猫の事務所 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 月一度の賢治再読。ずーとしばらく、賢治作品の中では見向きもされなかった作品ですが、ますむらひろしがマンガ化したりして、批評する人も多くなってきた作品です。何故注目されたのか。実に上手く「いじめ問題」を扱っているからでしょう。

    青空文庫で、10分少々で読めますので、是非読んでください。猫の事務所とは、軽便鉄道の停車場の近くにある猫の歴史と地理を調べる役所です。4人が定員で欠員が出たので、最難関の1人に就いたのが「かま猫」でした。かま猫は、他の3人からジメジメとしたいじめに遭います。何故かというと、皮膚が弱くて寒さに弱いために、いつも竃(かまど)の中で寝ていて、煤で黒く汚れているからです。「なんでこんなヤツが、我が名誉ある事務所にいるのか」(とはあからさまには書いてはいませんが)三毛猫などの他の所員は、それでも仕事は優秀なかま猫を面と向かって悪く言えないのでいろいろ難癖をつけます。流石に事務長だけは、同じ黒猫のよしみで庇っていたのですが、遂に風邪をひいて1日だけ休んだ時に嘘を吹き込まれて次の日にかま猫が出てきた時にはすっかりいじめに加担してしまいました。遂にかま猫は涙腺が崩壊してしまいます。

    さて、この後、このいじめ問題は、ちょっと斜め上からの出来事が起きて、意外な「解決?」をみます。

    語り手の賢治は、この解決法について「半分同感です」と言って、物語を終わらせるのです。さて、この最後の解決法と賢治のコメントについて、様々な研究と意見が交わされているようです。

    まるで現代のブラック企業のようで、「すわ、その先駆けか!」という評価は当たらなくて、事務長は当初味方だったわけだから、どちらかというと学校カースト制の中での先生の豹変問題と被っているとみる方が正確でしょう。

    今回気がついた点は3つ。
    (1)数少ない、生前発表作品のひとつでした。昭和2年の文芸雑誌「月曜」発表。改めて、賢治作品の普遍性について感心しきりです。
    (2)有名なラストの作者のコメントの前に、実は作者はもう一つコメントしていました。2つのいじめエピソードがあるのですが、最初のそれで、まだ事務長がまともだった時に作者は「みなさんぼくはかま猫に同情します。」と言っているのです。このコメントと「半分同感」とはどう違うのか?多分、ラストの解決法に対する批判だと思います。わたしはこの立場です。他の見方もあります。かま猫は、あの解決を見る前にきちんと対処すべきだった。そのことに対するかま猫への批判だというのです。それは私は違うと思います。
    (3)最後の解決法は、まるで天から降ってきた超常現象のように見えるのですが、賢治は何処からこれを発想したのでしょうか?仏典の中にあったのでしょうか?あまり無いようにも思います。もしかして、現実問題で同じ様なことがあったのでしょうか?賢治はこの年の春に、4年間勤めていた学校の教師を辞めたばかりです。あったとすれば、アレはなんだったんだろう?読み終えたあとにいろいろ話し合いたい作品です。

    • kuma0504さん
      猫丸さん、コメントありがとうございます!
      やはりその可能性は、ありますよね。
      「ぼくは半分同感です」
      という言葉は、猫の王様たるライオンが超...
      猫丸さん、コメントありがとうございます!
      やはりその可能性は、ありますよね。
      「ぼくは半分同感です」
      という言葉は、猫の王様たるライオンが超乱暴に解決法を出すことで、実際には有り得ない解決を提示して、せめて現実で苦しんでいる学生に心の救いをあげたかった、のかもしれません。
      それもこれも、現実に同じようないじめがあったと想定しての話ですが、実際のところは一切わかりません。
      2020/09/21
    • kuma0504さん
      今気がつきましたが、今日は87年前に賢治が亡くなった日でした。こんな日に、賢治が何を思っていたのか、みんなで考えることが出来てよかったです。
      今気がつきましたが、今日は87年前に賢治が亡くなった日でした。こんな日に、賢治が何を思っていたのか、みんなで考えることが出来てよかったです。
      2020/09/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん nejidonさん
      遣り切れない話の中から、何か一筋の光を見付けたいです、、、
      kuma0504さん nejidonさん
      遣り切れない話の中から、何か一筋の光を見付けたいです、、、
      2020/09/22
  • オーディブルで読了
    三上博史の朗読(声が素晴らしい!)で、それぞれの登場人物のキャラクターを見事に演じわけている。
    黒猫の事務長、一番書記の白猫、二番書記の虎猫、三番書記の三毛猫、そして、四番書記のかま猫が働いている、歴史と地理の案内をする事務所でのお話。
    猫が勤めている職場で楽しい話かと思ったら、ブラック企業のような職場で、同僚と上司の陰湿で理不尽な扱いにぞっとする。気遣いをしているのが空回りで却って冷遇され、じりじりと居場所がなくなる様子が読んでいてしんどくなる。泣き寝入りでいいのか。救世主のような獅子の登場で急に幕は閉じる。

