白昼の死角 (光文社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • おもしろかった! 金融の知識がないので約束手形の仕組みとそのトリックなどはよくわからなかったが 人間の業のようなものをえぐるような展開にぐいぐいと惹きつけられた ラストに近づくに連れて福永検事と綾子の存在感が増してきて息詰まるようなやり取りにうならされた これは映画も観たいぞ

  • 著者の高木彬光は推理作家ですが、この本は推理小説ではありません。
    戦後の混乱期を舞台に天才的な頭脳と豪胆さで次々に犯行を繰り返しながらも司直の手から逃れる元東大生の詐欺師の半生を描いた作品です。
    天才詐欺師鶴岡と名検事福永との間で繰り広げられる丁々発止のやり取りが見ものです。
    20代半ば、まだ新入社員だった頃に取り憑かれたように何度も読んでいました。あの頃はなぜこの本に夢中になっていたのか、もしかすると年功序列の組織で生きる息苦しさから逃れたかったのかもしれません。

  • 主に戦後を舞台に光クラブ事件とその後を描いた作品(その後がメイン)。光クラブ事件まではほぼ事実に基づいているが、その先はフィクションなのかノンフィクションなのかよく分からなくてそれがまた面白い。
    隅田亡き後に鶴岡が図らずも隅田のようになっていくのが怖くも面白かった。
    巧妙な犯罪の手口に感心した。手形詐欺について理解が深まった。

  • 読了

  • こんなこともあるのかと思った。作り込まれていて、面白かった。読む分には面白いのだろうが、模範にしてはいけないだろうね。

  • ノンシリーズ、ピカレスクロマンの古典的傑作▲「天才的知能犯」完全犯罪を繰り返し、警察の追及をかわしきった「神の如き犯罪者」視点の悪党小説▼大戦後混乱期の金融事情を背景としたコンゲーム。情報が行き渡らず、手口もさすがに時代的ではあるが、ドキュメンタリー的な要素も楽しめて、グイグイと読ませる。本人たちはヒットラーやムッソリーニを例えに使うが、スターリンや毛沢東はまだ現役で、といった時代。天才とは言われながらも人間的で、周囲の人々もあまりに人間的で。香具師、暴力団、警察、検事とパクリ詐欺師の頭脳戦(1960年)

  • 「そうでしょうか。もちろん、推理小説としての評価は私にはわかりません。ただあの小説の中に出てくるパクリ詐欺は、私に言わせれば、児戯に類するものですよ」 「なんですって!」  私も今度は完全に打ちのめされたような思いがした。 「私が犯罪者だというのはそういう意味です。私は自分の精魂を傾けて、この十年、法律の盲点だけを研究してきたのです。いや、理論の研究だけではなく実行もしました。その中にはわずか半日で、資本金何億の上場会社を作りあげて、たちまち消滅させた事件もあります。一国の公使館を舞台にして、公使から門番まで全部の館員を半年近くだましつづけた事件もあります。先生はその話をお聞きになりたいとお考えですか?」 「うかがいたいものです。よろしかったら」  私はめったにない興奮を感じていた。  職業作家になってから、私は数えきれないほど、材料を売りこまれた。しかしその大半は、九割までは、どうにもならないものだった。  本人には、稀有の体験だと思われてもそれが作家の眼から見て興奮を感ずることは珍しい。まして、恋愛小説の題材ならばともかく、推理小説の題材となるような事件は、まず一つもないといってよかった。  彼はそのとき、その会社消滅事件と公使館事件との概略を私に話してくれたが、その物語には私も腹の底から驚嘆した。  驚くべき犯罪者には違いないが、犯罪もこれほどあざやかに、天才的になってくると、ふしぎなことには、人間を憎む気持ちがうすくなってくる。  それはたとえば、河内山宗春とか、アルセーヌ・ルパンとか、そういう作り出された悪人に、われわれが一種の魅力を感じるのと似たような心境かもしれなかった。 「先生、ある時期になったら、この話は全部そのまま発表なさっても差し支えありませんよ。ただ、関係者の名前だけを仮名にしてくだされば――いまの二つの事件だけではなく、私の関係した全部の事件をお書きになってもかまいません」  この言葉は、いよいよ私をおどろかせた。  たとえ、彼がこうして打明け話をしてくれたといっても、私はそれをそのまま発表できるとは思っていなかったのだ。かりに相手が悪人としても、男と男の話として、秘密を打ち明けてもらったのだから、せめて形をかえた部分的な素材として、何かの作品に織りこめたら、それで上々と思っていただけなのである。 「それで、あなたにご迷惑はかからないのですか?」 「正直なところ、私は自分でも、いままでやってきたことが、このごろいやになっているのですよ。懺悔話というわけではなくても、人間というものは、自分が新しい道にはいろうとしているときには、それまで犯してきた罪をいっさい誰かにぶちまけてしまいたいような、そんな心境になるものですね。先生と、こうしてここでお会いしたのも、これも何かのご縁でしょうから」  彼の声はふしぎなくらい澄んでいた。  その翌日から四日の間、私はほかの仕事を全部投げ出して、彼の物語をくわしくノートしていった。  のべ五十時間近く、大学ノート二冊をすっかり書きつぶして、それでほとんど疲れを感じなかったのだから、私もよほど興奮したのだろう。  だが、そうした仕事をつづけている間に、私の心の中には、一種の迷いとためらいが生まれていた。  この物語は恐るべき背徳の書となる危険がある。完全犯罪の教科書として悪用される恐れがある。何か犯罪がおこると、世間ではよく推理小説の影響で――と非難するが、そういうことになったら、どうしようという心配だった。  鶴岡七郎は、それから三日ほどして山を下った。そのとき、宿の前で車を見送りながら、私は心の中で、彼がこれからこの恐るべき天才をほかの方向にむけて、正しい道で成功してくれるように祈らないではおられなかった。

  • 人から進められて購入しました。金融業界での犯罪小説です。

    知恵とトリック、以上に生き様を示すものでした。共感してもしなくても、こういう人もいるんだと。そして大切なのはやっぱり人。ちゃんと考えて生きましょうね。

  • - 天才詐欺師の手形割引。法・心理の盲点をつく巧みさ。
    - 長い本だが読ませる面白さがある。

  • 戦後間もない経済界を揺るがすような犯罪を犯した男のお話。最後まで彼がどどうなるか分からずハラハラして面白かった。金融関係の話はほとんど分からなかったものの、鶴岡七郎という天才的な頭脳の持ち主が、最後の最後まで逃げ切ったのは凄いと思った。

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著者プロフィール

1920年9月25日、青森県生まれ。本名・誠一。京都帝国大学工学部冶金科卒業。48年、失業中に書いた「刺青殺人事件」が江戸川乱歩の推薦で出版され作家デビューし、「能面殺人事件」(49-50)で第3回探偵作家クラブ賞長編賞
を受賞する。79年に脳梗塞で倒れるが過酷なリハビリ生活を経て再起、「仮面よ、さらば」(88)や「神津恭介への挑戦」(91)などの長編を発表。作家生活の総決算として「最後の神津恭介」を構想していたが、執筆途中の1995年9月9日に入院先の病院で死去。

「2020年 『帽子蒐集狂事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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