校本 智恵子抄 (角川文庫) [Kindle]

制作 : 中村 稔 
  • KADOKAWA / 角川書店
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  •  長沼智恵子は裕福な生家のもと、何一つ不自由なく暮らしてきた人だった。既成概念にとらわれない「新しい女性」で、しばしば人をあっと言わせたとされている。高村光太郎とは、互いの個性を理解し、芸術を尊重し合って一緒になった……。

     そんな二人の恋の詩を見つけて、私は早速はまってしまった。

     10代の頃、誰しも恋愛に少しは関心を持つと思う。周りの女の子が少女マンガやトレンディドラマ(!)の恋に興奮し切っていたその季節、私は『智恵子抄』しか目に入らなかったものだ。

     だが、智恵子の生命力は、彼と暮らすことで蝕まれていった。恋は盲目と言うけど、彼らの恋はしっかり目を見開いたものだったからだ。彫刻家、詩人として世間に認められ、あまりにもまぶしく活躍する光太郎を見ながら、智恵子の体は日増しに病んでいった。

     自由な愛ということの危うさ。
     彼女は、しあわせという言葉にさえ、とらわれなかった――

     全般的に、智恵子の感覚は鋭敏すぎた。
     東京には空がないと言い、故郷の空気によって生きてきた彼女の感受性は、それまで繁栄を誇ってきた生家の危機までも、敏感に吸い込んでしまったように思える。

     そして繰り返しになるが、彼女が精神を患った理由の一つは、最愛の男性・光太郎にもあった。光太郎のそばにいるということは、彼の迸るエネルギーを間近で受け止め続ける作業だったのだ。だがその作業は、智恵子以外の誰にもできなかっただろう。これほどには愛せなくて、愛されなくて。

     描写が彫刻のようにぴたりと決まっていて、絵になる場面も多いのだが、のちに著者は「智恵子抄は不完全なもの」と語っている。生活の中の嫌な部分は隠し、一番綺麗な智恵子を書いたのだと。
     そうだろうなぁ、美しすぎるものなぁ。創作者としてまっとうな取捨選択をしてしまう芸術家の性……
     だなんて陳腐な言葉であらわすと、さも悲しいことのようだけど、この『智恵子抄』という見事な”創作作品”を前にして、私たちはただ見惚れるばかりでいいのではないだろうか。

     この本は、智恵子のすべてではなく、彼女のかけらを集めた夢の小箱だ。イメージは時間と共に拡散する。風に踊る。原子に還る……。それをまた回収する小箱『智恵子抄』には、完全版があり得ない。

     息を引き取る間際、レモンを一口かじって光太郎に向けるかすかな笑顔が、せつない。

    レビュージャパン掲載書評『あなたのかけら』

  • 何度読んでも感動する一冊。
    初恋がそのまま愛に到達したような純粋。

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プロフィール

詩:詩人・彫刻家。高村光雲の長男。東京美術学校卒業後、欧米に留学してロダンに傾倒。帰国後、「スバル」同人。耽美的な詩風から理想主義的・人道主義的な詩風へと転じる。代表作:「道程」「智恵子抄」「典型」「ロダンの言葉」等。

「2013年 『女声合唱とピアノのための 組曲 智恵子抄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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