破戒 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (229ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 青空文庫で読んだ。旧仮名遣いだったりして視覚的な読みにくさはあるが、文章自体は案外読みやすい。
    主人公丑松くんの心の葛藤がメインの小説ながら、独白がうじうじだらだらじめじめと続く「私小説」的なしめっぽさで嫌になってしまうことはない。山国信州の風景や、諸脇役の人生模様など、主人公以外の事物の描写の挿し込み方がうまいのかな。とはいえ当然それらは主人公の目を通して語られるので、「主人公の心の葛藤」をまわりまわって描いている。丑松くんの気持ちはびんびん伝わってくる。

    被差別部落問題に対する関心が発端で、「そういえば」と思い出してこの本を読んだのだが、「勉強になった」とか「社会に対する鋭い問題提起の意識が云々」とかいうよりは、純粋に文学作品として面白かった。それは良い意味で意外で、読んで良かった。
    丑松くんは小学校教師なのだが、生徒にもよく慕われ友人にも恵まれた好青年で、その優しい人柄がきちんと描かれている。だから読者としては、弱いところもある彼を好きになれて、彼と一緒に悩み苦しむことができて、満足な読書体験ができる。そういう意味で「ふつうの小説」であって、部落差別のことは舞台装置でしかなかった。
    そういうわけでベースに差別問題があるので、部落差別問題を全く知らなかったらいまいち理解できないだろうし、かといってこれを読めば問題の根深さがわかる、というほど知識を供給してくれたり問題意識を喚起してくれたりするわけではない。と思った。

    それだけこの本が書かれた20世紀初頭は、今よりもっと差別が身近な問題だったのだろう。・・・ってじゃあ今は差別はなくなったの??――というお勉強はまた別の機会に。

    • koba-aさん
      「破戒」はあまりに有名で読んでなかったので、レビューありがとう。
      「破戒」はあまりに有名で読んでなかったので、レビューありがとう。
      2013/05/02
    • akikobbさん
      そう言っていただけると、書いて良かったです。私も、文学史の授業で出てきたかなー…くらいの認識だったので、備忘のために。
      そう言っていただけると、書いて良かったです。私も、文学史の授業で出てきたかなー…くらいの認識だったので、備忘のために。
      2013/05/06
  •  明治39年に発表された島崎藤村の長編小説。舞台は長野県の古い町。被差別部落出身である主人公の瀬川丑松は、その出自を決して人に明かしてはならないという父の戒めを守りながら教師として暮らしていた。父の死、同僚や生徒との交流、そして「我は穢多なり」と公言する作家との出会いなどを通じて心は揺れ動く。最終的に彼は自分の秘密を打ち明けて町を去ることになるが、そこに到るまでの長く激しい苦しみと葛藤が描かれる。

     現代においても部落差別が無くなったとは言えないが、公の場であからさまに罵声を浴びせるような人はめったにいないだろう。部落出身であることがわかっただけで職場や住居を追われることもないと思う。少なくとも私は差別が悪であるという教育を受けて育ったので、この小説に登場する人々の差別感情や態度はなかなか実感が沸かない。

     しかし自分が明治時代の旧態依然とした田舎町で育っていたら、どうだったろうか。銀之助やお志保のように、丑松の出自を知っても揺るがない友情や愛情を保つことができただろうか。やはりその時代の一般的な人と同じようにしたのではないだろうか。

     信州の美しくも過酷な自然の描写は、丑松の苦しみと対比するように鮮やかだ。いつかハイキングにでも行ってみたいと思う。丑松を思いながら。

  • 部落差別がテーマの作品である。おそらく、現在の日本人でこの問題に特別な関心を持っている人は少ないだろう。それゆえに、心に響きにくい作品かもしれない。しかし、似たような差別を受けたり、見た経験は誰にでもあるだろう。
    古今東西、どこの国でも、いつの時代でも見られる「差別」という現象。それは、現在の日本で問題となっている「イジメ」とも密接につながっている。人を差別することでしか、自分を肯定できない人間。その醜さと惨めさが、「差別」という行為に端的に現れている。この作品では、差別を受ける側の人間の立場で、その苦しみが描かれている。

