破戒 [Kindle]

著者 :
  • 2012年9月27日発売
4.19
  • (21)
  • (24)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 222
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (356ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 自身の出自を人に明かしてはいけないという戒めを破る、破戒が大きなテーマ。

    新字旧仮名で書かれているので初見は取っつきづらいが、読み進めていると慣れる。とはいえ固有名詞など馴染みが無いものも出てくるので、事前にあらすじを押さえておくと読みやすそう。

    1900年ごろ、明治後期の日本の情勢がおぼろげながら読み取れる。

  • 穢多であるという主人公、追い詰められていく青年の苦しみは計り知れない。
    書き出したらキリがないほど、ちょっとした一文が私の心を射てその痕を残していく。
    形は変われど差別は存在し、この物語に生きる人に現代との違いはなく、古さというものをまったく感じない。時折出てくる、時代を物語るワードにかえって驚くくらいで、それほどまでに普遍的な人間世界を捉え、本質が描かれている。人間が変わらないことの証拠でもあるが、著者の確かな眼と鋭さをこの本に見た。

  • 何の予備知識もなく読みました。
    島崎藤村の本を読んだことがなかったので、なんとなく読みづらそうな印象を持っていましたが、いざ読んでみると、とても読みやすく抵抗なくすらすらと読めました。

    この本で、穢多と呼ばれた人たちの存在を初めて知りました。人種差別の問題は最近も注目のテーマですが、同じようなことが日本人同士の間でもあったのだということを当事者目線で学べたことが良かったと思います。主人公の誠実さに惹かれ、応援するような気持ちで読みました。
    私にとっては、読んでよかったと思える一冊でした。

  • 『破戒』は被差別部落出身の教師、瀬戸川丑松が同じく被差別部落出身の運動家猪子蓮太郎との関係を通じて自我が目覚め、出自を隠せという父の「戒め」を破り新たな人生を目指して再出発をするという小説である。自我に目覚めた者の悲しみという作者の苦悩を主人公に投影し、部落差別という社会的なテーマを追究した日本的自然主義文学の代表作と言われている 。
     出自を隠せという父の「戒め」は、被差別地域出身者が社会で生活していく上での合理的判断としての身体技法である。教員の職についている丑松の出身は外部に漏れておらず、被差別民としての扱いは受けていない。解放令発令後も根深く残る被差別民を取り巻く社会環境と丑松の所属している生活圏は一致しておらず、被差別部落出身という出自から「離脱」または「回避」している状態である。つまり、父の戒めを破るということは出自への再帰を意味し、社会生活上の合理性とそこから享受できると想定される利益を捨ててまで自らのルーツを選択するということになる。
    「肌の色」や「目の色」などの身体的特徴とは異なり、出自はあくまでも「情報」に過ぎず、人間関係の流動化に伴う情報の非対称性が担保された社会では被差別出身者とそうでない者の区別、いわゆる他者化は難しくなる。さらに現代では、本籍地の変更や姓名の変更が法的に認められており、制度上の「離脱可能性」が保障されていると言える。しかしながら、出自からの離脱と出自集団の他者化はトレードオフな関係性にあり、自発的、積極的な差別被害回避策の選択は非被差別地域出身者への同化または出自集団と自己との分離、他者化を自発的に選択することになる。つまり、被差別者が非被差別者への同化と同時に被差別者と自己の他者化を推し進めることによって、被差別部落という概念そのものの消滅または差別構造そのものの解体、脱構築を目指す意図があるのではないか。
    丑松が出自を明かすという選択は、差別による実利的な環境の向上、被害の回避ではなく、本質的な差別構造に対する抗議であると捉えられる。差別の解消とは、他者化された存在である被差別部落出身者が隠す(戒めを守る)ことでよりいっそう積極的同化を構造内部からの同一化、差異の消滅を目指すものではなく、出自の違いという差異によって被害者が生まれてしまうという構造そのものを否定したのだと言えるだろう。

  • 青空文庫で読んだ。旧仮名遣いだったりして視覚的な読みにくさはあるが、文章自体は案外読みやすい。
    主人公丑松くんの心の葛藤がメインの小説ながら、独白がうじうじだらだらじめじめと続く「私小説」的なしめっぽさで嫌になってしまうことはない。山国信州の風景や、諸脇役の人生模様など、主人公以外の事物の描写の挿し込み方がうまいのかな。とはいえ当然それらは主人公の目を通して語られるので、「主人公の心の葛藤」をまわりまわって描いている。丑松くんの気持ちはびんびん伝わってくる。

