尾崎放哉選句集 [Kindle]

  • 2012年10月1日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 自然や季節時の流れを交えて心情をすっと載せている素敵な句が多く、澄んだ水のよう。
    鳥取県生まれ次男。中学時代より句作が始まったとのこと。
    よき人の机によりて昼ねかな
    欄干に若葉のせまる二階かな
    上京して第一高等学校入学俳句サークル加入、卒後東京帝国大学法学部入学
    鏡屋の鏡に今朝の秋立ちぬ
    夕ぐれや短冊を吹く荻の風
    会社員生活になじめず転職を繰り返して後満州へ 肋膜炎病んで帰国 
    兵庫県須磨寺大師堂堂守 このころから自由律俳句に磨きがかかる
    たった一人になりきつて夕空
    昼寝起きればつかれた物のかげばかり
    父子で住んで言葉少なく朝顔が咲いて
    夕べひよいと出た一本足の雀よ
    空暗く垂れ大きな蟻がたたみをはつてる
    友の夏帽が新らしい海に行かうか
    何か求むる心海へ放つ
    うそをついたやうな昼の月がある
    山に家をくつつけて菊咲かせてる
    こんなよい月を一人で見て寝る
    淋しいぞ一人五本のゆびを開いてみる
    降る雨庭に流をつくり侘び居る
    水たまりが光るひよろりと夕風
    紅葉あかるく手紙よむによし
    師走の夜のつめたい寝床が一つあるきり
    片つ方の耳にないしょ話しに来る
    両手をいれものにして木の実をもらふ
    寺院内の紛争のため福井県小浜町常高寺を経て小豆島へ 酒と作句に明け暮れ41歳没
    淋しいからだから爪がのび出す
    海が少し見える小さい窓一つもつ
    とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた
    山は海の夕陽をうけてかくすところ無し
    あらしがすつかり青空にしてしまつた
    窓あけた笑ひ顔だ

  • 読書会の課題図書。「尾崎放哉を、何でも良いから読む」。
    咳をしても一人
    で、有名な自由律の俳人さん。種田山頭火さんと並んで、五七五や季語に囚われない、短詩人とでもいいますか。
    青空文庫「尾崎放哉選句集」。
    なんとなく時期に分けての人生紹介と、その時期時期ごとの句集になっています。
    一八八五年鳥取県生まれ、一九二六年没。
    つまり、二十歳前後の頃に日露戦争。朝鮮半島、満洲と日本の領土拡大期に生きたんですね。
    上京して第一高等学校、東京帝大進学。つまり、スーパーエリートですね。
    通信社、生命保険、朝鮮の保険会社、と、だらしなかったのか職を転々と転落。
    死の三年前くらいから京都・兵庫・福井県・小豆島と、寺院の寄宿生みたいな放浪生活を送って、病没。
    好きだった句を書きます。
    ●行く春や母が遺愛の筑紫琴
    ●今日一日の終りの鐘をききつつあるく
    ●雪は晴れたるこどもらの声に日が当たる
    ●一日物云わず蝶の影さす
    ●いつまでも忘れられたままで黒いこうもり傘
    ●友の夏帽が新しい海に行こうか
    ●妹と夫婦めく秋草
    ●竹の葉さやさや人恋しくて居る
    ●お盆に載せて椎の実出されふるさと
    ●にくい顔思いだし石ころをける
    ●母の無い児の父であったよ
    ●一本のからかさを貸してしまった
    ●朝早い道のいぬころ
    ●あらしがすっかり青空にしてしまった
    ●恋心四十にして穂茫(ほすすき)
    ●小さい島に住み島の雪
    「咳をしてもひとり」と同系列の、孤独や、今風に言うと「負け組感情」を舐めるような句が多い一方で。
    なんとも気恥ずかしいようなロマンチック?な情熱をまっすぐぶつけるような句。
    そういうのも、コトバの力としてすごいなあ、と愉しみました。
    そして、今の僕がいちばん、「いいなあ」と思ったのは、「夏帽」や「秋草」や「ほすすき」みたいな風情にちょっとした情景や意味合いを足すことで、はっとするような風景が浮かび上がるような句、でした。
    最後の「小さい島に住み島の雪」なんて、季節の写生と言う蕪村子規に連なる方法論にスルリと乗りながら、何と豊かな想像力を掻き立てる言葉ですね。
    うーん。日本語が分かることのシアワセ。

  • 自分を見ているようで、淋しくなります。
    自分同じような感覚を持つ人間が、何十年も前にひとり死んでいったのだと思うと。

  • 「咳をしても一人」に感じる淋しさを詠った俳句だと思っていたが、ちゃんと読んでみてみるとどうも違う側面も含まれているなと感じた。
    病床に伏せ、身体が衰弱して行くに従い、放哉から見える風景は研ぎ澄まれ、削ぎ落とされていき、縛り付けるものは消え失せ、わずらしさも疎ましさも一切合切が過ぎ去って行き、その眼からみた何の変哲もないとって取るに足りない些細な情景だったものが、此方にも風情として想い浮かばされた。
    でも、やっぱり歪曲しているのだろうな。それでも、幾ばくかほどでも受け取れたのではないかと思えるだけでも芳しい。


    抜粋

    障子しめきつて淋しさをみたす

    自らをののしり尽きずあふむけに寝る
    何か求むる心海へ放つ
    大空のました帽子かぶらず

    心をまとめる鉛筆とがらす

    うそをついたやうな昼の月がある
    酔のさめかけの星が出てゐる

    こんなよい月を一人で見て寝る
    淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る

    今日も生きて虫なきしみる倉の白壁

    雀のあたたかさを握るはなしてやる

    師走の夜のつめたい寝床が一つあるきり


    ゆるい鼻緒の下駄で雪道あるきつづける
    ふところの焼芋のあたたかさである
    ひげがのびた顔を火鉢の上にのつける
    にくい顔思ひ出し石ころをける
    底がぬけた柄杓で水を呑まうとした(底がぬけた杓で水を呑もうとした)

    うつろの心に眼が二つあいてゐる
    母の無い児の父であつたよ
    淋しいからだから爪がのび出す
    ころりと横になる今日が終つて居る

    すさまじく蚊がなく夜の痩せたからだが一つ
    とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた

    壁の新聞の女はいつも泣いて居る

    花火があがる空の方が町だよ

    あらしがすつかり青空にしてしまつた
    淋しきままに熱さめて居り
    淋しい寝る本がない
    月夜風ある一人咳して
    お粥煮えてくる音の鍋ぶた(お粥煮えてくる音の鍋ふた)

    せきをしてもひとり(咳をしても一人)
    墓地からもどつて来ても一人
    恋心四十にして穂芒
    なんと丸い月が出たよ窓
    ゆうべ底がぬけた柄杓で朝


    肉がやせて来る太い骨である(肉がやせてくる太い骨である)
    一つの湯呑を置いてむせてゐる
    やせたからだを窓に置き船の汽笛
    すつかり病人になつて柳の糸が吹かれる
    春の山のうしろから烟が出だした

  • 有名な「咳をしても一人」と「墓地から戻ってきても一人」を並べると、一層味わい深いですなー
    それにしても、「白々あけて来る生きていた」が、入っていないのが、残念。。。

  • 「せきをしてもひとり」

    前半の定型句はあまり面白くなく、晩年の自由詩がやはり面白い。尾崎放哉の半生も紹介されているのがありがたい。

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