こころ [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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レビュー : 178
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (378ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 言わずとしれた夏目漱石の最高傑作。
    「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」という三部構成となっており、人間の本質が類稀なる表現力で描写されています。
    以下、簡単なあらすじと感想を述べておきます。
    学生である「私」の尊敬する「先生」にはどこか暗い影があり、私のもとへ突然届く先生からの遺書によりその影の正体が明かされることとなります。
    それは、先生の下宿先のお嬢さんと先生、そして先生の同郷の友人Kとの三面的な痴情関係に起因したものでした。
    下宿先ということで、お嬢さんとKが二人きりになることもあり、その度に先生は穏やかではない感情に苛まれていました。先生は、内心Kに嫉妬していたのでしょう。
    Kからお嬢さんへの想いを打ち明けられた先生ですが、先生は内に秘めたお嬢さんへの想いをKに伝えることはありませんでした。それどころか、真宗寺生まれであり道のためにはすべてを犠牲にすべきとの信条を持つKに対し、「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ。」と言い放ちます。
    これは以前に、Kが先生に対し述べた言葉ですが、先生のKに対するこの発言には表面的意味以上の意味合いが込められていました。
    それは、Kにこれまで積み上げてきた過去を放棄させず今まで通りの途を歩ませようとするもので、お嬢さんへの想いを断ち切らせようと意図したのでした。
    その後、先生はお嬢さんの奥さんへお嬢さんを妻としていただくと直談判し、結果的にKを出し抜くことに成功します。しかし、この期に及んで先生は良心の呵責に苛まれ、Kにこの気持を伝えられない日々が続きます。
    結局先生とお嬢さんとの結婚は奥さんからKへ伝えられますが、Kは先生の予想とは裏腹に以前と異なった様子を見せなかったため、先生はKの「覚悟」に気が付きませんでした。
    奥さんから結婚話を伝えられた2日後、Kは自室で自殺してしまいます。
    先生宛ての手紙が残されていましたが、そこには将来の行先の望みがないから死ぬとだけ記されており、先生への恨み言はありませんでした。
    しかし、手紙にはお嬢さんの名前は記されておらず、Kがあえて回避したことは明白で、先生はこの先一生をかけて友達の命と引換えに妻を手に入れたのだという事実を背負っていかなければならないと感じます。
    これが、先生のもっていた暗い影の正体でした。
    手紙の最期には、手紙に書かれたことは秘密にしておいてほしいと締めくくられています。

    「人間はいざという間際に急に悪人に変わる」
    作中で先生が私に述べた一節ですが、これは過去にKに対してしてしまったことを想いだしてのことだと思います。
    話は少し変わりますが、ある検察官が「私は罪を犯した人に対し尋問をします。しかし、私自身がいつ尋問される側にまわってもおかしくない、といつも思っていました。」と述べていたことを聞いたことがあります。人は身の置かれた環境によっていつ犯罪者になってもおかしくないという意味であると理解していますが、先生の言葉に通ずるものがあると思います。

    数十年語り継がれるまさに名作ですので、全ての年代の方に読んでいただきたい一作です。

    • Macomi55さん
      読書家のペンギンさん、はじめまして。「いいね」有難うございました。「こころ」高校の教科書でお目にかかった時には、私には理解が難しく、以来再読...
      読書家のペンギンさん、はじめまして。「いいね」有難うございました。「こころ」高校の教科書でお目にかかった時には、私には理解が難しく、以来再読する気には全くならなかったのてすが、読書家のペンギンさんのレビューを読んで、もう一度読んでみようという気になりました。ありがとうございました。
      2020/10/31
    • ペンさん
      Mabomi55さん、コメントありがとうございます。長らく通知に気づきませんで、返信が遅れてしまったことお詫び申し上げます。
      ところで、こ...
      Mabomi55さん、コメントありがとうございます。長らく通知に気づきませんで、返信が遅れてしまったことお詫び申し上げます。
      ところで、この度はとても嬉しいコメントありがとうございます。当時は難しかった本書も、当時とは異なった印象を与えてくれることと思います。是非お楽しみくださいませ。
      2020/11/14
  • 前半部分で先生の抱えている秘密がほのめかされ、後半は先生の遺書という形でその秘密が明らかになっていく。

