ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 優しさや愛が支配する世界。それが理想な世界なのかもしれないが、小説の中で「慈母のファシズム」と表現されてて面白いなぁと思った。

  • 未知のウィルスと戦争により世界が崩壊した大災禍(ザ・メイルストロム)を経験した人類が、
    二度と同じことを起こすまいと体内監視システム、WatchMeを開発した。
    人々は、WatchMeを体内にインストールし、健康状態を常にWatchMeに把握・監視されている。
    WatchMeで異常を検知すると、リンクしている個人用医療薬製薬システム(メディケア)がどんな万能薬でも作ってくれる。
    WatchMeがあることで、全ての病気は消滅し、体型についても管理され、太りすぎもせず、痩せすぎもしない皆が皆同じ世界の話。


    昨今、私たちの存在する現実の世界では、著名人の病気の告白が増えている。
    自分と同世代の著名人が闘病生活をしているのを見て、応援する気持ちと、自分は大丈夫なのだろうかと不安になる人も少なくないはずだ。
    病気にならないこと。それは人々が、お正月のお参りや、流れ星に向かってお祈りするほど願ってやまないことだ。
    では、病気や痛みがない世界、それは果たして幸せなのだろうか。
    WatchMeで身体を監視される世界、それを望むだろうか。答えはNOだ。

    作中の主人公トァンと敵対する、ヴァシロフという人物の言葉が心にひっかかる。
    WatchMeがオフラインになるエリアで、銃撃戦の末に胸を銃で打ち抜かれ、呼吸をするのも難しい中、こんな言葉を言う。
    > 「ものすごく、苦しい。苦しいんだ。ああ、こいつが痛みってヤツなんだな。WatchMeとメディケアめ、人間の身体にこんな感覚があるなんて、よく隠しおおせたもんだ。」

    痛みには様々な痛みがある。心の痛み。体の痛み。
    痛みを感じることで他者の痛みも理解することができる、人に優しくなれる。それが成長だ。
    例えば、上司にきつい言葉をかけられ、傷ついたとしよう。自分が上司になったら同じ言い方はしないと心に誓う。これは痛みを知っているからこそ思うことだ。
    お酒を飲みすぎた翌日、頭痛、胃痛に悩まされる。身体がSOSを出していることを感じ、反省し、身体を休ませる。
    自分自身で管理することで自分自身を知ることができる。
    私たちの身体と心(意識)は常に一心同体であり、生まれてから死ぬまで切り離せないものである。身体と会話をすることはとても大事なことだ。

    作中のヴァシロフがどこまで感じてこの言葉を言ったのか分からないが、
    今まで感じたことのなかった痛みを感じることに幸せを感じているように思う。

    程度の差はあれ、痛みを知ることは身近に溢れている。
    病気や痛みがない世界は、トァンがそう言っているように、まっぴらだ。

    > <i:WatchMeがからだに入るのは、おとなのあかし>
    > そして女子高生のわたしはといえば、おとなになるなんてまっぴらだった。


    作中ではWatchMeをインストールしていない子供や、インストールしていない後進国の人々と、
    インストールしている上でハーモニー・プログラム(調和のとれた意思を脳に設定するシステム)を発動された人々とが共存する世界で、
    その後、どうなるのか、については描かれていない。
    個人的には、インストールしていない人々が技術を制圧して、"人"らしく生きる世界になっていてほしいなと思う。

    今日の医療技術の発展は目覚ましい。
    遠い未来だと思っていたことがもう実現の目の前だったりすることがある。
    WatchMeのような体内管理システムが導入される日が実は近いかもしれない。

  • 病気なんてなくなればいいのに、と誰もが思ったことがあるのではないだろうか。
    病気がない、みんなが健康で思いやりを持ち、自らが社会的リソースであると、強く思わされる世界。
    実際にそんな世界に生まれたら、どう感じるのだろうか。
    優しさでゆっくり絞め殺される、と作中で表現されているが、この表現こそがわたしを絞めつけている。

    普段あまり読書をしない人には、あまりオススメできないが、読書好きには絶対読んでもらいたい作品。

  • SFはもともと苦手で、この作品も読みながら自分の頭の悪さをしみじみと感じた。読むのに時間がかかりながらも、すべてが完璧に制御され病気や苦痛が存在しない世界というのは、果たしてユートピアなのかディストピアなのか…と考え込まされた。

