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感想・レビュー・書評
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1938年(昭和13年)発表の岡本かの子さんの短編。
かの子さんは歌人・小説家であり、岡本太郎さんの実母。
有吉佐和子さんの『閉店時間』のなかに、岡本かの子さんの作品への言及があり、久しぶりに手に取りたくなった。
岡本さんの作品を数冊手にしたが、有吉さんが作品のなかで評されるよう、豊かな語彙力を以てして、情景や心情の凛とした描写は時間を超える。有吉さんに通じるものを感じる。
読み進むうちにどんどんと登場人物に近づく感じ。ズームしながら、巻き込まれる不思議な感覚。
本作は老妓(年老いた芸妓)、つまり現役ではない年季ある女性についての1冊。
「芸妓」という職業やそれが意味するものは、現代とは若干相違があることを前提として、彼女がおそらく豊かな出自を持たず、ある時は泥水を啜り、またある時は臍を嚙みながら、呑み込めないものを丸呑みし、年齢を重ねてきたのではと察する。
ただしそこに作者の哀憐や憐憫の眼差しはない。「辛苦」を重ねた老妓がある程度豊かになり、晩年何を手にしようとするのか。
彼女は出入り業者であった電気工事関係の若い男性の才に期待し、生活に関する一切合切の面倒を見ることを選んだ。
何一つ不自由しない日常を約束され、充たされた彼は次第に生気や野望を失い、彼女から離れようと試行錯誤する。
この男性の心情の変化や老妓の心のうちが実に精緻に描かれる。直喩も隠喩も織り交ぜ日本語が美しい。
本文より:
『遠慮のない相手に向かって放つその声には自分が世話をしている青年の手前勝手を詰る(なじる)激しい鋭さが、発声口から聴話器を握っている自分の手に伝わるまで響いたが、彼女の心の中は不安な脅えがやや情緒的に醗酵して寂しさのほろ酔いのようなものになって、精神を活発にしていた。』
老妓が青年に費やす金銭やエネルギーの対価を無為にすることへの怒りや、彼が自分から離れていってしまうのではという不安や恐れが「情緒的発酵」「寂しさのほろ酔い」と表現される。
彼女は充たされぬ自らの想いを誰かに注ぐことで替えようとし、一方で年季の入った人間として若手の有望に慈愛を寄せるという純粋な面も混じり、他者への慈悲と支配が混じり合っていると読んだ。
その想いや善きものか、独善的な悪しきものか。もはや価値判断する必要はないと思う。複層的な「人間観」が面白い。
岡本さん自身が夫と、他の若い男性とも一つ屋根の下で暮らすことを選んだ奔放さを持ったことも作品に投影されているのではと感じた。
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学業やら何やらに集中させるために金をやるというのがうまく行った試しはない、かつてないし、今もないし、これからもない。にも関わらずやっぱりやってしまうのはこの時代に生きる老人が情弱だからか。もしくはそれでも金があるから良いのか。
という実に型通りの生き方しかできないこの男が哀れなり。まぁサボる気持ちは分かるけど。 -
微妙な距離感が面白かった。
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岡本かの子の著作はどれでも背筋を伸ばして生きている感じが好きだ。