ロボットとは何か 人の心を映す鏡 (講談社現代新書) [Kindle]

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  • 人間そっくりのアンドロイドを作っている研究者 石黒教授による「人間とは何か」を問う哲学的考察。
    石黒教授の活動を通して、これから世の中の価値観(人間と機械の境界など)が変わっていくのを感じられるはず。

  • 池谷先生の「脳には妙なクセがある」を読み終わり、次の本として手にとったのがこの本でした。

    レビュー記事でも書きましたが「脳には妙なクセがある」のテーマとして敷かれていたのが「意思とはどこから来るのか?」というもの。

    池谷先生の言葉を改めて引くと、

    「自由意志とは本人の錯覚にすぎず、実際の行動の大部分は環境や刺激によって、あるいは普段の習慣によって決まっているということ」

    と指摘されております。

    このテーマはすごく面白い。「我思う故に我あり」的な哲学課題に入り込んでいくこともできますし、量子力学と意識の問題なんかにもつながっていって未だに明確な統一見解が存在しない奥のふかーい問題です。
    個人的にはそこまでまじめにこの問題に頭を悩ませ続けることができるほどのパワーはないんですが、こうして色んな本でこのテーマを見かけるたびにあれこれと考えては楽しんでいます。

    そして、今回池谷先生の言葉を見て僕の思考が飛んだ先は「ロボット」でした。
    自由意思なんてもしかしたら存在しないのかもしれない。周囲の環境やそこから受ける刺激によって反射的に行動をしているだけなのだとしたら、僕たち人間の意思や行動はある意味とても「ロボット的」ということもできるんじゃないか。そしてそれはなにも人間を貶めるような言い方ではなくて、逆にロボットにも意識は存在しうる、ということにつながっていくんじゃないか。
    などなどと思考が進んでいきまして。
    では最新のロボット研究ってどうなってるんだろう、と、早速読みたい本リストの中から探してきた、というわけです。


    と、まぁそんなこんなな理由で手にとったこの本なのですが、問題意識にがっちり合った内容でした。
    本を手にするときはある程度内容やそこから得る学びに期待を込めて読み始めることが多いですが、ここまで問題意識にぴったりなのも珍しくて読み進めながら非常に楽しかったです。


    ・「ロボットも心を持つことができる」
     まず導入部分から心の問題を取り上げることを宣言してくれました。

     「人間には心がある」というのは非常に漠然とした感覚です。心とはどこにどう「ある」ものなんでしょうか。

     この設問に対して、石黒先生は簡単な視点の紹介を取り入れます。
     「心があるのが人間」なのではなく、「相手に心があると感じるのが人間」であると。

     例えばそれは、相手が激昂する様子を見て怒っているのだと理解したり、泣いているのを見て悲しいのだと理解するなどの場面です。自分の心ってなんだろう、と考えるよりは他人の心の方がイメージしやすいですね。ここでは「心」というものは「感情」とほぼ同義で使われているようです。

     そしてここから「ロボットも心を持つことができる」という主張につながります。心とは相手が感じ取るものであるならば、ロボットもふるまい方次第で相手に感情を読み取ってもらうことができるようになるからです。

    ・便利さを求める技術開発。その行く末に見えるのは「人間の本質」
     「人はなぜロボットを作るのか?」というお話。少し話が飛ぶようですが、ばっちりつながってます。

     世の中いろいろなロボットが存在します。また狭義のロボットでなくとも、僕たちの身の回りの家電製品であったり、
    その他の道具であったり我々の周りには多くの人工物があります。これらの共通点は人間の生活における「便利さ」を追求するものであることです。つまり原始的な道具から最先端のロボットに到るまで、ありとあらゆる技術開発は私たちに便利さをもたらすものであり、人間の能力を機械(や道具)に置き換える営みを技術と呼ぶことができます。

    こうした人間の営みを石黒先生は次のように言い換えます。

    「人間はすべての能力を機械に置き換えた後に、何が残るかを見ようとしている」

    ロボット開発とはこうした取り組みの最先端を行くものです。
    近年のロボットを見ていると本当にできることが増えていたり、立ち居振る舞いの人間らしさが増していたりして技術の進歩に驚くことも多いですが、これによって、認知科学、心理学、脳科学といった分野とロボット研究が密に結びつくようになってきているそうです。

    人間の機能を順番に機械に置き換えていくと、人間でないと感じるのは何がなくなったときなんでしょうね。
    そしてロボットが心まで持てるとしたら人間であるとはいったい何なんでしょう。
    そんなこんな考えていますと、いろいろな資質が機械に置き換えられていく攻殻機動隊的な世界の葛藤もそう遠くない未来に訪れそうだなと考えるととてもわくわくするようなおっかないような不思議な感覚になります。

