瓶詰地獄 [Kindle]

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  • 2012年10月1日発売
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  • 瓶詰地獄 夢野久作
     これは、ある島に漂着した3つのボトルメッセージについて書いた短編小説である。無人島に行き着いてしまった兄妹が助けを求めて、3通のメッセージを瓶にいれて海に流す。しかし、書かれて方として、時系列が新しいメッセージからであり、とても奇妙なものとなっている。幼いころに漂流したため、言葉も、漢字もわからない二人が、聖書を通じて難しい言葉や漢字を理解し、手紙を書けるようになるまでの成長を感じ取ることのできる小説でもある。
    一通目の内容は、救助船が来たにも関わらず、身を投げてしまう。なぜ、助けに来たことがわかったのに、心中してしまうのかが疑問である。二通目は、無人島での生活について書かれている。漂着してどのくらいかはわからないが、10年たったようにも感じている。日々、二人きりで過ごしているうちに、男女として意識し始めてしまった。しかし、聖書を読んでいるので、禁断の恋をしていることに罪悪感を覚えていたのではないか。この二通目の文章は、どんどん読み進めたくなるような文で、聖書だけで学んだ文章能力とは思えないような書き方である。三通目は、両親に助けを求めている文章である。カタカナで書かれていることから、漢字がわからない、まだ幼いころに書かれた文章であると考えられる。
    これらのことから、この小説は奇怪で、でも読みやすい文章であった。

  • 久しぶりの夢野久作、地獄シリーズ。どんな地獄か読む前は怖かったが、書簡体小説。とある島にビール瓶3本の中に各1つの手紙が発見される。兄妹が書いた手紙。3つの手紙をまとめると、太郎11歳、アヤ子7歳で島に流れ着く。徐々にアヤ子は大人びてきた。神に誓っても近親相姦はいかん。でもある時に一線を越えてしまう。そこで神に懺悔し、2人で自殺をしようとする。こんな内容かな?と読了。と思いきや、色んな解説本を読み、うへぇ~、そんな解釈できるの?そうか!3つの手紙の順番は誰にもわからない。確かにそう読むと兄やヤバイ奴だ!⑤

  • 短編小説。

    無人島に漂着した兄妹。
    兄の太郎が書いた手紙の内容から考察する物語。
    手紙の時系列に工夫が成された構成のようだ。

    以下、ネタバレ有り。(備忘録)

    食べ物もあり、二人は何とか生きることは出来た。聖書を教科書として学校ごっこをし、妹に読み書きを教えた。

    苦悩の原因は、年月が互いの体を成長させたこと。兄妹とはいえ、変化してゆく体に何か違和感を感じる。手紙にもその様が見てとれる。

    太郎の手紙からは、聖書が大きな影響を与えていることが良く分かる。
    あってはならない間違いに悩んでいる。

    二人は幸せだったようだ。二人だけで生きていくことができれば、の話か。皮肉にも自らの手紙が、対外的な罪の意識を増幅させる原因となったようだ。
    助け舟が来るころには、もう引き返せない罪悪感が彼らを包んでいた。

    手紙が書かれた順序は第三→第二→第一と見るのが一番シンプルか。

    読了。

  • 海難事故に遭った兄妹が南の島に漂着し、苦悩する話。

    漂着した当時は子供だったが、長い月日が経つにつれて二人の肉体が成熟してくる。
    兄は美しく成長している妹の姿に困惑する。
    そんな妹も兄を意識している。

    これが兄妹の関係ではなく、恋人同士ならパラダイスだろうに。

    孤島で生きていくには、動植物たちと同化し、野生化すれば楽なのだろう。

  • 時系列は第三→第二→第一の順だろうか。無人島に漂着した兄妹の苦悩が書かれている。無人島という他に誰もいない特殊な環境ゆえに、こういう事態に陥ってしまったのだろうか。良心の呵責に苛まれる様子は、まさに地獄であった。

