ふたりの距離の概算 「古典部」シリーズ (角川文庫) [Kindle]

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  • 『氷菓』、『愚者のエンドロール』、『クドリャフカの順番』、『遠まわりする雛』に続く<古典部>シリーズ第五作が、本作『二人の距離の概算』だ。前作の『遠まわりする雛』は短編集だったが本作ではまた長編に戻り、神山高校の春のイベントである星ヶ谷杯が舞台となる。今回折木が取り組む謎は、一旦は<古典部>への入部を希望した新入生大日向の理由不明の退部という、これまでとは一味違う不思議になる。そういえば、本作ではこの問題が起こる行きがかり上、千反田の「私、気になります!」がきっかけにはなっていない。

    折木たちは自分が2年生に上がったタイミングで新入生の勧誘イベント、通称”新歓祭”に参加することを決める。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」をモットーにする折木は勧誘には積極的ではないし、総務委員の副委員長になってしまった里志も参加は出来ない。それでも後輩を欲しいと思う部長千反田に引っ張られる形で彼らは新入生勧誘に参加し、その結果、新入生大日向友子が仮入部を決める。

    「友達が言っていた・・」を口癖にする彼女は<古典部>メンバー全員とすぐに息が合ったわけではないが、通常はほとんど何も活動していない<古典部>に慣れていき、少しずつメンバーとの距離を近づけていく。しかし彼女は、本入部確定のタイミングで<古典部>への入学を決めず、自分は部活を辞めると千反田に告げてさっていく。そして自分のせいで大日向が退部してしまったと落ちこむ千反田を見て、折木は本当の理由を知るために動き出すのだった。


    日常の謎を解決するミステリであるこの<古典部>シリーズでは、これまでは神山高校最大のイベントである文化祭、通常カンヤ祭を軸に物語が進んでいた。しかし第三作の『クドリャフカの順番』で無事にカンヤ祭が終わり、短編集『遠まわりする雛』で一年生を駆け抜けた<古典部>メンバーは、本作では2年生に昇級。これまで存在は語られていたものの本編には全く関わってこなかった全校マラソン大会、通称星ヶ谷杯に参加しての謎解きが行われる。

    ポリシーを考えれば当然適当に走るに決まっている折木は、このイベントに参加しながら過去のやり取りを思い出し、大日向の退部の理由を探っていくというのが本書の構成になっている。現在のランニングパートと過去のちょっとした出来事のパートが入り組んでいく形となっているが、それぞれのパラグラフの頭で時間軸を明示してくれるので、読者が迷うことはないだろう。

    一応マラソン大会と言っている以上タイムを測って競争をしているはずだが、もともと参加する気が薄い折木にとっては大した問題ではないらしく、物語を読み進めていく上でその方面での緊張感は全くない。しかし折木が大日向の退部の謎を特に当たり、”何が理由だったのか?”という特定の理由を想定せず、”彼女はどのような人間だったか”を掘り下げていくというアプローチをとったために、全体としては程よい緊張感が続く作品となっている。


    その謎解きの対象となる大日向友子という人間だが、登場してすぐに「友達」についてしつこく語るシーンがあるように、読者はすぐに彼女にとって「友達」という存在がキーワードであることがわかるようになっている。これがホラー作品であれば、彼女は過去に友達を殺して埋めてしまった・・みたいな展開になってもおかしくないが、そこは日常の謎を解く<古典部>シリーズなので、そういった不穏な展開にはならない。それでも彼女が見せる「友達」への執着はやや度が過ぎたところがあり、最後の彼女の告白までは不気味な雰囲気が剥がれ落ちることはない。

    <古典部>メンバーが2年生になった影響なのか、それとも人間関係を扱っているテーマによるものなのかはわからないが、これまでの明るく楽しい<古典部>の雰囲気からはやや離れており、シリーズの中でも異色の作品といってもいいかもしれない。

  • 古典部シリーズ5冊目。
    2年生に進級した古典部メンバーと、入部希望の新入生との確執を描く。

    マラソン大会中に確執の原因となった出来事を思い出しながら、走る速度を調整して各クラスの古典部メンバーに話を聞きだし、原因を探り当てていくという面白い構成になっている。高校生の日常らしい舞台がとても良い。

  • 米澤穂信・古典部シリーズ第五弾。
    時間は少し動き、めでたく高校2年生へ進級した古典部の
    面々。2年になるとやらなければならないのは、もちろ
    ん新入生の勧誘(^^;)。いろいろあってようやく1人の新
    入生女子を確保した(かに見えた)古典部だが、彼女は
    程なくして入部の取りやめを宣言。折木奉太郎は、その
    原因の究明に動く。なんと、マラソン大会の最中に・・・
    という感じ。

    約20kmを走る間に事情聴取→推理→原因究明の全てが
    行われる、という面白くも凄まじい展開。普通なら完全
    に無理がありそうな設定だが、そのストーリーが綺麗に
    流れていく様は清々しい上に圧巻である。

    いつものように誰も死なないミステリーだが、妙な緊迫
    感に溢れた物語は、そこらへんのハードボイルド系に勝
    るとも劣らない。実際、これまで読んだシリーズの中で
    は、いちばん面白かった。

    ・・・う〜ん、あと2冊か(^^;)。
    といっても、最後の1冊は企画モノなので、次が実質最
    後。ちょっと寂しくなってきたかも。

  • こちらも最近は敬遠気味だった米澤作品。
    古典部シリーズは評価が高いので、むしろ「気になった」ので、読んでみた。

    想像以上に面白い。思春期の些細な悩みや、それに伴う複雑な心理が、良く描けている。
    シリーズものなので、読みたい方は「氷菓」から読むのをお薦めする。

  • 人部希望の1年が急に辞めた!原因を恒例のマラソン大会の間にホータロが解決する。「友達が言っていた!」は本当にそうだった!友達のためなら、お金の為なら悪いことでもする友だちだった!それは千反田のせいでないこと

  • 読み進めていくうちに、題名がジワジワくる。
    あまりに淡々と話が進んで、面白いと思いつつ、5回以上寝落ちしたな笑

  • 夜のピクニック古典部編といった感じの話。
    日常のミステリーを少しずつ積み重ねて解いていく緻密さは読んでいて心地よい。とは言え、大きな謎であったかと言われるとどうしても頷き辛い。
    キャラクター小説はキャラクターへの魅力がなければ引き込まれづらい。そのせいか個人的に大日向さんのキャラクターにイマイチ共感や感情移入ができず、どうしても話としては流してしまいがちになった。一つ一つのシーンが関係してきて、ああ、あれが伏線になっているのか。という面白みは相変わらずなので、ハッピーエンドとは言えないかもしれないけど読後感も悪くなく、読んでおいて損はない作品とは言える。

  • 奉太郎が走りながら大きな問題を解決していく中で関係するエピソード回想でも謎解きが織り込まれていて楽しく読めた。

  • アニメ版になかった続き。

  • 事件を回顧しつつ紐解いていく、マラソンをしながら。なんとなく青春。
    学園モノで人が死なないので事件性は弱いけど伏線や軽い謎を挟みながら飽きさせず上手く繋げている。千反田さん人が亡くなる話嫌だって言ってたしね。
    終わり方もいい

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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