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感想・レビュー・書評
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美人画で名高い上村松園の小文。
美術番組などを見ていると、画家の書いた文が朗読されることがある。明治から昭和にかけてのそうした人たちの言葉はなかなか含蓄があっておもしろい。
松園も短い随筆を多く書いていたようで、青空文庫には80余りが掲載されている。
本作の初出は、大毎美術第九巻第五号(昭和5年5月)。発行元の大毎美術社はおそらく大阪毎日新聞社の系列と思われる。
松園が画家らしい鋭さで、当時の服装や髪形について述べたもの。
「茶の袴」、「束髪」、「着物の柄」、「黄八丈に黒縮緬」、「はわせと桃割」、「揚巻」、「華美な東京の女」、「おしどり」、「裂笄(さきこうがい)」、「流行」、「お高祖頭巾」、「武子夫人」、「モデル」のタイトルで、小文を綴っている。
ところどころ、聞きなれない言葉や使いかたが若干違う言葉があって興味深い。
「あいさ」とは京ことばでときたまのこと。
髪型の「揚巻」を「皮肉で意気なもの」と評している「皮肉」は今の用法とはずれているのではないだろうか。ここでは松園は少し風変わりだが気が利いたものを指しているように思うのだが、さて、このあたりは一般的な用法であったのか、松園の使いかたが少し独特だったのかよくわからないところである。
「華美な東京の女」などはタイトルからして東京モンに対する敵意が見え隠れしておかしい。博物館で見かけた「女の画家」を評して
えらい上手そうな様子で縮図しているのをちょっと窺いて見て、何や下手クソやないかと思ったりした
というあたりは、京おんならしいいけずな感じもするし、実力ある画家の負けん気や矜持もほの見える。
松園の絵にはさまざまな日本髪の女たちが描かれるが、その髪型の1つが「おしどり」。昭和10年には「鴛鴦髷」という絵も描いている。髷の先が鴛鴦の尾のようになっていて愛らしい。
数年前に京都で上村松園展があった際には、髪結いさんがさまざまな髷の実演・再現をする企画もあったそうで、展覧会そのものは見たものの、こちらは行きそびれて残念なことだった。なるほど、日本髪に注目して見ていくと、絵の味わいにも奥行きが増しそうである。詳細をみるコメント0件をすべて表示