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感想・レビュー・書評
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めずらしくノンフィクションを読んでみた。
ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンが2012年に発表した著作で、2008年のリーマン・ショックから続くアメリカ経済の不況に対する財政政策を論じたものだ。
クルーグマンは単純明快に、不況の時には金利を下げて、政府が減税・財政出動“しなければならない”、と述べている。
お金を借りやすくして、個人・企業が使えるお金を少しでも多く残して、経済全体に回るお金を増やしなさい、というわけだ。
経済の基本は、「あなたの収入は、誰かの支出」。
誰かが労働・借金して得たお金を支出しないと、あなたの収入にならない。
不況時には、個人にも企業にも余裕がなくて支出ができない。そんなときに政府までもが財政を緊縮させて支出しなかった場合、経済全体が縮小スパイラルに陥ってしまい、ただただ不況が長引いてしまう。
だからこそ、不況時にも唯一支出が可能な“通貨発行権を持つ政府”が財政出動して、経済をまわして回復させなければならない、と結論付けている。
10年も前に発表された財政政策論が、現在の日本にそのまま当てはまってしまうのがとっても哀しい。政治家・官僚は経済史を学ぼうよ。すでに実例としてそこにあるんだからさぁ。
もともとは、井上純一さんのマンガ「キミのお金はどこに消えるのか」シリーズでクルーグマンやリフレ政策を知って本書を読んでみたものだ。
本書ののちあらためてマンガを読んでみて、とっても納得してしまった。
なのに我が国の総理大臣様は、防衛だの子育てだのとそれっぽい理由をくっつけて「増税」を目指しておられるようだ。
中学生の公民の教科書に「デフレ不況時には、政府は減税して公共事業への支出を増やし雇用を確保する」と書いてあるんだけど、ご存じないのかしら。
優秀であるはずの財務省官僚が、20年以上にわたって財政政策を間違え続けているのにもかかわらず、けっして反省も見直しもしないのは何故なんでしょ? 野党だって日本の国会議員だったら一言「反省して対策案を出せ」と言えばいいのにね。国益に対する無為無策は、背任容疑として訴えたいくらい。
こんなことばかり考えていたら気が滅入ってしまって、おなかの中がぐりゅぐりゅになってしまいそう。
やっぱり、スカッとする小説を読みながら、隣の爺っちゃんから畑借りて芋・豆・野菜を育てるほうが良い――政治などに期待せず、自給半足の生活を目指すほうが利口なのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
邦題は「さっさと不況を終わらせろ」。2008年のノーベル経済学賞学者のクルーグマンのもの。山形浩生さんの訳ということもあって、明解な本だった。この人が訳をしたもので、面白くないものって、本当にない。ほんと、さっさと終わらせろよな、この不況、と思う。(13/7/19)
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日本同様に「流動性の罠」にハマった米国に対し、クルーグマンがより高いインフレ・ターゲット導入と大規模かつ長期的な財政出動を緊急提言する一冊。原著は 2012年 4月だが、その後再選を果たしたオバマ大統領と、この本の中でも散々苦言を呈されている元同僚バーナンキ FRB 議長は、依然として高い失業率と 0% 金利による流動性の罠に苦しんでいる(まあ、株価は絶好調だけど)。
一方、日本は、訳書が出た当時はまだ政府と日銀が協力して日本を地獄の底のその更に下へ突き落とそうとしていた矢先であったが、クルーグマンと同じ理論を展開する浜田宏一の内閣官房参与就任などもあって、ようやくまともな金融・財政政策が取られそうな雰囲気である。という雰囲気だけで、すでに成果が上がっている状況ではあるが、ぜひ今後も具体的な予算によって、不況下における金融政策と財政出動のモデルとなるような成果を残してもらいたい。
翻訳は「クルーグマン教授の経済入門」で一早くクルーグマンを日本に紹介し、その後もエッセイなどの翻訳、ウェブ公開を手がける山形浩生さん。訳者解説で、今やノーベル経済学賞受賞者になってしまったクルーグマンに遠慮してか「多少普通の訳文にしてみた」とは書いているが、軽妙洒脱な筆致は健在。