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崖の下に住む金魚家の倅、復一。
復一は崖の上に住む資産家の娘 真佐子になにかと、ちょっかいを出す。
なぜ男の子は好きな女の子をいじめて泣かせてしまうのだろうか。
少女の頃は無口でおとなしい真佐子だったが、成長するにつれ令嬢の風格を漂わせるようになり、いつしか復一に対して上から目線。
「生意気なことを云うようだけど、人間に一ばん自由に美しい生きものが造れるのは金魚じゃなくて」
真佐子は人生の価値に関係して、批評めく精神的言葉を復一に投げ掛ける。
この二人は家柄の違いから、結ばれることなどないと承知の上なのだが、金魚という生き物を通じて恋愛成就に結び付けようとの意志があったのではないかと、私は思う。
真佐子は別の男と結婚し身ごもった時に、自分の子よりも復一の生み出す新種の金魚のほうが楽しみだと期待する。
復一は一時期、関西の水産試験所の研究員となるが、関東大震災を機に東京へ帰郷し、金魚家の主人に落ち着く。
自分のものにできない真佐子に似た撩乱の金魚を、わが池でわが腕で一匹でもいいから創り出して凱歌を奏でたいと...。
一途に女を愛し生涯の事業として耽美に生きる。
実は幸せなんじゃないかな。 -
1937年の小説。
物語の構成はシンプルだ。
金持ちの娘真佐子、金魚屋の息子復一。ふたりは幼馴染であった。最初、復一は真佐子をいじめていたのだが、ある日、ちょっとした復讐をされ、怖れに似た感情を抱くようになる。その後、ふたりは成長し、復一は金魚の研究に没頭するようになる。真佐子は他の男と結婚して子どもを産む。
崖の上に暮らす真佐子と、崖の下で暮らす復一。
復一は真佐子に恋焦がれて、真佐子以上の金魚を開発しようとする。
こじらせた男の変質的な人生を描いた作品、といってしまえばそれまでなのだが、非常に味わい深い作品となっている。 -
たまたまハンドルを握っていた夜、ラジオで始まった朗読が思いのほか心に留まり、珍しいことに青空文庫で読み直してみた。
敢えてそのように描いているのだろうが、不器用そうで、そうでもない。なんとなく分かるような分からないような。そんな復一と真佐子のやり取りであるが、日本語表現がなんとも見事である。
紆余曲折あり美しい金魚を交配することを目指すことになる復一がその努力が水泡に帰すと思しき事態を目の当たりにした刹那、ふと美しい金魚を見出す。
その金魚は何を象徴しているのか。
「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路から、突兀として与えられる人生の不思議さ」 -
「金魚繚乱」金魚が好きで、金魚の小説は「田紳有楽」「蜜のあわれ」等読んで来たが、これはいかにも王道の金魚。短編。Kindleで無料。
金魚の小説は「田紳有楽」「蜜のあわれ」等読んで来たが、タイトルにまんま金魚とあるのに存在を知らなかった。ガビーン。しかも「ん?『かの子繚乱(瀬戸内寂聴)』って昔読んだぞ。つまりこの金魚繚乱と掛けたタイトルだったのか-!」って二度びっくり。 -
文章が美しい。
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「自分の愛人を自分の手で創造する」
愛を通り越した狂気を向けられた真佐子をちょっと羨ましいと思った笑
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岡本太郎のお母さんと知り。
表現がなんとも美しく、すらすらと読めました。歪んだ、けど純粋な愛の形。