駈込み訴え

著者 :
  • TRkin (2012年9月27日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • この作品は、太宰治の妻である美知子が太宰治の口述を筆記してできたものであり、「全文、蚕が糸を吐くように口述し、淀みもなく、言い直しもなかった」という美知子の証言がある。
    イエスを裏切ったイスカリオテのユダの心情が、太宰治独自の解釈で「ユダの独白」「ユダの訴え」という形で描かれており、その独白は実に愛憎入り交じったものである。イエスへの愛が深いからこそ見返りを求めてしまい、その見返りが得られないためにかえって憎しみが増大し、かと思えばさらにイエスを狂信したりと、イエスに対するユダの感情がコロコロと変わり、自分自身でもイエスを愛しているのか憎んでいるのか分からなくなっているという人間らしいユダの悲痛な訴えがひしひしと伝わってくる。その切羽詰まったように綴られ続けるユダの訴えを読んでいくうちに、ユダの人間味や寂しさなどが伝わってくる。本当にこんな気持ちだったのかもと思わせるような、ユダのとてもリアルな揺れ動く心理描写が、読み手の心を引きつける作品である。
    イエスを裏切ったのは憎しみからか、それとも愛情からなのか、自ら自問自答するようなユダの訴えが繰り広げられるが、最後にはユダが金への執着を見せ、イエスを裏切ったのは金のためなのだ、と自らに言い聞かせるような様子に、愛憎の果てに壊れていったユダの切なさやつらさを感じた。

  • ブク友ヒボさんのレビュー「駈込み訴え」(立東社・乙女の本棚)から興味を持ちました。
    新約聖書のユダの裏切りを題材にした作品ですと!?太宰治が?と、早速青空文庫で読んでみました。

    太宰治が描くユダの心の叫びに引き込まれた。
    難しいけれど、ロックミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」(JCS)の観劇経験があるので、まだスムーズに読めた気がする。
    このミュージカルは、ジーザス(イエス)最後の7日間を、ユダの目から語るというもの。
    ユダのこんな忠告の歌から始まる。↓

    ♫ 私は今、分かるのだ 明日のことがすべて
    神の子と誰も彼を呼ばなくなれば どうなる
    ジーザス! あなたまでが自分の事を 神の子だと信じるとは……

    ↑劇団四季版日本語歌詞“彼らの心は天国に”より
    (定期的に公演しているので興味がありましたら是非!ただ初見で私は理解できず。1973年の映画もある。楽曲も良い。)

    本書は太宰版JCSといった感じか?
    イエスを愛するがゆえの憎しみ、嫉妬、失望、苦悩、諦め、殺意、そして裏切り。
    太宰版のユダがなかなか人間臭くて良い。
    そしてキレイに終わらない。どんでん返しっぽくて軽くショックを受けた。
    「あいつは売られる。ざまあみろ!はじめから愛していない。世の中は金だけだ。私はケチな商人ユダです」と。

    • なおなおさん
      淳水堂さん、お詳しいですね!
      そして私たち、観劇同期のようですよ^^;
      改めて…(っ´ω`)っ⊂(´ω`⊂ )アクシュッ
      語り合えそうですね...
      淳水堂さん、お詳しいですね!
      そして私たち、観劇同期のようですよ^^;
      改めて…(っ´ω`)っ⊂(´ω`⊂ )アクシュッ
      語り合えそうですね。淳水堂さんも語り始めると止まらない感じでしょうか^^;

