原発難民 放射能雲の下で何が起きたのか (PHP新書) [Kindle]

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  • PHP研究所
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感想・レビュー・書評

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  •  福島原発事故は、想定外の津波によって、引き起こされたと言われている。
    非常用ディーゼル発電機が水没した。電源自動車の電源コードのつなぐ規格が違っていた。などということで、想定外のメルトダウンと理解していた。
     電源自動車の電源コードの規格が違っていたというのは、事前にそのことを訓練していないことを意味していた。やっていることがアホだ。非常用ディーゼル発電機が、水没しやすい位置に置いてあった設計ミスと思っていた。ところが、沸騰水型原発は電源喪失すればメルトダウンに至るというのは、その製造したジェネラルエレクトリック社の安全評価する技術者が「電源喪失すればメルトダウンする構造なので、止めるべきだ」と主張したが、会社はその意見を封印した。そして、その技術者は、安全性が保証できないと公表して会社を辞めたこともわかった。つまり、電源喪失の時点で、必然的にメルトダウンが起こることがわかっていた。
      本書は、原発メルトダウン以後の避難の状況、そしてそこで起こった対立と分断を書いている。「放射能が移るから近寄るな!」「東電からいっぱいもらっているんでしょう?」「地元に帰らず、ホテルに住めていいねえ」などと言われていた状況をあぶり出す。分断された避難者たちの切なさを浮き彫りにする。さらになぜ避難しなければならなかったのか?なぜ被曝しなければならなかったのか?を浮き彫りにする。
     国は、放射能被害の避難すべき地域を、原発を中心とした同心円で考えていた。実際は、風向きが重要だった。放射線の被害を受けたところでも、距離で割り切るので、避難の対応を取らなかった。
     SPEED1が、放射能の飛散を捉えるシステムだった。国は、「原子炉が高温・高圧になって温度計や圧力計が壊れたために、SPEED1のデータは不正確だったから公表しなかった」と堂々と嘘をついていた。SPEED1が機能しなくなった場合でも、その機能をバックアップするPBS(プラント事故挙動データシステム)という予備システムもあった。要は、SPEED1もPBSも文部科学省が管轄していて、きちんと通報することをしなかった。全電源喪失事故は、シビアアクシデントに含まれており、原子力災害対策法特別措置法第十五条に基づき「緊急事態の通報」をおこなっている。それが3月11日の午後4時45分。その時に、避難命令を出す必要があるが、政府も、官僚も知らなかった。それを知っているはずの原子力保安院寺坂昭伸は、きちんと避難命令を出すことを言わなければならなかった。それを言わなかった。まぁ。この寺坂昭伸が、第1級戦犯ですね。これは、国会事故調査委員会で「政治家は十五条通報の意味を理解しなかった。官僚も説明しなかった」と記述されている。十五条通報から1分以内に緊急事態宣言を出し避難命令を出す必要があったが、結果として4時間半以上も時間がかかった。
     また海水を炉心に注ぐと原子炉が使えなくなるということで、1機1兆円が飛ぶ、合わせて数兆円がかかるということで、原子炉を助けようとして、住民の放射能被曝のことを蔑ろにしていた。あぁ。人災なのだ。もっと始末が悪いのは、「格納容器は壊れない」という設置基準で、立地審査指針がなされている。裁判所もその設置基準の判断で、原発の設置や稼働を認めている。それは1964年の当時の原子力安全委員会委員長の内田秀雄東大教授の「格納容器は壊れない」「もし格納容器が壊れても100万年に1回の確率だ」説が受け継がれていた。この人も、戦犯だし、受け継いだ人たちも同罪だね。格納容器が壊れるということを想定して、設置し、稼働する必要がある。
    ①原子力防災の司令室のオフサイトセンターが、福島第1原発から5キロにあって、使えなくなった。②避難のための脱出道路が整備されていない。本来ならアメリカのように原発10キロ以内に民家は作らないとしなくてはいけない。③原発周辺から脱出するバスがない。移動手段の備蓄がない。④原発周辺から脱出する訓練がなされていない。
     原発の国際水準による安全設計は「5層の深層防護」がいるとされているが、日本では3層でしかない。①異常運転と故障の防止。②異常運転の制御と故障の検出。③設計基準内(日本では格納容器が壊れないを前提にしている)への事故の制御の3層である。④沈静化事故の進展防止とシビアアクシデントの影響緩和。⑤避難。放射性物質の放出による放射線影響の緩和。という④と⑤が抜け落ちている。だから原発から3キロ内だけが避難する訓練をしていた。
     「福島第1原発事故の住民被曝は、サッカーで言うとオウンゴールのようなものだ」と原子力防災の専門であった松野元はいう。
     ふーむ。なんか、原子力ムラの官僚、学者の隠蔽、無自覚には驚くばかりだ。事前に指摘があり、想定された原発メルトダウンであり、その後の対応であったねぇ。