    被差別部落問題に対する関心が発端で、「そういえば」と思い出してこの本を読んだのだが、「勉強になった」とか「社会に対する鋭い問題提起の意識が云々」とかいうよりは、純粋に文学作品として面白かった。それは良い意味で意外で、読んで良かった。
    丑松くんは小学校教師なのだが、生徒にもよく慕われ友人にも恵まれた好青年で、その優しい人柄がきちんと描かれている。だから読者としては、弱いところもある彼を好きになれて、彼と一緒に悩み苦しむことができて、満足な読書体験ができる。そういう意味で「ふつうの小説」であって、部落差別のことは舞台装置でしかなかった。
    そういうわけでベースに差別問題があるので、部落差別問題を全く知らなかったらいまいち理解できないだろうし、かといってこれを読めば問題の根深さがわかる、というほど知識を供給してくれたり問題意識を喚起してくれたりするわけではない。と思った。

    それだけこの本が書かれた20世紀初頭は、今よりもっと差別が身近な問題だったのだろう。・・・ってじゃあ今は差別はなくなったの??――というお勉強はまた別の機会に。

    • koba-aさん
      「破戒」はあまりに有名で読んでなかったので、レビューありがとう。
      「破戒」はあまりに有名で読んでなかったので、レビューありがとう。
      2013/05/02
    • akikobbさん
      そう言っていただけると、書いて良かったです。私も、文学史の授業で出てきたかなー…くらいの認識だったので、備忘のために。
      そう言っていただけると、書いて良かったです。私も、文学史の授業で出てきたかなー…くらいの認識だったので、備忘のために。
      2013/05/06
  • ジワジワ追ひ詰められていく樣は、「来るぞ来るぞ」のヒッチコック・サスペンスかジェイソン君のやうで迫眞の展開也。
    當時の差別意識の凄まじさが伝はる。(今も問題は解決を得たとは云へないのは承知してゐますが。)
    最後、ハッピーエンドとは云はない迄も 少々出來過ぎの感あり、
    折角なので話としては 絶望的に殘酷な結末で締めてもらひたかつたデス。

  • 以下あらすじ
    時は明治後期。身分制度がなくなっても、差別はなくならない時代に、主人公の瀬川丑松は穢多(えた)という、社会的に卑しいとされている身分に生まれた。丑松は、その身分を隠しながら、長野県の山奥で教師として生計を立てていた。もし丑松が穢多であることを町のみんなに知られてしまったら、教員の資格を失い、さらには町を追い出されてしまうかもしれない。無論、父からは世の中をうまく渡っていくため、その出身を隠すように固く「戒め」を受けた。
    小学校教師として、戒めを守りながら幸せな日々を送っていた丑松は、解放運動家である猪子蓮太郎との出会いで考え方が変わっていく。彼のように身分を明かして社会と戦っていくべきか、父の戒めを守り、隠していくべきなのか葛藤する丑松。だが、父の死をきっかけに丑松は、父からの戒めを破り、穢多の出身であることを受け持ちの生徒や同僚たちに告白することを決意した。
    その後、運よくテキサスの事業に参加することを知人に誘われ、東京へと旅立っていく。
                     
    2022年に俳優の間宮祥太郎さん主演での映画化が発表され、60年ぶりの映像化として、また話題を呼んでいる「破戒」。詩人島崎藤村の初の小説作品であり、代表作である。部落差別という社会問題をテーマに1906年に出版された作品だが、現代にも通ずるものがたくさんある。現代のように露骨な差別こそないが、SNSの普及による自己肯定感の低さやジェンダー問題、人種問題や病気など、様々な問題が存在している。「破戒」はそんな差別問題を理解する上で大いに役立つ作品だといえるだろう。差別と闘おうとする人、差別を利用する人、無自覚に差別をしてしまう人、などいろんな登場人物がいる。少し古い表現であったりしても、根本的な問題は変わらない。差別されてしまう対象になってしまう可能性は誰にでもある。そんな単純なことさえ理解できない人物たちに多少の苛立ちはあるが、とてもよく勉強になる本当に素晴らしい作品だった。
    ただ、慣れない文体で読むのに時間は必要だ。