    財産分与で揉めたり、恋に振り回されたり…そういった人間のこころは今も昔も変わらないなと共感しながら読んだ。一方で、先生の「明治の精神に殉死する」という考え方は理解できないものだった。社会の規範や道徳観みたいなものは時代とともに移り変わるもので、その対比が面白いと思った。


    教科書で終わらせるのは勿体ない。
    全体として物語を読んでみると全然印象が変わる本だと思う。

  • これは最初から最後まで男の物語なのだ。
    ホモソーシャルな空間に閉じこもった物語。

    名作であることは間違いないが、私のための物語ではない。
    自分の倫理的負い目に押しつぶされるのはいいけど、目の前にいるお嬢さんを蔑ろにしている矛盾はどう説明するつもりなんだろうね。

  • 夏目漱石のこころは国語で下だけ読んだ。
    精神的向上心のないものは馬鹿だ
    この言葉が印象的。テストで出た気がする(笑)
    正直、先生は自己中だと思うし、人間の内面的弱さを描きたいんだろうが、あまり響かなかった。なんでだろう。自分にもそういう面があることをすでに承知なんだろう。人を傷つけて、罪を背負っても自分はかわいい。世間体も気になれば、妻には良い自分でいたい。罪と自己正当化の葛藤の中で、自殺して罪を償うというより逃げたように思えた。
    また「先生」は唯一、信頼できた「私」に「妻」を任せたかったのではないだろうかという想像も働く。もともと「私」が「妻」に好意を持っていたことも見抜いてて、「私」を試し、任せられるとわかって自殺して遺言を書いたのではないだろうか。
    前半、後半で主人公が変わるも、後半は長い遺書でも自分が「私」になったようか感覚を持たせる文才はさすがではある。

  • 3.8 序盤、なぜか切なくて堪らぬ感覚を覚える文章に大変惹き付けられた。先生の過去が明かされる段になると、彼の苦悩の正体が色恋&自業自得によるものと分かり、その手の話題が苦手な私は少し興醒めした。とはいえ何を得ても生きていかれぬ苦悩の存在が美しい文章で私の心にも流れ込み、過去にない読書体験となった。身内の欺き・Kの死・明治天皇の死を経た先生は、誰にも救えず何を得ても生き続けられぬ人だった。もし存命の先生に会えたら語り手は何と言葉をかけただろう。当時の男女差・天皇の扱いは新鮮。大層生き辛そうなKと先生の心は歯痒い。

  • 高校生の 教科書で 一度読んで 利己心ぐらいしか
    感じなかったと思います。

    このたび 再び読んでみました。

    夏目漱石は 文章が うまいですね。

    高校生の時には そんなこと 全然思いませんでしたが。

    長い間 読み継がれる 理由が ちょっと わかりました。

    「私は わざと それをみんなの目につくように、もとのとおり机の上に置きました。」

    この表現 最高の 利己心ですね。

    高校生の時に 今と同じ 感想を持てたら いやな 大人に なっていたでしょうね。

  • 『こころ』を初めて読んだのは十数年前、高校のときの課題としてだった。こんな話だったかと、いま、思い出した。改めて読んで思ったのは高校生くらいの時分に強制的に読ますのは止めさせたほうがいい。この小説は沢山の駄作良作に触れてこそ真価がわかる。なるべく早く名作に触れさせたいというのは大人のエゴだ。せっかくの作品を嫌いになってしまう。

