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感想・レビュー・書評
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(1)
本書の主要テーマは、サブタイトルにもあるように、「中国の大国化」と「米国の戦略転換」である。
それを踏まえ、今後の日本がとるべき戦略について書かれた本である。
明治維新から現在まで、西欧列強による植民地化やその後の動乱、共産主義革命や文化大革命などさまざまな要因によって、百五十年のあいだ日本の後塵を拝してきた中国が、近い将来、経済的・軍事的に世界のナンバーワンになるだろうという、日本人にとってはじつに「不愉快な現実」、そうした中国の台頭に対し、戦後日本の強力な後ろ盾であった米国が、意外なことに敵対するのではなく逆に手を結ぼうとしている、少なくとも日本よりもかの国を重視しようとしているという、もうひとつの「不愉快な現実」、こういう現実をわれわれは直視し、これまでのようにすべてを米国に委ねるのではなく、独自の国家戦略で進むべきであると説いている。
経済・軍事面で中国が米国を抜いてナンバーワンになるという説明は、ホントかなという気がするが、今後さらに強大化するのは間違いないだろう。そのうちバルブがはじけるさ、という人もいるが、かりにそうなったとしても、今後経済力・軍事力がゆっくりとではあれ上がっていくことはあっても、下がるとは考えにくい。
(ところで2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博後には中国バブルがはじけると言っていた人はいまどうしているのだろう)
米国のニュースを見たり聴いたりしている限りでは、かれらの主要な関心事が中国と中東にあるのは明らかだ。英国のBBCでも、米国やEUのニュースを除けば、取り上げるのはきまって中国と中東だ。
クロスロード・アジアはVOA(ヴォイス・オブ・アメリカ)という米国国営放送の番組で、毎日アジアのニュースを英語で放送しているが、中心は中国、続いてインド、韓国といった具合で、日本はほとんど取り上げられない(もちろん東日本大震災のときは連日トップニュースだった。最近では、年末の衆院選で自民党が勝利したときと、安部内閣が発足したときぐらい……安部総理の訪米がどう報じられたかは、ここ一月聴いていないので分からないが)。
取り上げられる場合でも、中国から見た日本といったスタンスで語られることが多い感じだ。
中国の強大化と、米国が必ずしも日本が期待するとおりには動かないだろうという現実を踏まえて、日本独自の道を探るべきであるという著者の主張は、しごくまっとうに思える。
ただ、賛同する人ばかりでないようだ。著者の姿勢が強硬な反米主義に映るところからも来ているのだろう。
しかし国家というものは、それぞれ自国の利益を最優先し、それを最大化するために行動するものだ。
この自明の原理に則って考えれば、米国の利益と日本の利益が相反することは当然起こりうる。
そしてそのとき、米国の方針と一線を画さざるを得ない事態も当然生じてくる。
(2)
米国と中国という強大な二国間で、日本がいずれにも従属することなく存続し、独自の繁栄を達成しようとすれば、考えられる選択肢は二つしかないと思う。
一つは米国・中国以上の経済的・軍事的大国になること、すくなくとも両国に匹敵する強国となること、それが非現実的な夢だとすれば、二つめは、米中と適切な距離をとりながら、相応の国際的実力と発言力を持つ先進国グループの一員としての地位を保持することである。
(米中との適切な距離といっても、日本は英・仏・独と同じく米国側に立つことは明らかだが、かといって米国追従ではなく、これら欧州の国々と同様、独自の判断で国の進路を決めていく)
そしてその実現のためには、EUやロシア、他のアジア諸国と戦略的な連携を深めていく必要がある。
反米や親中といったレッテルを貼っておけばすむといった単純な話ではなく、対立・競合するさまざまな国々(その中には当然米国も含まれる)の中で、自国の利益を追求していくという外交上の戦いを、おおむね正当な手段をもって、冷徹に勝ち抜いていく必要がある。
要するに、日本は日本の国の利益を最優先して動くべきであるというごく当たり前の話である。
本書の趣旨はそこにあると思う。
ただそれは、アメリカという腕力の強い国の庇護のもとでこれからも安楽に暮らし続けることができると思っている人々や、現実にそれでなにがしかの便益を得ている人々からの強い反発を招くのは避けがたい。
引きこもっていた方が、嫌な隣人と真正面からつきあわずに済むし、金もかからない。
いや、言われるままに金を払っておけば、厳しい決断を迫られずにすむかもしれない。
たしかにそれは楽かもしれない。ただ米国の方では、いつのまにか、粗野で化粧気もないくせに、最近妙に厚かましくなってきた金満の中年女に目移りしているようだが。
国家間の競争を勝ち抜くためには、冷静な現状分析と周到な戦略と合理的で迅速な意志決定と、その決定を着実に遂行できる能力が必要だが、著者の将来展望は悲観的である。
知的な真面目さよりも熱に浮かされた大言壮語が幅をきかせはじめた昨今の情勢を見れば、その見通しもむべなるかなである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
外務省時代に、英国、米国、ソ連、イラク、カナダ勤務を経て、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学教授を歴任した、孫崎 享氏の著書。
日本と米国、中国、ソ連、北朝鮮、ASEANとの関係および、それぞれの現状と未来を、分析し日本の目指す方向を提案している。
韓国との竹島、中国との尖閣問題以来、WEB上にはさまざまな情報があふれている。
そのほとんどが日本の正当性を訴えている内容、一部に韓国側、中国側の言い分を書いているサイトもあるが少数派である。
両方の言い分を正しく知ったうえで、この問題を考えたいと思っていた時、この本に出会った。
そして良い悪いは別として、双方の言い分を知る事が出来た。さらに日本を取り囲む世界情勢について述べている。その内容は、まさにこの本の題名通り「不都合な現実」であることを実感した。
特に、これからの中国は米国を追い抜き世界一のGDPなり、軍事力も米国と肩を並べる強国となること。
その時には、米国は日本のために中国と戦う事は無いということ。
そして日本の進む道について。
どれも、真実味のある内容で、真剣に外交戦略を考える時期になったと思えた。