高野聖 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 予想外だったりスピーディーな展開の小説は面白い。けれど、たとえそれらを欠いていたとしても、徹底的に選び抜いた美しい言葉と巧みな構造で独自の世界観を築き上げれば人を惹きつけることはできる。
    泉鏡花を読むたびにそれを実感している気がします。

    敦賀に向かう汽車の中で言葉を交わし、同じ宿の同じ部屋に泊まることになった若者と中年の僧侶。眠れない若者は、僧侶に諸国を歩いて体験したおもしろい話を所望する。
    そこで僧侶は、若い時分に飛騨の山越えをした折の不思議な体験を話す…。

    ストーリー自体は正直、読んでいる途中で結末がわかってしまう、日本昔話にあるようなお決まりの怪談というか怪綺談です。

    それなのに、いかにも鏡花らしい、絶妙に配置した言葉によるリズミカルな文章の美しさと、目の前に映像が浮かびあがるようなきめ細やかな情景描写、そして、幻想と現実を絶妙なタイミングで行き来する「語り物」の構造の見事さがあわさって生まれる妖艶な世界観に引きつけられて、グイグイと最後まで読んでしまいました。

    百物語のお決まりの一編を、言葉選びと雰囲気づくりが上手な噺家さんにしてもらえる、ぐらいの気持ちで楽しむといい作品。

  • 初めて読む泉鏡花。何の先入観もなく読み始めた。作者の美しい日本語表現については定評があるようですが、私はどちらかというと独特の言いまわしに慣れずに少々読みにくさを感じた。後に朗読を聴くことで補い、不気味で怪しい世界観を堪能したが、終わり方に若干呆気なさを感じた。

    今読んでいる『須賀敦子が選んだ日本の名作』によると、須賀さんはこの『高野聖』もイタリヤ語訳しているのだが、この本には収録されなかったので別途興味を持って読み始めた。

  • 若狭に帰省する私は、同じ汽車で永平寺に向かう修行僧(宗朝)と敦賀の旅籠に同宿することなりました。その夜寝付かれぬ私は、諸国行脚をしている宋朝に何か面白い話をねだりますと、飛騨の山越えで信州へ向かっていた折の怪奇な体験を語り始めるのでした。歯切れのよい研ぎ澄まされた文体での語り口は、めくるめく幻想の世界へといつしか読む者を惑わしていきます。【泉鏡花】による明治33年の短編小説です。

  • 回想の形で語られる物語は、どこまでも幻想的で非現実的。
    なのに蛇や蛭の気味悪さや女の艶めかしさは妙にリアリティがあって光景が想像できるようで、夢と現実の境界線をぼんやり溶かされていくような感覚を覚えた。
    ただの怪談で終わらない、さすがの名著。

  • 現在は冬、回想は夏。蛇や蛭の描写や女の艶めかしさなど非常に映像的。
    体言止めもリズミカルで独特の雰囲気がいい。
    リアリティラインも絶妙。

  • お嬢さんのパワーが圧倒的で、でもそれにしても坊さまったら思い詰めるのが早すぎでしょう。「女の色香の魔力」の話なんだと思うけど、お嬢さんの境遇が気の毒で。せっかくの特殊能力なんだから使ったらいいよ!って思った。

    蛭のシーンは実に気持ち悪くてよかった。

  • ジャンルは幻想小説だけど、やけに現実的というか表現が物質的で奇妙な感覚になった。とりわけ蛙やら蛭やらヌメリとした両生類の描写がほんとに気持ち悪かった。(褒めてる)主人公もかなり苦手な類らしく、恐怖の追体験もできる。日本の夏の、むせ返るような草いきれを思い起こす表現が良かった。しかし読みづらかった。

  • 日本の幻想文学の先駆けである泉鏡花の作品です。
    作品は、作者の出身地である石川県金沢市の伝説 深山幽谷の「山姫伝説」をベースとしています。
    場面は、主人公が旅僧と同宿する所(夏)と、旅僧の昔話の内容(冬)の2つに分けられます。
    2つの季節の違いを感じられる描写も見どころの一つです。
    昔話はある1日の出来事だとは感じられないくらいの濃度の濃さですが、スピード感も感じられます。
    なので、読み終わった後は実際に自分が走っていたかのような疲労感もあります。
    しかし、何とも言えない「幻想感」、あと少しで「夢オチ」になりそうな結末であるところもこの作品の見どころです。

  • 今でこそ読みたい泉鏡花の名作。グイグイと惹かれるリズミカルな文体、的確な描写力、そして何よりも話の筋が抜群に優れているので、もう面白い。自分の中で鏡花は『外科室』のイメージが強いけれど、『高野聖』も褪せぬ魅力を放っています。最初はただただ恐怖や謎に震えるけれど、ちゃんと後半で説明してくれるから、読んで良かったと最高の読了感が味わえる作品です。キルケーみたいって感想があってなるほどなと思いました。たしかに。
    あと、やっぱり蛭のところは怖い……!!

  • 友達が読んで感想をつぶやいてたので自分も昨日かな?読み返した。大学時代に鏡花が描く怪異と狂気についての講義を受講していて、その先生のおかげで鏡花作品への間口が広がっているのを年を重ねるにつれ感じていて、当時は真面目な学生ではなかったけどこうして過去に触れたものが今生きてるのは何か嬉しい。

    肝心のお話の内容はすっかり忘れていて、蛭が降ってくるあたりでやっとおぼろげに思い出してきた。今回は「キルケーみたい」と言っていた友達の感想を先に見ていたから完全にオデュッセイア(ミリしら)が頭にあって、人知を超えた魔性と、その力で畜生に変ぜられる無力な人間と、っていうのは古今東西面白がられる筋なんだなーと思いながら読み進めた。

    高野聖を読むのはたぶん講義とあわせて三度目くらいだけど、川で身体を清めるシーンには毎回没入してしまって自分で不思議に思う。色も香りも感じられるようで、「結構な薫のする暖い花の中へ柔かに包まれて」の一文がまさにこちらもそれですという感じ。妖しくてでも清潔で、もやがかかってるみたいな。うろいけど例の講義の先生が鏡花作品のお話の展開と序破急の話をされていて、破はゆっくり眠くなるように進む、っておっしゃってたのがまさにこれのことかなあと感じられる。正確なことは覚えてないけど。

    龍潭譚も一緒に講義で扱われていたけどこういう、主人公の何気ない足取りを追ってるうちにじわじわと、気づいたときには読者も怪異に足を突っ込んでるの面白いな。ちょっとずつまた読み返したり新しいのを読みたい。

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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