    『こころ』は淡々と続く独白と終盤の激情、そこに至る登場人物の細やかな挙動と機微を味わう作品といえよう。漱石の文章はしっとりとして柔らかな、いうなればショパンのような文感を持ちつつも、感情を揺さぶる強さを兼ね備える。主人公とともに抱えきれぬ秘密を押し付けられる唐突な終わりの演出と筆力は、エンタメが揃った現代においても決して劣るものではない。とはいえ、そこに至るまでは小説としての古臭さと退屈さに我慢せざるを得ないのも事実だ。そこまでの道は「日本語」という言語の持つ質感を楽しめるかどうかが肝なのである。

    この名作は、たくさんの小説に触れて文章の良し悪しがわかるようになった大人に是非読んでいただきたい。

  • まんがで読破を読んだ後にストーリーの細部が気になって小説で読み直した。

    やはり細かい部分の心理描写、その機微は小説で読まないと伝わらない。

    後半は「先生」の懺悔とも言える手紙が長々と続くが、不思議と「何言ってるんだこいつ」とはならない。このあたりの描写の巧みさが夏目漱石が文豪たる所以か。

    明治末期、1910年ごろが舞台で、女性が家事の一切をするような男性優位な時代の描写をところどころで感じる。

  • これ結末を知らない状態でもう一回読み直してみたいです。何でこんなに死の気配が漂ってるんだろう…あっ、もしかして、って考察が捗ったと思う。それくらい構成が巧み。先生が思わせ振り、焦らし過ぎです。誰かに聞いてほしかったんだね。「私」との出会いは運命みたいです。

    明治の精神に殉死すると妻に冗談を遺していった先生。しかし彼のセンシティブも辛さも、令和の私達にまで影を落としているような気がしてなりません。現代日本人に精神モデルを示した、小説を超えた思想書のようなものだと思います。なんて本を…なんという「遺書」を遺してくれたんだ漱石…いや「先生」。近代人はそれまでの決まりきった人生の営みから離れ、思考や行動の自由を得たけれど(本書は自由恋愛の話でもある)、同時にそれは「孤独」を強く意識させられることでもあったのかなと。影の面も書いています。

    恋とは先生の言うような「罪悪」では決してありません。全ては先生が大切な人たちに開示できなかった「心」の問題なんです。勝手に死んでしまうのはずるい。
    Kが死んだ本当の理由はわかりません。先生が彼を観察して語ったことしか書かれていないからです。けれど先生は手紙で、誠実な心からの偽りのない真実(これは先生から見てですが)を「私」に述べました。先生はついに、Kの死の理由に自分と同じ孤独を見出だしたんですね。おそろいの孤独を。

  • 高校生の頃、ただ利己的だと思っていた「先生」の印象が少し変わった。「お嬢さん」を巡る「先生」の「K」に対する対応には利己的でなんと自己中心的なのだろうと感じた。けれど、人間のこころにはそういう感情が渦巻いている。自尊心や利益や友情や愛情や猜疑心や…。色々な感情の中で「先生」の「K」に対するような葛藤がある。つまり、誰しも「先生」になり得るのだ。「先生」は自尊心が余りにも強すぎたのかな。そして「K」も自尊心やあるべき自分の姿への憧れが強すぎたのだと思う。「K」の死を背負い、他者の評価を気にして自責の念と共に生き続ける「先生」にとって、素直でまっすぐな「私」との出会いは、とても救いになったのじゃないかなと考える。人間のこころの中が丁寧に描かれている作品だと感じた。

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著者プロフィール

夏目漱石(なつめ そうせき)
1867年2月9日 - 1916年12月9日
江戸・牛込馬場下(新宿区)生まれの小説家、評論家。本名は「夏目金之助」(なつめ きんのすけ)。1890年、帝国大学文科大学英文科に入学。1895~96年には『坊っちゃん』の舞台となった松山中学校で教鞭を執る。1900年、イギリスに留学。1905年、『吾輩は猫である』を俳句雑誌「ホトトギス」に連載し始め、作家活動を本格的に開始。1907年、朝日新聞社に入社。以降、朝日新聞紙上に『三四郎』『それから』『こころ』などの代表作を連載。日本の文学史に多大な影響を与えており、作品は多くの人に親しまれている。学校教科書でも多数作品が採用されている。

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