- Amazon.co.jp ・電子書籍 (395ページ)
感想・レビュー・書評
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イギリスのヘールシャム地方で友人たちと青春時代を過ごした女性キャシー。彼女が語る過去は、ちょっと訳アリっぽい。
「介護人」、「提供者」、「保護者」と呼ばれる人々が何人も登場するが、どんな職業なのか、詳しい説明はない。また、キャシーたち学生は寮で集団生活をしているのだが、その学生生活もなにか妙だ。彼らはどこから来たのか、卒業してどこへ去っていくのか。やたらとセックスと死が身近なのも気にかかる。
なんとなく不穏で違和感だらけ。そんな感想を持ちながら、読み進めていけば、隠されたテーマにはなんとなく想像がつく。
が、本作品のジャンルをSFミステリーとするにはちょっと違う。また、人類の未来と奢りを描いた社会派小説でもないし、もちろん若者の友情と恋愛を描いた青春小説でもない。
作品ごとに全く違うジャンルに挑み続けるノーベル賞作家の新しい作品としか説明できない。これこそがカズオ・イシグロっぽさだ。 -
不完全ながらも完結した世界で生きる子供たち。無垢で幼く、それが時に痛々しく思えもした。
そういった純真な少年少女が育っている施設での青春が現実感を持って描かれる。
序盤からそこはかとなく、破滅の色は見えていたけれど、こういった秘密があるとは…。ホラーではないけれど、今まで読んだ本の中で、もしかしたら一番怖い物語かもしれない。
あらかじめ失われることが分かっている世界でどうしてこんなにも淡々と語ることが出来るのか。
主人公の、ひいては作者の精神力に畏敬を抱いた。
ロストコーナーのくだりは読み終えた後も強く心に残る。 -
とても面白かった。登場人物たちが子供の頃は無意識に、大きくなってからは自らの役割として淡々と己の境遇を受け入れているという世界たリアル。これ少年漫画だったら自己主張を声高に叫び自由を求め制度と戦うとこだよ。あと生殖ってやはり生物としての骨幹だなと感じました。
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「表現を記録として残すこと」が人間らしさだと思われてたのかしら。
サッカーでゴールを決めて得意になること、マグカップにお茶を入れて夜中に2人で話すことは人間らしさではなかったのかな。
動物の身体の一部が金属になっている絵を描くことは、主人公たちの境遇を表現しているようだった。
金属は取替えできるし、人間らしさから遠いもののはずだけど。
テレビ番組でAIが大喜利を作っているのを見たけれど、AIは人間じゃないんだよね。 -
最初からずっと一抹の物悲しさがあって、それが払拭されることはなかった。
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自分が小学生の時のことを思い出す。子供の特権というのは、やはり何にでもなれる(事実とは反するにしても)という期待感を持てることであって、自分が提供者になることを約束されていると知ったら、生きるのが嫌になりそう。与えられた運命や環境の中で、楽しく生きようと努力することが大事なのかな。
p410
将来に何が待ち受けているかを知って、どうして一所懸命になれます?無意味だと言いはじめたでしょう -
元々ドラマを見たことがあって大まかな内容は知っていたが、小説で読んでみるとあの独特な雰囲気が蘇ってきた。生徒たちは悲しむわけでもなく、ショックを受けるわけでもなくなんとなく自分の将来を知っていて、彼らを同情するには違うと思った。先生が生徒に対して恐怖心を持っていながら育てるのも胸が痛んだ。
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少年少女のエピソード自体は自分の少女期にも心当たりがあるような他愛もない出来事が続く。しかし散りばめられた疑問がどういう意味なのか、どんな環境でどんな未来が待ち受けているのかドキドキしながら読む。途中、ああそういうことなのかという部分では悲しいような納得するような不思議な気持ちになる。
著者プロフィール
カズオ・イシグロの作品






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