私の個人主義 [Kindle]

著者 :
  • 2012年9月27日発売
4.08
  • (32)
  • (32)
  • (16)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 267
感想 : 34
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (36ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 夏目漱石ってすごい人!

    最初、「講演が延期になったらしいんだけどまたやってくれって言われるだろうと思って怖がっていた」だの、「講演の内容を考えるのが嫌で絵をかいて眺めてた」だの、そんなことばっかり書いてあるから、なにこれお笑いなの、って感じで読み進めていったらば、なんと見事に個人主義の話になるではないですか!

    自分の個性を認めるならば、他人の個性も認めるべき。権力者、お金持ちは義務・責任も果たすべき。国が平和であれば国家国家と騒ぐことはない……等々、夏目漱石の聡明さがわかる本だったな。講演の内容、ほんとに考えてなかったんですかね?だとしたらすごすぎる。

    30過ぎまで自分について悩んでたっていうのは、夏目漱石もそうなんだ…って知ったら元気出た。っていうか私は未だに悩んでますけどね。

  • 漱石が当時の学習院の学生に向けて行った講演会の内容である。

    他人の基準に照らしてやることを決めて、不愉快を感じるくらいならば、個人主義のもとに生きて行くべきである。

    一方で、自分の個性と同様に他者の個性も尊重しなければならず、権力と金力を駆使する際にはこのことに留意する必要がある。というのが漱石の主張である。

    今でこそ同様の主張が各地でなされているが、いまだ貧しく、安全保障上の懸念も大きかった当時には珍しい考えだったのだろう。

    個人主義と国家主義はどちらか二者択一といったものではなく、その間はグラデーションのようになっており、その程度はその時の精神状態や社会情勢に依存する。漱石によると十分な倫理観を持つものは時代の要求に応じてその程度を変えていくのだと言う。なぜなら国家の危機は個人の利益にも大いに関わるからである。その上で漱石曰く、個人主義の方が国家主義よりも徳義的に優れていると。なるほど。勉強になった。

  • 個人主義というもは常に義務心が伴ってしかるべきであるという漱石の主張は的を射ている。同時に、大正時代にすでにこうも明快に主張されていたことが、20世紀終盤および21世紀における自由主義・個人主義的な風潮の中で忘れ去られていることに危機感を覚えた。自己の幸福を追求することはまったく責められたことではないが、それがために他者の人格を損なうようなことをしてはならないという単純明快なロジックが展開されている。個人主義と国家主義が相殺し合うものではないという論も面白かった。

    これは漱石が学習院で行った講演の内容であり、口語を基調にした読みやすい文章だった。それにしてもさすが文豪といったところか、例えは分かりやすく、話の流れも自然だった。

  • 今なおその言葉に力をもつ「自己本位・個人主義」をこの時代から提唱しているということに脱帽。

    他人本位で生きてきたが故にその人生に意味を見出せず、神経衰弱にまでなった夏目漱石が33歳になってようやく辿り着いたのが「自己本位」という概念。

    今でも、インフルエンサーや各種コンテンツで言い尽くされているこの概念に「自由に伴う義務」まで言及し、さらに「権力や金力にはそれにともなう人格」が必要であることにまで言及している。その先見の明は恐ろしさすら感じる。

    毎月のように有名人の不倫問題に炎上するネットニュースやSNSを一目みれば、いかに自己本位の土台である「自分は自分。他人は他人。」という考え方が100年以上経った現代でも使いこなせていないかが一目瞭然。

    夏目漱石が各文学作品で訴えつづけたこの「自己本位」という考え方が、これからもなお訴えつづけなければならない概念である証左である。

  • 第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重じなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。
    これをほかの言葉で言い直すと、いやしくも倫理的に、ある程度の修養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値もなし、権力を使う価値もなし、また金力を使う価値もないという事になるのです。それをもう一遍云い換えると、この三者を自由に享け楽しむためには、その三つのものの背後にあるべき人格の支配を受ける必要が起って来るというのです。もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなたがたが将来において最も接近しやすいものであるから、あなたがたはどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはいけないだろうと思います。

    要するに義務心を持っていない自由は本当の自由ではないと考えます。と云うものは、そうしたわがままな自由はけっして社会に存在し得ないからであります。よし存在してもすぐ他から排斥され踏み潰されるにきまっているからです。私はあなたがたが自由にあらん事を切望するものであります。同時にあなたがたが義務というものを納得せられん事を願ってやまないのであります。こういう意味において、私は個人主義だと公言して憚らないつもりです。