    (以下、あらすじに触れています。)
    主人公の瀬川丑松は"穢多"という、社会的には卑しいとされている身分に生まれ、それを隠して、教師として生計を立てている。父親からは、世の中をうまく渡っていくために、出身を隠すように強く「戒め」を受ける。出身を隠していることに苦しみ、悩む主人公の心情が、作品全体にわたって、切々と描かれている。結局、主人公はその戒めを破って、"穢多"の出身であることを生徒や同僚たちに告白することになる。
    その決心をするに当たって、師と仰ぐ猪子蓮太郎の存在とその死が大きく影響している。"穢多"であることを隠さずに、社会の偏見と闘う猪子。それに対して、"穢多"であることを隠して、世の中を渡って行こうとする主人公。しかしながら、主人公が告白を決心した背景には、周囲に噂が広がって、もはやこれ以上隠しきれないとの諦めの念があったことも否定できない。
    主人公は、生徒たちへの告白の中で「私は卑しい穢多のひとりです」と語っている。主人公は、出身によって差別されることを理不尽なものと捉えているのではなく、受け入れざるを得ないものと諦めているのだ。このことは、出身を告白した主人公が、海外に行く決心をすることにも表れている。猪子の遺志を継いで、理不尽な差別と闘うという選択もあったとは思うが、そうはせずに、日本を去って、新たな居場所を見つける決心をする。主人公の瀬川丑松は、猪子蓮太郎のような闘争家ではないのである。

    その当時は、学校の教員でさえも、同僚にそのような身分の出身のものがいることを恥だと考えていたことをこの作品から読み取ることができる。瀬川が辞めないように校長のもとに押しかける生徒たちの方が、人間的に上等なのがなんとも皮肉である。

    主人公の父親は家畜の牛によって殺されるのだが、その牛の屠殺に主人公が立ち会う場面があり、この場面が印象に残っている。これは、牛を主人公に見立てたもので、父親の戒めを破ると社会から放逐され、抹殺されることに喩えているのだろう。

    飯山や根津村の美しい自然描写や当時の生活の様子の描写が味わい深く、文学作品としての高貴さが感じられる作品である。
    ただし、旧字、旧仮名で書かれているので、スラスラとは読むことができず、読むのに相当時間がかかった。

  • なるほどこれは名作だ。読んでおいて良かった。

    自分の出自について思い悩み、父の戒を守るべきなのか、打ち明けていくべきなのか、自分も一緒になって思い悩んだ。漢字はなかなか読みづらいが、読めている部分については美しい日本語がスラスラ頭に入ってきて、なるほど美しい日本語とはこの事を言うのだろうと思った。

    最後、銀之介やお志保が丑松を受け入れ、温かく接してくれて本当に良かった。

  • 明治時代後期、小学校教員瀬川丑松は、父から自分の出生について誰にも話すなと言われていたが、同じ宿命の作家猪子蓮太郎の死に心を動かされついに同僚や教え子達に話す。
    銀之助との友情やお志保への恋慕などもからめて話は展開していく。
    日本社会の暗部を題材にした小説のため昭和40年代までは原書が読めなかったらしい。
    今自分の周りではこの小説の題材になった差別は感じないが、自分の親の世代から話は聞いたことがある。
    一度は読んでみてもいいと思える小説。

  • 大学時代に読んだ本。部落、差別、今の自分にはなじみのないことでの恐怖心。衝撃的だったけど、そう遠くはない昔の日本の話だし、今でも部落は存在するらしい?自分と全く関係がないのだと思ってはいけないのだろうなと思う。

  • 30年来の積ん読を解消。自分がエタと告白するまでの暗い話にも関わらず文体が美しく読ませる。最後にまさかのテキサス逃亡とは。

  • 文章がいちいち美しいので最初はなかなか先に進まず読むのに時間がかかってしまったんですが、中盤からの展開に引き込まれて後半あっというまに読んでしまいました。
    銀之助がどうでるのか最後までハラハラしてたんですが、本当にいい友達だったのでほっとしました。
    また読み返したいと思います。

  • 「橋のない川」の中で度々登場した作品が、この「破戒」でした。
    「橋のない川」はかなりの衝撃で、いつか「破戒」も読んでみたいと思いながらも、島崎藤村作品自体、読んだことがなかったので「難しそう」と敬遠していました。

    が!

    身構えていたよりもずっと読みやすく、そして引きこまれました。
    恥ずかしながら日本の過去に確かにあった差別問題、知識もなく、身近に経験したこともなく(というのはとても望ましい状態なのですが)
    「橋のない川」を読んだ私にも、衝撃的でした。

    被差別階級の人が教師になっているということがバレたら…
    という恐怖におののきながら生きる、というのがどんなに辛かっただろうと
    想像するだに胸が痛みます。

    そしてそんな方々が、ついこの間までたくさん、
    そして今もそのような思いをしておられる方がいらっしゃるのだと
    慄然とする思いです。

    しかしながら、ラストはほのかに希望の光が見えて、さわやかな読後となりました。
    数年後にまた再読したいです。

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