坊っちゃん [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • これまた、味わい深い作品。さすが読み続けられている古典である。
    主人公に対し、肯定しようが否定しようが自らの価値観が崩れてしまいそうな小説だった。

    読みながら私自身が、否定されているようで、情けない気持ちになった。また、主人公を好意的な目で見守らなければならないという強迫観念のようなものを感じた。
    読者は主人公に対し、寛容であり、理解を示すことが正義であるかのように、仕向けられているところが秀逸だ。

    もちろん主人公は、正義感が強く、自分の気持ちに正直な青年であり、とても魅力がある。そして口が悪い。
    どうも生きづらく、世渡り下手なところがある。
    うらなり君は、主人公とは正反対の性格をしながらも、同じく生きづらさを感じさせるところも深い。

    自分が主人公の立場ならどうか。主人公のような人間が身近にいたらどうか。どのように日々を過ごしているか。

    読了後、主観的に考えてしまう本は怖い。

  • 正直者は馬鹿を見る。それでも変わらず愛してくれる人だっている…。
    物寂しくってじんわり哀しくて、けれど同時に、あたたかで愛おしい気分になった作品。きっと、大切な人との思い出とその死を悼む一途な気持ちに満ち溢れた作品だからなのでしょう。泣いてしまった。

    「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」

    そんな一文で始まる、あまりに一本気が過ぎて長いものに巻かれることが出来ずにすぐ歯向かってしまうので、損ばかりしている世渡りベタな青年が語る、大切な記憶の物語。

    生来の一途だけど粗暴な気質のせいで、両親からも兄からも疎まれて粗略な扱いを受けていたこと。
    まだ未成年の時分に両親ともに他界し、兄から遺産分けだけされて、その後一切会わない天涯孤独ともいえる立場になったこと。
    そんな家族縁の薄い環境の中でも、長年下女として召使っている老婆の清だけが、幼い頃から「坊っちゃん、坊っちゃん」、「あなたは真っ直でよいご気性だ」と異常なまでに親身になって可愛がってくれていたこと。
    物理学校を卒業して後、故郷の東京とも、清とも遠く離れて、愛媛のとある中学校に数学教師として赴任したこと。
    その一途すぎる気性ゆえに、現地で起こる各種いざこざには、うまく対応できずに悪戦苦闘し。
    いい奴もいやな奴もいて、噂がすぐ広まる窮屈な田舎生活の中で何度も思い出すのは、やっぱり優しく嘘のない清のことで。
    そして…。

    いや、もう、あのラスト、本当、泣いてしまう。正直、中盤手前から一種のマザコンっぽい気がして、少しひいてる部分もあったのだけど。それでも、泣いてしまいました。
    一本気な坊っちゃんは、やはり一本気に清への義理を果たしたのです。

    中学か高校かで読んだ教科書には、あのラストは削られて掲載がなかったような。まあ、教科書に載る小説って基本ダイジェスト版だし、10代の若者にあのラストは理解できない、というか、たいてい響かないのでしょうけど。

    そして、愛媛は松山、ひいては角田の温泉(今の道後温泉)の絶妙な使い方よ…。
    最近、いくつか漱石を読んでいるのだけど、どの作品も実在の街の使い方が絶妙なので、本当に旅に出たくなる…新型コロナウイルス対策のため外出自粛中なのが悔しい…。
    東京も熊本も愛媛も…あちこち行きたくてたまらなくなります。

    名作は何度でも読んでみるべし、の一つですね。

  • 登場人物が揃いも揃ってみんな個性的。
    物語としてはありがちな展開だったけど、暮らしから思想までが現代と全然違っていて面白かった。
    幕末から明治維新にかけての歴史に詳しかったら、もっと色んなことが読み取れそう。

    明治時代を垣間見ることができるので、学生時代に読んでおくといいと思う。

  • 人の短所を見付け見縊るのが得意な無鉄砲で正直すぎる坊ちゃんだが、人から嫌われることはなさそう。自分の短所も自認し飾らず嘘つかず偽善を嫌う義理堅い人だから。自分を可愛がった清に愛着する点も真っ当だ。損が多くてもそのままでいてほしい。本には、人としての教師らが描かれている。教鞭を執る姿はほぼない。ずる賢く卑怯、腰巾着、優しく控え目な人など。一面を見て善悪付けたり騙されたり疑ったり…新しい場所での心もとなさを疑似体験した。清がいてよかった。
    小中学生で読みたかったな。教師は聖人君子ではない。全部が正しい人間はいない。

  • 破天荒新卒。

  • 田舎での失敗を描く物語と思って読むと全然違う。知らない土地で知らんやつに認められるより、婆ちゃんに優しくしたいってのが人生だろ!!

  • 親譲りの無鉄砲で…という始まりが印象的なこの物語。愛媛が舞台で、赤シャツという登場人物がいるというところまでは知っていたがこれまで最後まで読んだことがなかった。
    初めて最後まで読んだ。

    東京生まれ東京育ちの主人公が数学教師として愛媛に赴任し、そこで生活をする。
    両親を亡くし、下女の清(きよ)にかわいがられた記憶をずっと大事に持っていていつか一緒に暮らしたいと思っている。

    独り立ちした主人公はもう坊っちゃんではなく自分の考えで突き進んでいたと思う。
    田舎の不便な生活もどうにか熟していた。
    敵も味方もいる。
    どこにでもいるのか狭いコミュニティーには自分の地位を死守しようと他を排除する者がいる。ここでは赤シャツである。
    赤シャツが悪知恵を働かせ、人を利用し自分にとって不利なことや人をことごとく切る。
    いるんよだな、こういう人。
    主人公は冷静に人間関係を見ているようで時々無鉄砲さが出る。
    山嵐との友情、赤シャツをぎゃふんと言わせる行動は面白い。

    愛媛は主人公にとってよい所だったのかは結局分からなかった。
    東京に戻って清と再会、職業は変わったけれど、愛媛で過ごした日々はよくも悪くもいい経験だったのかな。
    そして、清がお墓でまた待っている。
    清に会える日まで、主人公は坊っちゃんから脱却し成長しつづけて行くのだろう。

  • このせせこましい時代に与へる劇薬
     毒芬々たる差別小説だが、名作の域で、こんにちの時代にはとうてい書けまい。数年ぶりに読んで、三読、いやこれで四読かもしらん。とにかく痛快で小気味いい。大いに笑って膝を打った。誰かが勧善懲悪とか言ってゐたが、どこが勧善懲悪なものか。小谷野敦が指摘してゐるやうに、坊っちゃんは公平にばかり気を揉む男だ。町人ではなく、武士譲りの江戸っ子なんだ。国語の教科書で教へられるものか。いつまでも『こゝろ』なんぞばかりやってゐる。学校批判だからなハハハハ。とにかく現代ではこんな小説は出てきやしまい。夏目漱石に乾杯。

  • 『日本語とにらめっこ』のアブディンさんに習って朗読を聞いてみた。アブディンさんは特に夏目漱石の文章に影響を受けたと語っていて、なるほど歯切れよくテンポのいい文章で聞くのにいい。
    名作というイメージよりカジュアルな小説で驚いた。人物の作り方がうまいのかな。江戸っ子の田舎への上から目線はかなりひどいもので文句ばかり言ってる印象もあるのだけど、この単純なほど一本気な若者である坊っちゃんには悪気はないのはよくわかる。アクの強い面々、やり返して終わるストーリー、キヨを大切に支えにするところが庶民にウケたんだろうな。当時の風俗も興味深い。

  • 田舎の嫌さがたくさん詰まってます。。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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