてしまいます。



    何か感想思ったように書けないよ〜

    すごく良かったよ〜( ᵒ̴̶̷̥́ωᵒ̴̶̷̣̥̀ )

  • 2060年、破滅的な核戦争を経て、全人類が体内にWatchMeと呼ばれる健康維持管理システムを導入することで、プライバシーのない原理主義ともいえる医療福祉社会へと移行した人類社会を描いたSF小説。約350ページ、四部構成。巻末には早世した著者への最後のインタビューも収める。

    主人公は霧彗トァン、世界保健機構の螺旋監察官としてニジェールでの勤務にあたる28歳の女性である。螺旋監察官の「螺旋」はDNAを意味し、もとは遺伝子改変といった犯罪を取り締まる組織だが、守備範囲を大幅に拡張して世界各地の紛争解決に乗り出している。

    作品の時間軸はトァン28歳の時点のほか、15歳の高校時代が交互して描かれる。トァンと並び、本作でも重要な人物として登場するのは御冷ミァハ。若き日のトァンの人格形成に決定的な影響を与えたトァンの同級生で、成績優秀な問題児で、エキセントリックなキャラクターとして描写される。ミァハは徹底して健全に漂白されていく社会に絶望しており、高校時代はミァハの独白を中心に展開する。

    螺旋監察官として海外に勤務していたトァンだったが、本作の未来社会ならではの違法行為が上司にバレたことで、トァンが嫌っている日本に帰国させられてしまう。ちょうどそのタイミングで世界各地で同時多発的なある重大な事件が発生し、世界は核戦争以来の混乱に陥る。謹慎を命じられていたトァンだったが、この事態を受けて螺旋監察官として捜査に乗り出すことを志願する。

    本作で描かれている社会背景や、事件の顛末にはSF的な好奇心をくすぐる興味深さが十分にあって結末までを楽しみながら読めた。他方、装飾が多く背伸びにも見えるもったいつけた、ラノベ的な文体や会話、固有名詞など、作品の「中二病」的な特徴に違和感があり、この点は最後まで馴染めなかった。作品の重要な鍵を握るミァハの過去についても、現実感に乏しく感じてかえって白けてしまった。SFとしての設定やプロットへの関心は持てる一方で、味付けが全く好みに合わない作品だった。完全に仮定の話だが、同じストーリーを違う作者が書いていれば、もっと好きな作品になったかもしれない。

  • 高校生のころ読んで久しぶりに再読。ずっと過去に囚われてる系の話が大好きなので、これもお気に入りの一冊。ハッピーエンドなのかそうじゃないのか、人によって変わりそう…私はハピエン派。

  • 「魂を擁護する言葉は、どこにあるのだろう」

    <question>
    <q: あなたは、だれ…>
    <a: わたしは、わたし>
    </question>

    「きみはわたしと同じ素材からできているんだよ」

    <panic>
    <shout>
    わたしは、わたし
    </shout>
    </panic>

    「一緒に示そうよ」

    /////

    ずっと気になってた伊藤計劃本。遂に読めて感激!緻密なロジックで繊細に編まれたディストピア×ユートピア的世界観。3人の少女。脳、心理、平和、人間、未来、生と死…絡み合う文学に終始陶酔しました。

    こりゃ再読しちゃうのも無理はない!

  • SFとかほとんど読んだことがないくらい苦手なくせに、設定が妙に好みだったから、ものは試しにと読んでみた。
    これが、とっても素晴らしい!
    本当に、素晴らしい。この作家さんの文章力に裏打ちされたからこその、作品。もうすごく、描写が上手。
    思春期まさしく反抗期真っ只中の少女たちが、ただ長生きすることを幸福と定義した世界を嫌悪して、死のうとしたこと。それから十三年後、世界は何も変わっていなかった。
    そんな若い3人の女の子がまた可愛くて、ずっとこの3人を見ていたかっただけに物語の成り行きはとてもつらいけれど。
    あと最後の二人の対決シーンが、物語の大きさの割には個人の中に収まり過ぎちゃって不満かなあ、と思ったけれど、「個人」という単位こそがこの物語の主軸になって来るので、そういう意味ではやっぱり正しいのだろうか。

    本当の幸福って、何だろう?
    お金があること、健康であること。幸せな家庭があること。素晴らしい文化に触れていられること。
    ラストは、全てが壊れた。
    それもまた、幸福の一つかもしれない。
    でもきっと、もう人は幸福を感じることも、知ることもないんだろうけど。

  • 「うん、ごめんね、ミァハ」
    この一言が印象的な物語だった。キアンもトァンもずっとミァハをひとりにしてしまったことを心の奥底に隠して成長した。そしてミァハもきっと、12歳の時から罪悪感を抱えて生きていたのだろう。

    世界観は非常にキリスト的だと思う。人間は自然の支配者であり、それを抑えつけ管理する義務がある。そしてその人間は原罪を背負った存在という前提。
    だからこそ人間は自らを管理しなければならないし、悪に染まりやすい意思を必要としない行動決定プログラムがあればなお良い。祝福の言葉もそりゃ「祝詞」ではなく「ハレルヤ」になる。そんな流れになるのは必至だったのかもしれない。
    トァンはそれを「外注化」と呼んでいた。