    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      ベルガモットさ〜ん、
      こんばんは〜(*^^*)
      この作品、四番書紀のかま猫が、かわいそうでしたね〜(。>ㅿ<。)
      「どんなに辛くても、ぼくは...
      ベルガモットさ〜ん、
      こんばんは〜(*^^*)
      この作品、四番書紀のかま猫が、かわいそうでしたね〜(。>ㅿ<。)
      「どんなに辛くても、ぼくはやめないぞ、きっとこらえるぞ」ってね…!!
      最後の一文。
      賢治の気持ちが半分同感。
      心に刺さりますね…!!!!
      そして、またまた、短歌が
      佳作入選されたのですね〰️♪
      ニ作品とも好きですー私。
      凄いですね、おめでとうございます\(^o^)/
      2023/08/07
    • ☆ベルガモット☆さん
      チーニャさん、コメントありがとうございます!

      こちらの作品も読了されたんですね♪
      「四番書記」という役職もかま猫という名前も気になり...
      チーニャさん、コメントありがとうございます!

      こちらの作品も読了されたんですね♪
      「四番書記」という役職もかま猫という名前も気になりますよ~
      賢治の心の叫びのようで、心に刺さりますよね!!!!

      昭和感満載の私の短歌に好きだなんて嬉しいです(*^-^*)
      新聞歌壇やネット投稿でも落ちたのですが、雑誌で掲載してくださって嬉しくて披露しちゃいました。祝福メッセージまでありがとうございます☆
      2023/08/08
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      ベルガモットさ〜ん、お返事いただいていて、ありがとうございます!
      宮沢賢治、好きなので、
      ベルガモットさんのレビュー読んで嬉しかったですよ〜...
      ベルガモットさ〜ん、お返事いただいていて、ありがとうございます!
      宮沢賢治、好きなので、
      ベルガモットさんのレビュー読んで嬉しかったですよ〜。
      なるほどです。「四番書記」という役職もかま猫という名前も気になりますね…。!!
      銀河鉄道の夜でも、
      細かいところに意味を持たせるような作品になってましたからねぇ…。
      何か意味を持たせているのかもしれません!!ー

      そして、ベルガモットさんの短歌です♡
      今短歌ブームで、激戦となっているのに、次々認められる作品を考えられていて凄いと思います!
      素敵な短歌を読めて嬉しいです♡
      ありがとうございました…☆
      2023/08/09
  • 猫さん達が仕事をしている姿を想像するととても可愛らしいのだけど、読み進めるとそこには人間社会の縮図が描かれていて、なんだか胸がぎゅっと苦しくなってしまう。

    いつの時代にも存在してきたいじめ。
    なんでこの時代になっても無くならないのか。
    このやるせない思いをストレートに描く宮沢賢治。
    沢山の人に繰り返し読んで貰いたい。

  • 可愛らしい話かと思ったらかなりえげつなかった。猫の職場いじめを描いたもの。人間の持つ優越感と劣等感が気持ち悪いほどよく表されていると思う。

    最後の一文は色んな解釈ができると思うが、自分は「こんな職場で仕事しても良いものは出来ないから解散すべきだけど、解散したって表面的解決であって、心の底からの蔑みは無くならないから同じことがまたどこかで繰り返されるんだろうな」というカマ猫の諦めだと感じた。

  • 猫を使い、職場の陰湿なイジメを描いています。それは現代にもはびこる人間が持つ闇の部分です。子供同士のイジメは、大人同士のイジメがなくなって初めてなくなります。賢治もそこを指摘していると思いたいです。獅子が事務所を閉鎖した時のかま猫の一言「ぼくは半分獅子に同感です」は、なかなか意味深で様々なイメージができますが、私は虐めた側の猫達を全否定しない、かま猫の優しい心だと思ってます。

  • 賢治さん何か嫌なことがあったんですか、という気持ち。いじめあるあるだしライオンが出張ってこなければ事態が動かないし、筋は現実を反映していて憂鬱。ただディテイルはかわいらしいのでヒグチユウコ挿し絵で絵本にしたらどうだろう。