  • 作者は夢野久作。この作品は3通の手紙を通して成り立つ3部形式の物語となっている。雑誌「猟奇」〈1928(昭和3)年10月〉で「瓶詰」として初出後、何度か改稿を繰り返した後に現在の題名である「瓶詰地獄」に変更された。
    物語は3通の手紙を通して展開していく。幼い頃に遭難した二人の兄妹が話の主人公として登場し、語りは主に兄の「私」、「市原太郎」である。妹の名前は「アヤコ」。第1通目の手紙では助けに来た船に乗った両親を見ながら身投げすること、それに対する両親への謝罪が綴られている。第2通目の手紙では自分たち兄妹が遭難してからどのように暮らして来たか、成長するにつれお互いを男女として意識せざるを得なくなってしまった事への懺悔が綴られている。第3通目の手紙では自分たち兄妹が遭難した先の島で元気に暮らしている、早く助けに来てほしいとの文面が全文片仮名で綴られている。
    まず3通目は全文が片仮名で書いてある事から、まだ読み書きが拙い頃に書いたものではないかと推察できる。2通目では兄弟が成長し、聖書を通して読み書きも十分にできるようになっている事が伺える。この頃になると2人はお互いを男女として意識し始める。無邪気なアヤコの言動に太郎は苦悩する事となる。1通目の時点で兄妹は既に男女の関係になってしまい、それを苦にして身投げをするに至ったのではないかと考察した。手紙の中で両親がこちらに手を振っている描写が存在しているが遭難から経過した年月や届いていない瓶を見るに、これは兄妹の幻覚であると言えるのではないだろうか。このことから手紙の正しい順番は3通目→2通目→1通目となる。
    以上より、読めば読むほど混乱を極めるのがこの物語のミソであり、読者の分だけ捉え方の変わる作品である「瓶詰地獄」は読みがごたえのある非常に面白い作品と言えるだろう。

  • 漂流した島に二人きりの生活・・・楽園と地獄と聖書と。
    手紙の順序は3→1→2かな。
    3は最初の助けを求めた手紙。
    1は助けが来たときのための遺書。
    2は神様へ心の地獄の苦しみを綴った手紙。

    カタカナの手紙はアヤコが書いたのだろうか?
    「ボクタチ兄ダイハ、」ということは、
    アヤコは太郎の妹ではなく弟なのだろうか?だとしたらさらなる衝撃だ・・・
    謎が残る。

  • 聖書が楽園を地獄に変えた
    みたいな考察を読んでこの作品がより好きになった
    人を導くはずの聖書が2人を追い詰めていくという皮肉がお洒落だと思った

  • いたたまれない!!辛い!!辛すぎる!!なんでこんな話書くんだ!!

    …と頭の悪い私は思ったが、様々な解釈を読んでみると、矛盾点が多数あるようで。

    というわけでこの瓶の手紙は、誰かの創作物だと思うことにした。そうすれば辛くない。いたたまれない気持ちにならなくて済む。

    きっと敢えて矛盾点を作ってるんだろうね。作者の思う壺だな。

  • 読了後になぜか鳥肌がたちました。閉鎖された空間で時間を共にしていくうちに、兄妹という関係が壊れていきそうな予感を感じつつも、必死にそれに逆らおうともがき苦しんでいる様が、とても短い文章の中に書き表されていました。自分の欲望が罪深いと分かっていながら、自殺してしまえば妹が悲しむと分かっているため、どうすればいいのかわからないという板挟み状態に苦しんでいる様子が、彼の言動から伝わりました。さに題名のとおり「瓶詰地獄」だと思いました。彼らはお互いを想うあまりにこのような苦しみにあいましたが、一緒に自害を選んだというには、彼らにとっては一番幸せな選択だったのではないかと思いました。しかしもっと他に選択肢はなかったのだろうか、と同時に思いました。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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