    けれど、作者自身が34歳という若さで肺ガンに冒され、病床で書いた最後の作品がこれだったと知ったとき、作品が生々しく迫ってきて一気に涙があふれた。

    最後のページにある謝辞を何度も眺めた。

    「感謝を捧げます―私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。」

  • 電子書籍で読了。
    人体内の健康状態を常に把握し、改善策を処方するシステムが開発され、病や不健康が実質克服された近未来を描いたSF小説。
    ストーリー展開等にはやや疑問を感じるところもあったが、人が自分の身体にかかわることのほぼすべてを外注化した先に何が待っているのか?、人の意識とは何なのか?等といった壮大なテーマが扱われていて、読み応えは充分。
    また、本作発表後間もなく没することになる作者の思いが、作中何度も語られる「永遠」という言葉にこめられているように思われ、感慨深かった。

  • かなり刺激的で面白い小説でした。
    健康を第一にお互いを気遣い、ネットワークされた健康管理システムを体内に組み込むことで絶えず体内状態を監視して、病気を克服した医療福祉社会が舞台。
    民主主義から生命主義へ移行した人類の行き着く先は…。
    健康とは何か?
    意識とは何か?
    苦痛は必要なのか?
    理想的な社会とはどういうものなのか?
    考えさせられる点だらけの素晴らしいお話でした。

  • いまから語るのは,
    <declaration:calculation>
    <pls:敗残者の物語>
    <pls:脱走者の物語>
    <eql:つまりわたし>
    </declaration>(冒頭の一文)

    病気がコントロールされた近未来の話.感情のコントロールへと進む世界規模の話に,主人公の身近なプライベートの話がきれいに織込まれている.

  • 初、伊藤計劃。Kindleバーゲンにて購入。本文がetmlという、XML (HTML)ライクな記述がされていて、人の感情がエレメントとして表記されているのが最初違和感があった(あまりに説明的過ぎる)が、なるほど!そういうことか…と。

    2009年に既に鬼籍に入られているということで、テーマが人間の完全なる調和(ハーモニー)、WatchMeによる失病のない世界というのが笑えない。

    SFは、その世界観にどこまで入り込めるか?が面白さの1要素と思うが、最後震撼するところまで含めて大変楽しめました。

  • 伊藤計劃ハーモニー

    前作、「虐殺器官」を副読しまくってからおおよそ3ヶ月後の購読。
    著者──伊藤計劃──の見ている世界は理解したつもりでいるけれど、この作品のエンディングは割りかし想定の範囲内。ただ、<part:number=01…… の最後に訪れる展開や、物語が御冷ミャハの一人称で語られていたことの理由付け、作中内の歴史などは意表をつかれることが多く、非常に楽しめた一作だった。

    Watch-Meの普及により、健康がコミュニティによって守られている時代
    セックスや、ドラッグや、そういった「快楽」は古い価値観となり、人間の身体はいわば「付き物」のような感覚で認識されるようになってしまった……。

    医療に携わる人々もピンクの服装に身を包んでばっかりで、個人は社会的機能のために生きることを善しとされている。そこに、御冷ミャハやトァンなどの「苦」に知的好奇心を覚えるような子どもが誕生し、物語は序盤から異常の一途を辿っていくこととなる。

    以下はwikipediaで見た情報だけど、大災禍(ザ・メイルストローム)は核戦争の勃発のことを指し、地球全体に害のあるウィルスをばら撒いてしまった事件ようですね。
    前作「虐殺器官」でも核の使用が物事の発端だったから、著者は「悲劇」が起こらないかぎり世界の常識みたいなものは覆らないという風に考えていらっしゃったのかも。
    ストーリーは相変わらずのミステリーエッセンスが効いていて、初読時にリタイアする人が少ない作品に仕上がっていると思った。的を絞ったキャラクターの使い方も世界観に没入しやすく、「読み方がわかりやすい」という面においては好印象。私はキャラクターの名前を覚えるのが苦手なので、ボルヘス(全書籍図書館)とか、PassengerBard(六翼の飛行機)とか、そういった専門用語に集中出来たのが嬉しかった。

    伊藤計劃は男性の作家さんですが、女性の文体を使いこなすのも非常に上手い方だっと思う。
    読んでて違和感がまったくないし、亡くなってしまわれたのが本当に惜しい方でした。

  • かなり印象的

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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