  •  宮沢賢治の著作一覧を見ていて、何となく読んでみました。ただ、この後に太宰治の人間失格を読んだので、気持ちをそちらに持っていかれました・・・。
     絵本みたいな物語でした。登場人物が猫のせいでしょうか。これが人間なら絵本としてはNGですね。教訓のようなものが盛り込まれていました。職場いじめの話ですよね。働いているならもういい年齢の猫でしょうに・・・と呆れながら読みました。

     <以下引用>
     こうして事務所は廃止になりました。ぼくは半分ししに同感です。(p.37)

     最後の一文です。あとの半分って何でしょうね。想像力を働かせます。
     かま猫が挽回するチャンスがなくなった?
     そんな理由で事務所を廃止したこと?(かま猫さん、ごめん)
     社員が路頭に迷うこと?
     でもかま猫さん、この後幸せに暮らしていて欲しいなと思います。他の猫さんも。
     違う生き物(猫)同士、合う合わないは「ダメ」と言っても現実としてあるのでしょうね。もちろんいじめた猫達は情けないですが。

  • 作家として名高い宮沢賢治の書いた『猫の事務所』。この作品はすでに様々な方法で世に出ていて、なかでも小中学校の教材や絵本にもなっているため、そちらで目にした方も多いのではないでしょうか。
    この童話は、宮沢賢治らしくはありますが何というか童話らしくはない物語だと感じました。あらすじとしては、とある猫の事務所が舞台です。事務長である黒猫と書記官である白猫・虎猫・三毛猫・かま猫の4匹の計5匹が暮らしていました。かま猫は、生来の皮膚の理由により毎晩竈で寝ているため体は煤や炭で汚れていました。世間一般的にこういう猫は嫌われており、この事務所でも例外ではありません。残りの3匹の書記官からは疎まれ憎まれ不当な扱いを受けます。かま猫が何か言われるたびに事務長は注意していました。しかし、ある日かま猫が風邪を理由に泣く泣く欠勤した日に事件は起きた…といったものです。
    「いじめ」をテーマにしたお話で、読んでいてとても心が痛くなりました。読者の皆さんは、かま猫が竈で寝ている理由を読んでどう思ったでしょうか。「仕方ないのではないか」「かわいそうに」と肯定的な意見の人もいれば「出勤前に身なりを整えればいい」「暖かい場所ならほかにもあるだろう。竈である必要はない。」など批判的な意見を持つ方もいると思います。生まれつきの皮膚の薄さはどうにもなりませんが、理由を周りに説明することや先ほど挙げたように出勤前に煤や炭を落とす・布団や炬燵の中で寝るなど何かしらの努力は出来たのではないだろうかと思ってしまうのです。しかしながら、何か理由があればいじめを行っていいのかといったらそうではありません。同僚である3匹の書記官や事務長の黒猫にだって、何か良いアドバイスを与えてあげることは出来たはずなのです。しかし、なぜそうは出来ないのか。この理由は千差万別でしょうが、被害者側は諦め・知識の無さによるもので加害者側はそこまでの義理はないと考える人や妬み、恐れなどがあるでしょう。差別や偏見は判断を鈍らせ誰かを簡単に貶める怖いものであるのに、そこにあるおかげで誰かの平穏を保ち欲求を叶えているのだと改めて思いました。
    大人になってから読むとほかにも感想であったり、宮沢賢治はこういうことを考えて書いたのかななど考えが変わる面白い作品だと思います。比較的短く簡単に読めるお話なので興味を持ったかたは是非読んでみてください。

  • Kindle無料版にて。
    コレは宮沢賢治らしい作品だなあ。
    オチだけがイマイチだけど。
    コレは猫で書いているからなんともかわいらしいんだけど、人間で書いたら生々しいよね。
    いじめというか身分とか個性とか容姿とか、そのへんでの差別を書いているのかな。
    所長の黒猫も理解のあるいいヤツかと思いきや、結局は上から目線で哀れみからの行動か。
    自分の身を脅かしそうになると手のひらを返したようになる。
    いやあ、よくある話だよなあ。
    そしてかま猫にも実は直すべきところはあるんだよなあ。
    ズッシリと重いです。

  • 生々しい話だった。職場のイジメ。そんなところさっさと辞めちゃいなと言いたいところを獅子が解散させてくれて良かった。竈猫1匹だけ失職するのは悔しいが全員失職したので良かった。

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著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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