故郷 [Kindle]

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  • 2012年10月4日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 仙台を旅した時、博物館の庭に魯迅(1881-1936)の胸像を見かけたことがある。
    関係性が分からず「?」と思い、帰宅して調べたら「仙台医学専門学校(現東北大学)」に1904年に留学していたという。
    生誕120年を記念して、2001年に魯迅の生誕地・江南省紹興市から寄贈されたらしい。
    医学を目指したはずの留学は、文学への道を進むことを決心させる。
    発端はその当時の祖国の危機的状況を憂い、文学によって民族の魂を救うのが急務と志を転換したことだという。

    そんな魯迅の「故郷」だが、今は全ての教科書会社が中3の国語に採用しているらしい。
    コロナ禍で登校もままならなかった生徒たちが、秋にはこの課題に取り組むことを思うと何とも複雑な気持ちになる。
    身分の差や貧富をとりあげた内容が、どれほど今の子どもたちに理解されるだろう。
    まして中3の2学期。内申が受験に響く。
    まぁ中学生がこのレビューを見ることなど金輪際ないだろうが、どうか二度、三度とじっくり読み込んでほしい。
    辛くて悲惨なだけではない。
    描写の変化から、微かな希望のあるラストを読み取れることと思う。
    その希望に託した部分が魯迅の願いであり、教科書に載せた意味なのだから。

    だいぶ前の話になるが、入院した友人を見舞ったときに「何か本を読んで」と言われ、たまたま鞄の中に入っていた魯迅の本から、この短編を読んだことがある。
    竹馬の友との再会の場面で「ああ、何だか切ないね・・」と友人が言い、こちらも一緒になって深々と嘆息した記憶がある。
    またそれ読んでねと頼まれ、行くたびに同じ話を読むことになった。
    とうとう退院するまでには暗唱できるほどになってしまい、年に数回会って旧交を温めるたびに、その話をしては笑い合っている。

    「故郷」の中には、貧しさによって心が荒廃してしまったひとも登場する。
    貧しても鈍しないためには何が必要か、そんなことを考えてみるのも良いかもしれない。
    「もともと地上に道はない。歩く人が多くなればそれが道になる」という言葉で締めくくられる名作だが、新しい道を歩き続けたい、それも出来るだけ多くの人とね。

    • nejidonさん
      淳水堂さん、再訪してくださってありがとうございます!
      いやいや、陰陽五行くらいは知っていないと困ることだらけです・笑
      統計学の勉強にもな...
      淳水堂さん、再訪してくださってありがとうございます!
      いやいや、陰陽五行くらいは知っていないと困ることだらけです・笑
      統計学の勉強にもなりますし。
      前回のコメントの後で思い出しましたが、木克土でしたよ、確か。「金」ではありません。
      土性を知らずに傷つけてしまう相性なので、それだけ気を付けています。傷つけられる相手はとことん避ければよいだけなので。
      「水」とは良い相性でした、はい!(^^)!
      とまぁ、それくらいにして。

      教科書作品の再読は本当に面白いですよね。
      再発見の方が多くて、もはや学びなおしとは言えないほどです。
      光村ライブラリーのみでなく「教科書に載った小説」という本まで買いましたもの!
      2020/06/28
    • nejidonさん
      夜型さん、こんにちは(^^♪ お久しぶりです。
      このレビューにコメントをいただけてとっても嬉しいです!!
      登録は2013年(友人が退院し...
      夜型さん、こんにちは(^^♪ お久しぶりです。
      このレビューにコメントをいただけてとっても嬉しいです!!
      登録は2013年(友人が退院した頃)ですが、ふと思い立ってレビューも載せました。
      載せてみて良かったです。
      やはり中学国語で学ばれましたか?
      没後に中国共産党に作品が利用された感はありますが、魯迅は優れた作家さんだったと思います。
      中学生の教材としては難易度が高そうですが、高いがゆえに良いのです。
      それが分かるには時間を要しますが、分かったときの喜びを思えば、どうってことありません。
      そうそう、「書癡」ですよね・笑 ちょっと懐かしいです。
      2020/06/28
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      岩波の「図書」2021年6月号に、三宝政美が『魯迅の「不安」 (上)』を書いていて、ちょっとウルウルしています、、、
      ...
      nejidonさん
      岩波の「図書」2021年6月号に、三宝政美が『魯迅の「不安」 (上)』を書いていて、ちょっとウルウルしています、、、

      https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b584058.html
      2021/06/05
  •  中3生の国語教科書5社全てに採用されているそうで、さすがのことで、
    図書館に通うことなく、お金をかけず、五氏による翻訳を比較することができた。
     岩波文庫版の訳者でもある竹内好氏(1977年没)のものは、遺族の了解の元、全文がネットで公開されていた。おそらく、教科書で採用されているのも、竹内訳と思われる。
     また、指導法~授業中の発問の仕方やその答え、模擬試験とその解答など、「教科書的な読み方」の資料にも事欠かない。

     余は、ネットで見つけた竹内訳と、光文社古典文庫の藤井省三訳を全文読んでみた。実は、KindleUnlimitedに光文社古典文庫があったので、青空文庫の井上紅梅訳は余り読んでいない。
     書き出し部分と以下の箇所(竹内訳)について、少々解釈等に疑問を感じたので、五氏の翻訳に全て目を通してみた。

