日の名残り (ハヤカワepi文庫) [Kindle]

制作 : 土屋 政雄 
  • 早川書房
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レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (365ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 再読。かなり前に読んだのだけれど、もうすっかり内容は忘れていて、ここ数年で「わたしを離さないで」「夜想曲集」を読んだとき、「日の名残り」も読み返したいなと思っていたけれどなかなか読めずにいて。
    最近、イギリスのドラマ「ダウントン・アビー」にすっかりはまりまって、(まだシーズン1までしか見てないけど)で、イギリスお屋敷モノというか、執事モノというかつながりで、そうだ、今こそ「日の名残り」を再読しよう、と。

    で、お屋敷とか貴族とかの話はあんまり関係なかったんだな、と。執事の話で。
    執事という自分の仕事、生き方に誇りを持っている主人公が短い旅をしながらこれまでのことを思い出し、特に事件が起きるわけでもなく。かつて同じお屋敷で女中頭だった女性を訪ねた結末に、わたし、少しはドラマティックな展開があったかな、と、執事の心のうちだけでもなにか変化があったかな、と、思っていたんだけど、あれ、そうでもなかったか、と。
    不思議になるくらい淡々とした感じ。もの足りない気もするんだけど、これがいいのかも、と。ひどく静かで淡々としているところがまた人生を思わせるというか、ラストはなんだか感動したり。
    映画ももう一度見たくなった。

  • 1956年。ダーリントンホールの執事として長年ダーリントン卿に仕えてきたスティーブンスは、新しい主人のファラディ氏のフォードを借りて、イギリス西岸のクリーヴトンで休暇を過ごす。スティーブンスは、ダーリントンホールの人手不足を解消するために、かつての同僚のミス・ケントンに助力を頼もうと会いに行くのだった。
    スティーブンスはその道すがら、ミス・ケントンやダーリントン卿とのやりとりを思い出しながら、「品格」とは何かについて考察を深めていく。
    第一次世界大戦後のイギリスにおける対ドイツ宥和派だったダーリントン卿のロビー活動を描きながら、品格ある執事の鑑だった父親、自分の仕事にこだわりをもつミス・ケントンとの確執、融和、別れを振り返りながら、現代において時代の流れに翻弄されるスティーブンスの独白という形で物語は進んでいく。
    スティーブンスの執事らしい丁寧な物腰とは裏腹に、その人格の抱えている問題点も浮き彫りになってくるから面白い。スティーブンスは面白がらせているわけではないのに、その行動や言動がツッコミどころ満載で、微笑まずにはいられないのだ。壮大なボケを展開して、そのまま最後まで突っ切ってしまおうとするスティーブンスに、読者は心の中でツッコまさせられてしまうのである。「知っててやってるやろ」と思わずにいられないのだが、どうも本人はまったくの天然なのだ。
    この物語の、というかスティーブンスの特にこだわるテーマである「品格」について、彼が人から問われるシーンがある。そこでスティーブンスは「品格」について、

    「これは、なかなか簡単には説明しがたい問題でございますが」と私は答えました。「結局のところ、公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないことに帰着するのではないかと存じます」
    「すみません、何がですか?」
    「品格が、でございます」
    「なるほど」医師はそう言ってうなずきましたが、何のことかわからないといった顔つきでした。

    ほら。読者みんなの気持ちを代弁してツッコんでくれてる。
    一応、スティーブンスは彼なりの(そして現在ファラディ氏に影響されて絶賛練習中の)ユーモアを駆使して応えているのだけれど、彼の心情をずっと読んできたいわば並走者である読者すら置き去りにしてこの発言なのである。
    しかも医師のツッコミも、「なるほど」で終わってしまっている。関東人か。あと一歩ツッコめ(笑)。

    そしてミス・ケントンとの再会へと物語は進んでいくのだが、それについてももはや「志村、うしろ、うしろ」と叫ばずにはいられない。わざとやってるやろ、スティーブンス。
    そんな作品である(たぶん違)。