    最先端のロボット研究者がこういう問題に頭を悩ませている、というのはイメージ的にはあまり持っていませんでした。
    しかし、石黒先生に言わせるとロボット研究者こそ人間研究の最先端、ということになるし、どんな営みでも行き着く「基本問題は<物事の起源>と<人間>しかない」ということになるようです。なるほど。
     
    ・ロボットの感覚センサとしてのユビキタス
     ロボットが人間らしくふるまい相手に心を感じさせるためには、関わる相手や自分たちの置かれている環境から情報を収集し、適切な行動を取る必要があります。ロボットの個体として、人間並みの感覚センサを取り付けるというのはまだ現実的ではなくて、それよりは周囲の環境側に情報感覚センサが存在し、ロボットはそれを受容し利用するというユビキタス的な構想の方が近いみたいですね。
     人間の五感の代替機能としてのユビキタスということになるわけですが、これは人間側も利用可能になるんじゃないかなと思います。現在ウェアラブル端末が出始めてまだ全然一般的になるには程遠い状況ではありますが、近い将来端末としてはこなれてきて、「身に付ける」から「埋め込む」への移行も進んでいくような気がする。まぁ埋め込むまでしなくてもユビキタス情報へのアクセスとその活用はできるわけですけどね。変わっていきますよ、きっと。

    ・ジェミノイドと労働問題
     石黒先生そっくりのジェミノイドにまつわるお話。
     ジェミノイドがいることでその場に「居る」ことができる。実験の詳細は読んでみてからのお楽しみですが、ジェミノイドと関わる人にとっては「本人がいる感覚」がするというのは非常に面白いです。

     そしてそこから出てくる課題がまた面白いです。

    ジェミノイドはそこに「居る」ことができる。ただし、実際にその場にいないので労務費が支払われない、という問題が発生するというのです。

    これまで人間とは何か?という哲学的な最先端を走ってきた中から急に現実問題に引っ張られてちょっと笑えます。
    まぁこの問題については制度が追い付いてくるのは遅いでしょうが、それでも時間の問題じゃないかと思います。
    リモートワーク化はどんどん進んでいくので、労働時間やましては労働場所ではなく成果物での評価というのが増えていくと大した問題ではなくなっていくのではないかと。

    それより個人的にこのジェミノイドの活用法で気になった点があります。
    石黒先生の場合は自分の身体を模したジェミノイドが用意されていて、それを活用することができるわけですけど、それは石黒先生にしか利用できないし、また石黒先生にとってもジェミノイドが置いてある場所でしか利用できないということになります。これはとても不便ですよね。使い勝手が悪い。
    使い勝手の良い使える技術になっていくためには、ということで、例えば次のようなアイディアはどうだろう。
    身体の軸になる汎用的なジェミノイドが居て、見た目的な「その人とみなすための情報」はAR技術で一時的に投影します。その人が利用し終えればまたそのジェミノイド端末を利用して別の人がその場に「居る」ことができる、みたいな。いろいろなことができそうで面白いですね。

    ・「人間とは他人の心にはさまれた感覚器の集合にすぎない」
     ジェミノイドの紹介まで終えると再び「心とは何か」の問題に帰ってきます。そこで更に本質的な指摘に進みます。

     それが、ロボット演劇。

    心とは、感情とは、人間が人間同士や、人間とロボットとの相互作用を見て感じる主観的な現象である。そしてそれは優れた直感を持つ演出家の力を借りれば、十分にロボットでも再現可能なものである

     ロボットのふるまいに心を感じる、という本書の主題がもう一度登場します。
     面白そうだなー、ロボット演劇。実際見てみたいです。

    ということで、ロボットについての本ではなく、ロボットを通して考える人間研究について書かれた本でした。
    石黒先生が関わってきた人型ロボットの歴史も簡単に知ることができるのですが、そういう知識的な面よりは、やはり「ロボットって何だろう」とか「ロボットってどう進化していくんだろう」、「SF的な問題はどこまで現実的なんだろう」などなどそういったロボットにまつわる素朴な疑問を考えてみたい人におすすめしたい本です。

  • [配架場所]2F展示 [請求記号]080/K-4 [資料番号]2009110909

  • 人間に近いロボットを研究することは、人間ではないものを研究するということであるが、逆から言うと人間ではないものを知るということは人間を知ることが必要となってくる。
    ロボットに感情を感じる心の働きは、自分の感情そのものではなくて、自分がそう感じていると考えているものであるというのがなかなか奥深い。
    ロボットを研究する=人間を研究する=哲学の書であった。
    いかなる職業も人間と関わっている以上それは哲学的な営みであると著者が述べているのがしっくり腑に落ちた。

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