春は馬車に乗って [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 横光利一は26才のとき、高等女学校を卒業したばかりのキミ(18)と結婚しています。妻との結婚を認めてもらうための妻の実家との戦いに4~5年、結婚したら嫁姑バトルに2年、母が物故したら闘病生活が始まり早1年。とあるので、作中の妻はまだ21才です。夭折というにはあまりに早すぎる若さです。季節の移り変わりをダリアで示します。元気になったらお洗濯をしたいといい、あなたに恩返しをしたいと言っていたのに、次の場面では、1分ごとに痰を取り、離れるな優しくしろと言い、次はモルヒネが欲しいと言う。あまりに早い病の進行に胸が痛みます。最後の場面で虫の息の彼女のもとに、春を告げるスイトピーが届きます。「どこから来たの」「この花は馬車に乗って、海の岸を真っ先に春を撒き撒きやって来たのさ」ですって、なんて詩人でしょう!私なら「友だちの山田さんから」とか間抜けな返事を返したでしょうね。

  • 淡々と描かれる介護の日々。死への感情抑制的な態度が切ない。象徴としての花が切なく、また飛び切り美しい。

    時々はっとするような感覚の文がある、詩的な作品でした。
    「晴れ渡った明るい海が、彼の顔の前で死をかくまっている単調な幕のように、だらりとしていた。」

  • 知人の薦めで手に取りました。
    死と隣り合わせた看病の中には、現実、このような日常の悪癖と悲しみとが入り交じります。
    悲しみは想像の通り、そこにある正否の人間味こそ、触れて尚小説の美しさでありましょう。

  • 2024.02.03

  • 美しく終わる文学が好きだ。会話文の多い小説、読みやすい。これは愛の物語だと思う。最後のスイートピーで暖かい春の訪れを感じさせるが、妻の死は春を待ち構えていたかのように全てを包み込んでしまう。この対比が美しく詩的。死によって切り開かれた季節。死と春の親和性、暖かな春の日の中で静かに眠っていくことを予感させる最後の描写。

  • 胸を病んだ(肺結核)奥さんを看病する旦那さんの話。悲しい話なのに文章が綺麗で見入って(魅入って)しまいました。ラストが特に美しい。もっと早く読めばよかった。


  • 病床の妻とその夫。夫は妻を冷静に看病しているように見えるが、やはり人間としての情はあった。
    そして、夫婦の性格はよく似ている。
    きっと、生まれ変わっても2人は夫婦になるのかもしれない。

  • メルヘンなタイトルからはまったく想像出来ない辛い内容。病気の看護の話ですが、まだお二人とも若いんですね。辛くて途中からずっと泣いていましたが、まるで映画のように美しいラストによってカタルシスが訪れます。最期には救いを得たのだと思いたい。

  • 病床の妻の看病をする話。主人公は小説家をしており、看病する妻の小言や我が儘を受け入れて従いつつ、折り合いをつけつつその日を暮らす。生活は割りと普通のようで、特別貧乏しているわけでもないが金持ちというわけでもない、こじんまりとした夫婦。
    特に終わり方が素敵な小説だった。花がどこから来たのかと訪ねる妻に、タイトルにもある通りの「春は馬車に乗って」と答える辺りがとてもロマンチック。途中の妻との通じてるのか通じてないのかよく分からない言葉のチョイスが大変面白く、新感覚派とはよく言ったものだなあと思うなど。後年の芥川賞作品に、とても感覚的で言語明瞭意味不明みたいな作品がぽつぽつとあるが、そのような純文学のルーツはこの辺りの時代から来てるのかもなあと思ったり。
    病床の妻のわがままは、束縛的であるものの、何となく微笑ましい。このような関係は、夫婦愛の一つの完成形であるようにも思う。

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著者プロフィール

よこみつ・りいち
1898〜1947年、小説家。
福島県生まれ。早稲田大学中退。
菊池寛を知り、『文芸春秋』創刊に際し同人となり、
『日輪』『蠅』を発表、新進作家として知られ、
のちに川端康成らと『文芸時代』を創刊。
伝統的私小説とプロレタリア文学に対抗し、
新しい感覚的表現を主張、
〈新感覚派〉の代表的作家として活躍。
昭和22年(1947)歿、49才。
代表作に「日輪」「上海」「機械」「旅愁」など。



「2018年 『セレナード 横光利一 モダニズム幻想集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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