  • 実に上手い。古き良き英国の伝統。時代の移り変わり。心の移り変わり。いろいろあるがそれらをすべて含めての小粋な終わり方。均整のとれた上品なフルコースをいただいたような満足感。シェフの繊細さに舌鼓をうちました。

  • 要するに、偉大な執事とは何か、引いてはプロフェッショナルとは何か、についてイギリス式に長々とfor exampleを述べているということなのだろう。
    ただ、品格を問う話だけに内容が重い。途中、積読したがなんとか3年がかりで読了。
    日の沈まぬ国、大英帝国の日の名残り。

  • ノーベル文学賞受賞をきっかけに読む。もともとの題名「The Remains of the Day」の方が中身をよく表している。最後はそのremainsから飛び出そうとする主人公を描いており、綺麗な終わり方だった。

  • 執事の品格、イギリス人とフランス人の思想、屋敷内の非公式・密室で決定される重要事項と、そこから廻り始める世界のさま。 これらを、回想形式の物語から読み取れる名著。 堅物な執事と、ツンデレな女中頭の滑稽な衝突がメインではあるが。

  • Amazonの創業者社長であるジェフベゾスがオススメしているのを何かで見かけ、丁度kindle本が安く発売されていたので電車で読むには良いかと思って何気なく買った一冊。
    しかしこれが大当たりです、小説なので中々二度読みたいとは思わず★4としていますが内容的には★5をつけたいほど優れている小説です。
    本書はイギリスのとある屋敷で働く執事の不慣れな旅と回想とその思想にフォーカスされた一冊です。私はイギリス文化にそれほど興味も無く、執事については何の知識も興味も無いのですが思わず電車を乗り過ごしそうになるほどの文章に惹き込まれます。
    そう、この小説の凄いところは扱ってるテーマは血湧き肉踊る冒険談とはかけ離れた地味なテーマにも関わらず、圧倒的な文章力と描写力でもって一瞬で本の中に惹き込まれる点です。個人的に好きな三島由紀夫の様なロジカルで洗練された文章とはまた違う、シンプルながらも丁寧な文章が惹き込ませます。
    読んで間もないうちに脳内ではスティーブンス=マイケル・ケイン(ダークナイトのアルフレッド)のイメージがありありと描かれ動き出しました。読み終わった後で映画化を知り、大好きな俳優アンソニーホプキンスが主演しているようなので機会を見つけて映画も見たいものです。

  • 大きな館の名家に仕える立派な執事がどんなものか
    ダウントンアビーをまずよく見ておいてよかった。
    おかげで感動も大きい。

    本書の執事スティーブンスは
    まるで殿様に仕える忠誠なサムライのようだ。
    旦那様のためなら自分の人生を犠牲にするのを厭わない。
    旦那様あっての自分であり仕えることことが自分の悦びであり使命であり、満足であるといささかも疑ってはいない。

    心のうちに永遠に消えないであろう恋の炎も
    執事としての冷静と理性のうちにきれいに納め隠して彼は生きてゆくのだろう。
    この理性と冷静は人生に悲恋をもたらすけれども
    人生をそろそろ仕舞う支度を始めるこのときには
    積み重ねてきた分のしなやかな強さとなって彼を輝かせる。

    一日のうちで最も美しい夕暮れ時のように
    人生も夕暮れ時が一番よいのかもしれない。
    この終わり方は、とても素敵だ。

  • ノーベル賞受賞前から読んでて、漸く読み終わった。英国紳士に仕える執事の回顧録。お堅い口語調でパーフェクトな執事かなと思いきや…感情的になることもあれば、執事職(?)以外の人が読むと「?」となるカワイイ部分もあり、面白い。
    「品格の有無を決定するものは、みずからの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だ」という表現には納得。1900年代中盤の英国紳士について学べた一冊。

  • 作者がノーベル文学賞を受賞したので読んでみた。川端康成は読んだことはないですけど...村上春樹がノーベル文学賞の候補になる訳も、なんとなく理解できた。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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