    ”わたしも横になって、船の底に水のぶつかる音を聞きながら、今、自分は、自分の道を歩いているとわかった。思えばわたしと閏土との距離は全く遠くなったが、若い世代は今でも心が通い合い、現に宏児は水生のことを慕っている。せめて彼らだけは、わたしと違って、互いに隔絶することのないように……とはいっても、彼らが一つ心でいたいがために、わたしのように、無駄の積み重ねで魂をすり減らす生活をともにすることは願わない。また閏土のように、打ちひしがれて心がまひする生活をともにすることも願わない。また他の人のように、やけを起こして野放図に走る生活をともにすることも願わない。希望をいえば、彼らは新しい生活をもたなくてはならない。わたしたちの経験しなかった新しい生活を。
     希望という考えが浮かんだので、わたしはどきっとした。たしか閏土が香炉と燭台を所望した時、わたしはあい変わらずの偶像崇拝だな、いつになったら忘れるつもりかと、心ひそかに彼のことを笑ったものだが、今わたしのいう希望も、やはり手製の偶像にすぎぬのではないか。ただ彼の望むものはすぐ手に入り、わたしの望むものは手に入りにくいだけだ。
     まどろみかけたわたしの目に、海辺の広い緑の砂地が浮かんでくる。その上の紺碧の空には、金色の丸い月がかかっている。思うに希望とは、もともとあるものとも言えぬし、ないものとも言えない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。”


     訳文を比較して分かったこと。
     訳者によって文体だけでなく、ニュアンスが随分異なるということ。
     興味とヒマのある方は試してみてクダサイ。
    (必ずしも竹内氏が名訳とは思わないし、光文社古典文庫の信者でもありません。)
    「出来るだけ、原書を読むのが良い。」と云われる意味が、ひしと理解できた。
     
     教科指導では、本作で偶像崇拝とは、他力本願あるいは「人任せ」の象徴とされていた。「ホンマかな~?」と思ったが。

    説教臭い解釈をするなら、最後の一文は、
    「若者よ、希望を持って、道を開く一歩を刻む勇気を奮い立たせよ。」といったところだろうか、のう。

    当時の中国社会の「身分の差」〜貧富の差に加えて〜、混乱期にあったこと等を踏まえないと、本作は理解しにくいだろうな。

    タイトルからの印象だけでは、故郷への郷愁がテーマだと勘違いしがちな気がする。
    今の中学生は、みなスマホの1つ位は持ってるはずで、知恵の回るヤツには、情報が筒抜けになるハズ。
    その程度の小賢しさがなければ、到底「道を築く」のは難しからう。


  • Amazonで無料で読めた。
    中学以来で懐かしかった。

    当時「なんだこの話」という印象を持ったが、今になっても変わらず笑
    読了後、あらすじの背景を調べてみた。本作が書かれたのは辛亥革命や第一次世界大戦、五四運動あたりの時で、国民は生活が不安定な中でも希望を持ち歩んでいかなければならなかった。それを上手く作品に投影しているらしい。
    それを読んでもなお、なんともいえないけど笑

    中学で学んだ時は、時代背景などの説明がなかったような気がする。それがあってもなお難しすぎん?

  • この作品の本当の良さって中高生が読んでもなかなか理解できないと思うけど、中高生のときに出会ってないと生涯出会うことはまずないと思うので中高生のときに読んでおいてよかった。
    大人になってから読むとめちゃくちゃ切なくなる。

    コンイーチーも阿Q正伝も読みやすくておもしろかった。
    どの作品もいちいちくせの強い人物が出てきて面白い。身の回りにいてほしくない人ばっかりである。

  • 中学の教科書で読んだはずだけど、内容覚えてなかった。
    先生が歳取らないと理解出来ないみたいこと言ってた記憶がある。

  • 電車で読むもんでもないけど、最後の一文が好きだなあ。

  • 懐かしい。

  • 読書メーターでレビューを見て興味を持った本(青空文庫)。数ページの短編だが期待通りの内容。

  • トイアンナのぐだぐだ |【保存版】数千冊は読書した私が勧める、あなたの人生を変えるかもしれない30冊 つながり。移住のため、実家を片付けに久々に帰郷した主人公。大金持ちになったわけではないけど、大金持ちになったと周囲に思われ、貧すれば鈍するを地でいく卑しさを剥き出しでぶつけられ憔悴し、共に語り合った親しい友人には、旦那様と呼ばれ敬語を使われ、その苦労の刻まれた相貌に言葉を失う。「凡ての苦しみは彼をして一つの木偶とならしめた」「希望は本来有というものでもなく、無というものでもない。これこそ地上の道のように、初めから道があるのではないが、歩く人が多くなると初めて道が出来る」

  • 魯迅の短編をKindleにて。

    久しぶりに訪れた故郷。それは母とともに、この地を去るためだった。知人、旧友との再会も、懐かしくはあるものの、時の流れと、置かれたそれぞれの立場の違いを浮き彫りにするものであった。

    個人的にも故郷を離れて既に30年近い歳月が流れました。相重なる部分もある気がする。故郷を離れる静かなラストシーンがいいですね。。

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著者プロフィール

本名、周樹人。1881年、浙江省紹興生まれ。官僚の家柄であったが、21歳のとき日本へ留学したのち、革新思想に目覚め、清朝による異民族支配を一貫して批判。27歳で帰国し、教職の傍ら、鋭い現実認識と強い民衆愛に基づいた文筆活動を展開。1936年、上海で病死。被圧迫民族の生んだ思想・文学の最高峰としてあまねく評価を得ている。著書に、『狂人日記』『阿Q正伝』『故郷』など多数。

「2018年 『阿Q正伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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