  • 読み始めは漢字の読みかたに苦労したが、読み進めていくうちに慣れてきた。筑摩現代文学大系の第8巻も併せて読み進めていったが、青空文庫とフリガナの振り方の違う箇所がところどころあった。未読のまま過ごしてきたが、このような内容だったとは。人々の心情と自然の描写にすぐれている。ハッピーエンドとはいかないが、エンディングは希望の持てるものであったのが良かった。

  • この小説を読んで最初に感じたことはどの時代も差別やいじめがなくならないこと。上のものや下のものといった格差を作り出し、差別化することは形は違えどどの時代にもある。この「部落差別」は現代では馴染みが無いが、似たような差別やいじめはたくさんある。それについて改めて感じた。
    部落出身であるがゆえに父からは「隠せ。」と言われ身分を明かさずにいた丑松。小学校教諭となって生きていく一方で、自分の身分に対しての心苦しい思いが巧に描かれていて追い詰められていく丑松がとても良く分かった。丑松が自分の出生を周囲に告白するかどうかで苦悩する様子から「部落差別」について、心情や世間の風を知ることができた。現代では、被差別階級について考える機会がないため、この小説を通して理解することができた。しかし、そんな身分制度に悩む丑松が勇気を出して告白する、それが「破戒」という物語です。今までは父に教えられていた通りに身分を隠し破壊をせず生きてきた丑松が「破戒」をしたことで職を失うなど苦労する一方、胸が軽くなり大切な人の存在に気付くことができた。この小説からはこのような「破戒することで、何かを失う一方、大切なものに気付く」というメッセージが込められているように感じた。また、この小説で大切なのは「破戒」と「破壊」の違いだろう。ここでは物を壊すという意味ではなく、戒めを破るということ。このようなことがあってはならない差別を無くす、無くしていくべきだという強い意味が「破戒」に込められているように感じる。
    正直この本を読むまでは、昔の本であり長い、内容は聞く限りでは重い、というイメージから読むことに気が乗らなかった。だが、一見内容としては差別についてということで重い硬いように思えるが、合間の情景描写の美しさやセリフの言い回しによって非常に読者に分かりやすく伝わりやすいものとなっている。また、読んだことで発見が予想以上に大きく、普段は考えることのない差別について考えることができた。現代では馴染みがなくなっているからこそ、知って考えるべきだと思う。「連華寺では下宿を兼ねた。」という書き出しに一気に惹きつけられた。私は本を読むときに最初の20ページで決めるのだが、この本は書き出しから魅力を感じた。文体が古いこともあり、時折読みづらく伝わりづらい文書が多かった。しかし、普段は読まないジャンルでありとても新鮮だった。ぜひ他の作品や似たテーマについて取り上げている作品にもふれあいたいと思った。

  • 部落差別の問題を扱った、非常に重い作品です。しかし主人公瀬川丑松の人生が開ける内容で、読後感は素晴らしい。お志保とは思いがけない相思相愛!と喜んだのですが、気にかかるのは「それが最後にお志保を見たときの丑松の言葉であつた」のひとくだり。「え?これが最後?一生を共にする間柄になるんでしょ?」と、今も気にかかるのです。でも主題はこれではないので、ひとまず置いておきましょう。

    タイトルにあるように、主人公がいつ戒めを破るかがこの物語の焦点です。私は読みながら様々なパターンを考えました。1物語同様堂々と告白し、選挙戦に出る。2自殺する。3隠し通して悶々とする。もし猪子先生が亡くならなければ、彼は死を選択していたかも、と思うと胸がざわつきます。差別が発生するシチュエーションが、今のコロナ渦と酷似していて、普遍のものなのだなと実感。

    物語のほとんどは丑松の心情であり、読んでいて苦しくなってきます。文豪の描く風景は美しく、細やかな描写が心を潤してくれますが、それが途切れる丑松の苦しみが押し寄せてやりきれなくなります。これから彼がどうなるのだろう、という心配が最後まで引っ張ってくれました。

全21件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

島崎藤村の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
夏目 漱石
三島由紀夫
三浦 しをん
ジョナサン スウ...
太宰 治
堀 辰雄
夢野 久作
夏目 漱石
夏目 漱石
夏目 漱石
梶井 基次郎
ミヒャエル・エン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×