      私もユダと言えば芝さん!もう好きです。
      ピラトは村さん。「1、2、3…」と鞭打ちのシーンは辛いのですが、「村さん、数字飛ばすなよ〜〜」と心配で一緒に数えてました^^;
      下村ヒノデロの足がキレイでしたよね^^;
      願わくば、下村ファントムを観たかったです。とんでもないファントムになったと思うのです。怖い…^^;
      そういえば昨日、NHKの歌番組でミュージカル特集をやっていました。ここで話題にしていたので、なんというタイミングかと!
      石丸幹二が出ていましたよ。幹二といえばラウル!懐かしいですね。
      鹿賀丈史も出ていました。まさかJCSを歌ってくれるとか?と期待したのですが、レ・ミゼの方でした。
      長々とすみませんでした(*>ㅅ<)՞՞
      2023/10/18
    • 淳水堂さん
      なおなおさん
      はい、語り始めると止りません^^;
      NHKミュージカル特集は見逃してしまって(T_T)
      石丸幹二は劇団四季のときにいくつ...
      なおなおさん
      はい、語り始めると止りません^^;
      NHKミュージカル特集は見逃してしまって(T_T)
      石丸幹二は劇団四季のときにいくつか観たのですが、目からキラキラ光線発しているというか、舞台映えがものすごかったです!
      『美女と野獣』の野獣役だったのですが、最後はまさに「野獣の中から王子様がでてきた!!」って感じで。
      そして石丸幹二は今の仮面ライダーにも出てるんですよ。どうやらヒロインのお父さんらしくて今のところは回想シーンくらいで生死不明ですが、生きていると思われるので、今後出てくるはず。石丸幹二が仮面ライダーに変身したらテレビの前で拍手しちゃうなあ笑
      2023/10/19
    • なおなおさん
      淳水堂さんも語り出すと止まらないと!?
      やっぱり!同じニオイがしましたもん^^;
      幹二と言えば王子キャラですよね。でもオペラ座の怪人のラウル...
      淳水堂さんも語り出すと止まらないと!?
      やっぱり!同じニオイがしましたもん^^;
      幹二と言えば王子キャラですよね。でもオペラ座の怪人のラウルは、幹二より佐野さん派でした^^;
      仮面ライダーを早速YouTubeで確認しました!ホントだ!びっくりです。
      ご本人は初代仮面ライダー世代なんですって。ミュージカル俳優を経て、出演するとは思ってもいなかったと思います。
      失礼しました。( ^_^)/~~~
      2023/10/20
  • 太宰治が解釈する、ユダの“主”に対する想い。

    溢れ出る感情を叩きつけるような、終始疾走感のある語りです。ユダの告白はキリストへの愛憎混沌を極め狂気に満ち、敬意と愛と嫉妬と怒りが二転三転どころではなく入り乱れる感情の忙しなさ。ふとそんな自分の感情の振り幅に動揺を隠せない様子がなんとも人間らしく滑稽で愛おしい。特別であって然るべきの自分を、なぜあなたは拒むのか。何故?どうして?
    この作品はあまり冷静に振り返らず、ユダの情念に引きずられるように自分も一緒にのめり込んで駆け抜けた方が楽しい。太宰にこういった自問自答して自棄していくような主人公を描かせると見事だなとしみじみ思います。

    とあるフレーズがとても粋だと思ったので引用。作中で見ると自己中心的極まりない発言なのであくまで単発として。
    「私は私の生き方を生き抜く。」

  • 聖人たちの名前が出てくる
    最後の晩餐
    元々貧しい商人
    同い年と共通点はあるはずなのに遠い存在
    好きとは。
    恋愛的なのか、束縛、尊敬
    死ぬ事を察している、裏切り者
    自分では殺すと思っていない
    女に好意を抱いた事ない、これはこれですごい
    嫉妬に狂う、めっちゃ早口で言ってそうw
    結局、ただの人だった
    なら殺してもいいか。
    どこまでも人は落ちる
    最後の晩餐の描写
    裏切り者の存在をキリストは理解していた
    どうしてパンを口に当てたか、薄々最初からそうなるようにキリスト、ユダとも導いていた
    好きだからこそ、思いが強いからこそ殺すしかない。
    最後の銀貨を受け取るやりとり、趣きがある
    イスカリオテ、裏切りの使徒

  • 中島敦の西遊記ものが大好きなんだが、なんとなくそれに似た雰囲気。中島敦の「悟浄歎異」では、沙悟浄が三蔵法師を「法師さまはどうしようもなく弱い、けどそれゆえに強い」(たぶんちょっと違う)と評しながら敬愛してやまない。今回の「駆け込み訴え」でもユダがイエスを「あの人には実際何にも出来やしないのだ。でも美しい人なのだ」と言って愛している。それで調べてみると、太宰治と中島敦は共に1909年生まれ、両作品の発表年も1941か1942頃、でとても近かった。もっとも中島敦は1941に病死していて、西遊記シリーズは死後の発表のようですが。ちなみに太宰治の自殺は1948。