    私のここに述べる個人主義というものは、けっして俗人の考えているように国家に危険を及ぼすものでも何でもないので、他の存在を尊敬すると同時に自分の存在を尊敬するというのが私の解釈なのですから、立派な主義だろうと私は考えているのです。
    もっと解りやすく云えば、党派心がなくって理非がある主義なのです。朋党を結び団隊を作って、権力や金力のために盲動しないという事なのです。それだからその裏面には人に知られない淋しさも潜んでいるのです。すでに党派でない以上、我は我の行くべき道を勝手に行くだけで、そうしてこれと同時に、他人の行くべき道を妨げないのだから、ある時ある場合には人間がばらばらにならなければなりません。そこが淋しいのです。

    個人主義は人を目標として向背を決する前に、まず理非を明らめて、去就を定めるのだから、ある場合にはたった一人ぼっちになって、淋しい心持がするのです。それはそのはずです。槙雑木でも束になっていれば心丈夫ですから。

    個人の幸福の基礎となるべき個人主義は個人の自由がその内容になっているには相違ありませんが、各人の享有するその自由というものは国家の安危に従って、寒暖計のように上ったり下ったりするのです。

    私のいう個人主義のうちには、火事が済んでもまだ火事頭巾が必要だと云って、用もないのに窮屈がる人に対する忠告も含まれていると考えて下さい。

    いったい国家というものが危くなれば誰だって国家の安否を考えないものは一人もない。国が強く戦争の憂が少なく、そうして他から犯される憂がなければないほど、国家的観念は少なくなってしかるべき訳で、その空虚を充たすために個人主義が這入ってくるのは理の当然と申すよりほかに仕方がないのです。

    国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える事です。元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、ごまかしをやる、ペテンにかける、めちゃくちゃなものであります。だから国家を標準とする以上、国家を一団と見る以上、よほど低級な道徳に甘んじて平気でいなければならないのに、個人主義の基礎から考えると、それが大変高くなって来るのですから考えなければなりません。

  • 文庫本を売却した記録を見つけ、kindleで入手。
    ※2021.9.2入手@amazon

  • 自由を享受するためには義務を果たさなければならない。個人主義とは、他人の自由を尊重した上で自分の自由を尊重すること。

  • 夏目漱石ってお話も上手だったんだな
    寄席が大好きだったというのも彼を作っているんだな

    この、本来の個人主義というもの
    私たちが身に付けたいもの

    自分と、他人と共に大切にするという態度はどうやった作られるのだろう

    学歴(学校歴)によるものとは限らない
    学校で学ばなくてもそういうことを身に付けている人はいる

    家族の愛情
    それは大事
    ただ、一般的に不遇であったという人も立派だったりする

    I respect myself and you

    他人の靴を踏まないようにする

    そういう生き方、美しいな

  • 物事の分析力、分解力がすごい。現代でも通ずる問題が提起されていると思う。とても思考の幅が広がる1冊であり、勇気づけられるところもあった。

  • 中学生か、高校生のころに国語の教科書に載っていたのを思い出して、改めて読んでみた。
    学校でやった当時もものすごく感銘を受けたが、やっぱり共感するところが多い。
    あの時から、自分は個人主義で生きていこうと思った。

    かなり昔の演説だが、現代にも十分通じるストーリーなのがすごい。
    自分の意見を持ち、自分が「これだ!」と思うものを突き詰めろっていうメッセージと、他者の自由を奪うな、という主張は本当に本当に共感する。
    最近何かと話題の「差別」とか、「自粛警察」とかも結局はこの「個人主義」的考えが抜けているから起きるんだろうな。
    久しぶりにこの話を全部読めてよかった。
    私はまだまだ自分の道を見つけたとは言い難いけど、夏目さんの言うとおり、もがきながら掘り当てたいと思った。

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

夏目漱石(1867~1916)
小説家、評論家、英文学者、俳人。本名は夏目金之助。明治末期から大正初期にかけて活躍した。近代日本文学の頂点に立つ作家の一人。代表作は『坊っちゃん』『三四郎』『こゝろ』『明暗』など。『吾輩は猫である』は、『ホトトギス』に連載され人気を博した。その批評精神とユーモア感覚は、現代も全く古びていない。

「2021年 『大活字本 吾輩は猫である』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夏目漱石の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×