  • Kindle Unlimitedで読書。

  • 娘への差別恐れ、「いわき」ナンバーを「北九州」に。

    先日、ネットで目にしたニュースだ。東京電力の福島第一原発の
    事故の影響で、避難生活を余儀なくされている方々への差別や
    偏見は、事故発生直後から続いている。

    避難先で「放射能がうつる」と言われたり、「東京電力からお金い
    っぱいもらっているんでしょう」と言われたり、「ホテルに住めて
    いい」と言われたり。

    誰が好きこのんで住めるはずだった故郷を後にして、不便な
    ホテル住まいなどするものか。

    本書は脱電発や卒原発を語っているのではない。放射能という
    目に見えないものに追い立てられるように逃げて来た人々の
    避難生活と、戻りたいけれど戻れない故郷への思いを記録
    している。

    そして、事故が起きた時、何故、避難するべき人たちに避難指示が
    出ず、避難しなくてもよかった人たちに避難指示が出たのかの疑問
    を追及している。

    政府が発表した同心円での線引きがいかに無意味だったか。実際に
    著者は線量計を手に現地を歩き回って確かめている。

    秀逸なのは四国電力に勤め、原発のリスクと原子力災害について
    の著作がある松野元氏への取材だ。

    SPEEDIのデータ公表が遅れたことについては福島原発事故を
    扱った他の作品でも触れられているが、松野氏に言わせると
    手動での計算が出来たし、あれほどもたつかずに避難勧告が
    出来たとのとだ。

    原発事故自体もそうだけれど、政府の場あたり的な対応も含め、
    あの事故以降に起ったことは人災であったのだよな。

    故郷を出ざるを得なかった人たちに心を寄せ、「何故だ」との思いで
    冷静に書かれたルポルタージュだ。

    ただ、個人的には「フクシマ」との表記の仕方が好きになれない。
    多いよね、「ヒロシマ」「ナガサキ」と同じようにカタカナ表記に
    なっていることが。

    実際「フクシマ」と表記されることに対して、福島の人たちはどう
    感じているのだろうか。

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著者プロフィール

1963年1月京都市生まれ。
1986年、京都大学経済学部を卒業し朝日新聞社に入社。名古屋本社社会部などを経て1991年からニュース週刊誌「アエラ」編集部員。
1992~94年に米国コロンビア大学国際公共政策大学院に自費留学し、軍事・安全保障論で修士号を取得。
1998~99年にアエラ記者としてニューヨークに駐在。
2003年に早期退職。
以後フリーランスの報道記者・写真家として活動している。
主な著書に『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅』(ビジネス社 2013)、『フェイクニュースの見分け方』(新潮社 2017)、『福島第1原発事故10年の現実』(悠人書院 2022年)、『ウクライナ戦争 フェイクニュースを突破する』(ビジネス社 2023)などがある。

「2023年 『ALPS水・海洋排水の12のウソ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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