    「駆け込み訴え」は、イスカリオテのユダの裏切りのシーン、ユダのひとり語り一本勝負の作品。いわゆる「人間としてのイエス・キリスト」もの。新約聖書に書かれた、イエスの行動の(現代日本人的に)解せない部分を、「ユダのイエスへの行きすぎた愛と献身」によって解釈している作品、としても読める。例えば、
    *イエスの行う数々の「奇跡」は、元商人であり実務能力に長けたユダのお膳立てによってはじめて為し得ていたことである。五つのパンと二つの魚で大群衆の飢えを満たすという奇跡、あれは実はユダが裏で苦しいやりくりをした上で食糧を調達していたのだ、とか。
    *ベタニアの家で食事をしたとき。忙しく働き回ってあれこれ給仕してくれた姉のマルタよりも、黙ってイエスの話を聞き、香油をイエスの体にかけ、自分の髪でイエスの足を拭った妹のマリヤを、イエスは庇う。ユダの言うには、このときイエスは美しいマリヤに対して恋のような感情を抱いていたという。
    *逮捕そして死が近づくにつれての、イエスの数々の強気発言(商いに汚れたエルサレムの宮は壊してしまえ、三日で私が建て直す、とか)。これらをユダは、イエスもやきがまわったと評し、幼い強がりをしているだけだと見抜いている。

    面白いのは、ユダ自身も、マリヤかわいいよなって実は思っていたところ。でも気高くあるべき、私の愛するイエスが、(私も抱いちゃったのと同じ)卑しい感情にほだされて、私の愛する気高いイエスとしてあるまじき発言をしているのを見て、ムラムラと、イエスへの殺意がわく。
    そして謎の強がり発言を繰り返すイエスを見て、もうこんなの私の愛する気高いイエスじゃない、いっそ私の手で殺し、私も死ぬ。と、ここまで行き着く。最後の晩餐でのユダの心の葛藤もみどころ。

    こういうイエスの描き方、いまの時点でキリスト教圏でどれくらい「タブー」度が高いのか低いのかわかりませんが、短いながらも読みごたえがあり、とても面白かったです。

  • 今回この作品を初めて読んだのですが、題名に引っ張られて
    町人が奉行所へ訴え出る話かと勘違いしてました。

    しかし読み進めていくうちに、ヤコブやらペトロやら出てきた時に
    キリストの話だと気づく
    (ここまで約2分)

    そのあとは主人公の独白が続くのだが、
    精神の揺れ幅がものすごくこれをメンヘラと言わずしてなんと言う

    ある時は気分良く相手を称え、
    ある時は落ち込み貶す。

    そんな心の揺れ動きをスピード感を持って書かれている。
    これだけ心が揺れ動けば文章が読みにくくなりそうなのに
    苦痛なく読めるのは太宰の凄いところ




    僕がこれだけ尽くしているのに、
    理解してくれない、愛を返してくれない

    『どうして僕を見てくれないの!!!』と
    ますますのめり込み、さらに深い絶望を・・・


    誰のものにもならないようにと
    裏切りの告白によってわずかな報酬を得る

    それによってキリストも死に、自分も死に
    これであの世で結ばれると思ったのも束の間
    自分の命を投げ打って独占しようとした男は
    今度は世界中の信徒によって愛される存在となってしまった。

    これはユダのキリストへの人類史上最大の片思いの物語である。

  • 談話室で言及されていたので、読んだけれど、これ、短いけどインパクトある。太宰がこんな話を書いていたとは露知らず。イスカリオテのユダの視点からキリストを裏切る話を語っているんだが、これが説得力ある。ユダは心底キリストを愛していたのに、キリストがユダを裏切るように仕向けていた。深いよ、これは。

  • これも一息で書き切ったようなお話。ユダがキリストについて語った話。一息で読みました

  • 太宰がユダに思い馳せる様がなんだか頷ける。
    ユダは人間だ、と言ってるようだ。

  • JCSを見たあとなので、ユダの悲痛な苦しみ、嫉妬、その裏にある愛を文章からひしひしと感じた。感情のジェットコースターのように、自分でも制御できないユダ。そのまま、劇場での姿に重なる。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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