河童 [Kindle]

著者 :
  • 2012年9月27日発売
3.76
  • (37)
  • (45)
  • (57)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 482
感想 : 64
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (69ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 感想放置しすぎて忘れたシリーズ

    そのうち再読します……

  • 河童の世界は、ある程度我々人間を投影した姿であり、例えば下層の河童は無能で社会的に無用な存在であるため食べ物にされる、というのは冷酷だが、実はこうした発想というのは長い歴史の中で社会が捨てきれない思想であることは明白。河童におけるこの潔さを「清潔」と評価しており、上辺の道徳・倫理に塗れた社会に辟易としてるんじゃないかと勝手に想像するね。昭和2年つーと、そうした世の中になろうかという雰囲気もあったかもしれんし。


  • 僕はこの話を終つた時の彼の顔色を覚えてゐる。彼は最後に身を起すが早いか、忽ち拳骨をふりまはしながら、誰にでもかう怒鳴りつけるであらう。——「出て行け!この悪党めが!貴様も莫迦な、嫉妬深い、猥褻な、図々しい、うぬ惚れきつた、残酷な、虫の善い動物なんだらう。出て行け!この悪党めが!」

    二,
    河童は我々人間が河童のことを知つてゐるよりも遥かに人間のことを知つてゐます。それは我々人間が河童を捕獲することよりもずつと河童が人間を捕獲することが多い為でせう。捕獲と云ふのは当らないまでも、我々人間は僕の前にも度々河童の国へ来てゐるのです。のみならず一生河童の国に住んでゐたものも多かつたのです。

    「どうもまことに相すみません。実はこの旦那の気味悪がるのが面白かつたものですから、つい調子に乗つて悪戯をしたのです。どうか旦那も堪忍して下さい。」

    四,
    不思議だつたのは河童は我々人間の真面目に思ふことを可笑しがる、同時に我々人間の可笑しがることを真面目に思ふ——かう云ふとんちんかんな習慣です。

    五,
    「僕は超人的恋愛家だと思つてゐるがね、ああ云ふ家庭の容子を見ると、やはり羨しさを感じるんだよ。」
    「しかしそれはどう考へても、矛盾してゐるとは思はないかね?」
    けれどもトツクは月明りの下にぢつと腕を組んだまま、あの小さい窓の向うを、——平和な五匹の河童たちの晩餐のテエブルを見守つてゐました。それから暫くしてかう答へました。
    「あすこにある玉子焼は何と言つても、恋愛などよりも衛生的だからね。」

    六,
    「ぢやあなたのやうに暮してゐるのは一番幸福な訣ですね。」
    するとマツグは椅子を離れ、僕の両手を握つたまま、ため息と一しよにかう言ひました。
    「あなたは我々河童ではありませんから、おわかりにならないのも尤もです。しかしわたしもどうかすると、あの恐ろしい雌の河童に追ひかけられたい気も起るのですよ。」

    七,
    マツグは生憎脳天に空罎が落ちたものですから、quack(これは唯間投詞です)と一声叫んだぎり、とうとう気を失つてしまひました。

    八,
    それは丁度家々の空に星明りも見えない荒れ模様の夜です。僕はその闇の中を僕の住居へ帰りながら、のべつ幕なしに嘔吐を吐きました。夜目にも白じらと流れる嘔吐を。

    十,
    ラツプは右の脚の上へ左の脚をのせたまま、腐つた嘴も見えないほど、ぼんやり床の上ばかり見てゐたのです。

    「トツクさんは僕を軽蔑してゐます。僕はトツクさんのやうに大胆に家族を捨てることが出来ませんから。」

    ラツプは目をこすりながら、意外にも落ち着いて返事をしました。
    「いえ、余り憂鬱ですから、逆まに世の中を眺めて見たのです。けれどもやはり同じことですね。」

    十三,
    そこには二歳か三歳かの河童が一匹、何も知らずに笑つてゐるのです。僕は雌の河童の代りに子供の河童をあやしてやりました。するといつか僕の目にも涙のたまるのを感じました。僕が河童の国に住んでゐるうちに涙と云ふものをこぼしたのは前にも後にもこの時だけです。

    十六,
    「お前さんはまだ知らないのかい?わたしはどう云ふ運命か、母親の腹を出た時には白髪頭をしてゐたのだよ。それからだんだん年が若くなり、今ではこんな子供になつたのだよ。けれども年を勘定すれば、生まれる前を六十としても、彼是百十五六にはなるかも知れない。」

    今まで気のつかなかつた天窓が一つ開きました。その又円い天窓の外には松や檜が枝を張つた向うに大空が青あをと晴れ渡つてゐます。いや、大きい鏃に似た槍ヶ岳の峯も聳えてゐます。僕は飛行機を見た子供のやうに実際飛び上つて喜びました。

    十七,
    僕は河童の国から帰つて来た後、暫くは我々人間の皮膚の匂に閉口しました。我々人間に比べれば、河童は実に清潔なものです。

    そら、向うの机の上に黒百合の花束がのつてゐるでせう?あれもゆうべクラバツクが土産に持つて来てくれたものです。…………
    (僕は後を振り返つて見た。が、勿論机の上には花束も何ものつてゐなかつた。)

  • test

  • 少女終末旅行に出てきたので読んだ。
    どっちが狂人なのかわからない。

  • ブラックユーモア溢れる作品でした。風刺として描かれている部分は彼の時代も現代でも共通しているところが多いと感じました。芥川龍之介の作品はあまり読まないのですが、彼の死生観が凝縮されていると思いました。

  • Kindle無料版にて。青空文庫。
    いやあ芥川。
    コレはなかなかに面白かったぞ。
    かなり読みづらかったけどさ。
    芥川にしてはなかなか中身があって珍しいんじゃない?
    とあるキチガイの昔話。
    河童の世界に迷い込んだ男が人間界に戻って気が狂ったのか、もしくは元々狂っていて河童世界の妄想を語っているのか?
    人間は河童に比べて窮屈で生きづらいという話かと思ったが、むしろ河童のほうが色々ルールが厳しそうだなあ。
    何が言いたかったのかはわからんが、なかなか荒唐無稽で面白かったと思う。

  • 面白かった。普段はほとんど小説を読まない自分でも、ズルズル引き込まれ読み終わった後には爽快感さえありました。すごくおすすめです。

  • 出産時に子供に生まれたいか意思を聞いた結果、否であれば中絶するとか、劣性遺伝子を排除すべく、健全な義勇兵を募り、不健全な男女と結婚せよと呼びかけたり、現代社会にも十分通ずる問題のテーマがたくさん含まれ、それを小気味よいほどにエスプリ、皮肉、風刺を使って書いている。作者の才能には脱帽せずにはいられないという気持ちにさせてくれる作品。

  • 眠れないときに青空文庫を読むのにハマっていた時期があり、その頃読んだ。
    何作か読んだことはあったが、全て通して読むのは初めて。
    おもしろかった。

芥川竜之介の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×