    そんな空気に反して、トァンは自己意識を行動決定の最優先としている。「わたし」をどこまでも大事にし、最後まで優先したからこそ、トァンは敗残者になったのだと思う。

    個人的に、ディストピア小説を書く作家は、誰よりも人類の可能性を信じているのだと思っている。
    トァンが苦痛に感じる世界の「空気」に近いものは現代にもあるし、ハーモニーも決してあり得ない未来ではない。しかし管理社会にもはみ出し者がいるという描写によって、残る希望を描くことを忘れない。
    想像の世界を書いて現代に警鐘を鳴らすことができる文学はすごいなあと語彙力がないながらに思う。
    きっとハーモニーという作品は永遠に近いところまで残るのだろう。

  • 2019年、アメリカ合衆国で発生した暴動をきっかけに全世界で戦争と未知のウィルスが蔓延した「大災禍(ザ・メイルストロム)」によって従来の政府は崩壊し、新たな統治機構「生府」の下で高度な医療経済社会が築かれ、そこに参加する人々自身が公共のリソースとみなされ、社会のために健康・幸福であれと願う世界が構築された。
    ある年齢に達した人々にはWatchMeと呼ばれる恒常的体内監視システムが埋められ、分子レベルで健康状態が監視され問題が生じた場合にはメディケアと呼ばれる個人用医療薬精製システムが家庭にながら治療を行う。
    ここまではバラ色の未来ではあるが、将来予想される生活習慣病を未然に防ぐ栄養摂取及び生活パターンに関する助言の提供がなされるようになる。ハード面での医療に加えメンタルケア、生活パターンに対するケアまで生府が行うようになる。慈愛と思いやりが人々に安全で幸福な生活を約束する。そんな中で麻薬はもちろん、喫煙・飲酒はもちろん、コーヒー等の覚醒を促すような飲料は忌避されるようになる。法律で禁止されるわけではなく慈愛と思いやりを使ってである。
    人々が自分自身の管理を外注に出した世界である。
    こうした世界で伊藤計劃が提示したテーゼは「ある程度まで相互扶助が保たれる社会システムが組み上がってしまえば、実は意識などという時代遅れの機能は不要になって消し去られる運命にあることを示しているのではないか」ということである。
    そもそも、人間の行動はその大半が意識なく自動的に行われている。たとえば、今私がやっている文章を書くという作業というのも、ほぼ自動作業であり、今までため込んだデータベースから言葉を引き出しているのにすぎないのである。人間の意思決定は(自動的に)おこなった行動の理由付けにすぎないともいえるのである。
    意思が行動を司るのでは無く、行動が心を生むのである。生物の単純な形のもの原生動物の類いが何らかの意思のもとで行動しているわけではないように、生物は先ず行動があってやがていつの時からか派生的に心を持つようになったのである。
    AIは人間の心を持つか?人間と同じかどうかはわからないが行動に人間を模した行動を自律的に行うAIは何らかの心を持つであろうと思うのである。また、人間に心が生じた後も意思というものを持ち合わせていない時代が長く続いたと思うのである。今でも個人の意思では無く、集団の心、神の意志で生きている地域はたくさんあるのである。
    ユートピアかできそこないの世界か人々はどちらを選ぶのでありましょうか。

  • 人は、魂がないと意志がないと、人ではないのかな?!

    面白く読了しました。脳内で葛藤し選択することが意志とする部分は良くできてるなぁっと。

  • 久しぶりに、伊藤計劃を読みたくなり、今までとは反対に『ハーモニー』から読んでみた。

    初めてハーモニーを読んだのは、およそ10年前の大学時代。
    改めて読み直してみて、自分の一部を形作っているのは、間違いなく伊藤計劃だと思った。

    人間の機能を進化論的に考えることや社会を(特に日本を)支配する「空気」、そして、意識や意志、心について関心を強く持つようになったのは、伊藤計劃の影響があると感じた。

    読み直してみて、考えてこなかった疑問がいくつか。
    意識は、作中で提示されたように、充分に発達した社会では不要となるだろうか?
    本作の文章は、クライマックス後の世界向けの文章という設定があるのだが、果たして、意識なき世界で、誰がこの文章を書き、誰が読むのか? 意識なき人類も物語を書き、読むだろうか?

  • ――


     いろいろ廻って読み直してみたら、これ読んどきゃよくね? 感がすごい。SFには特に、各年代にそういう作品があるような気がする。或いはそれぞれのサブジャンルにある核のひとつ、かな? それを読んでれば、ある程度の会話についていけてしまうような。要するに何かについて、「それってハーモニーのあれに似てるよね」って話が出来ちゃうような(そういう牽強付会的な会話が面白いのかどうかは別論)。


     それだけ多くの要素を、それはこの作品以前のものも勿論含めて備えた、ひとつの極致なんだろうと思う。SFに限らず、これが書かれるに至った沢山の文化を我々は誇るべきだし、ここから走り出したいろいろな作品を積極的に楽しむべきだし、そして同時に、その恐ろしさも刻んでおくべきなんだろうと思います。
     真っ白な表紙に文字を落とすにはやはり黒だし、真っ黒な表紙に文字を落とすにはやはり白だというただそれだけのことが、それだけのことでなくなる。



     10年かそれくらい前、はじめて手に取ったときと比べて、より深刻に読めてしまったのが怖い。現実的に、というか。
     一線を超えた想像力。これぞSFである。
     アニメ…見るか…?

     なんか本棚登録してなかったからお詫びも兼ねて☆5

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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